ゼロ金利といわれる現在でも、日本人の預金保有額は増える一方。なぜ投資で資産を形成することに抵抗が大きいのでしょうか。

■本気を出した金融庁

政府から「貯蓄から投資へ」のスローガンが発せられて久しいですが、日本人の現預金保有額は1千兆円規模にまで増大しています。これがすべてゼロ金利のまま退蔵されている現状を強烈な危機感で捉えた金融庁は、「貯蓄から資産形成へ」とフレーズを換えて、生活者が真っ当な投資行動を起こすよう本気で働きかけ始めています。

金融庁はなぜキャッチフレーズを「投資へ」から「資産形成へ」と換える必要があったのでしょうか。それはこの国において「投資」という言葉がネガティブワードであり、悪いイメージで定着してしまっているからです。要するに世間一般では「投資=資産形成の手段」とは理解されていないからなのです。

■なぜ「投資」はネガティブイメージなのか

※写真はイメージです(写真=iStock.com/Tzido)

それでは、世間で思われている「投資」のイメージとはどんなものなのでしょうか。多くの人が株式投資と言えば、株を売ったり買ったりすることであり、相場で勝負することだと思っているのではないでしょうか。皆さんも、今すぐ値上がりする銘柄を当てて、値上がりしたらすぐに売却、これを繰り返しながら儲けを増やしていくのが投資の極意だと思っていませんか?

こうした行為は決して投資とは言えず、単なる取引です。そして目先の相場の値動きを予測して勝負するという考え方は、多分に投機的行為と換言できます。これら一連の行為は株式の短期売買にすぎず、リターンの源泉はもっぱら値動きです。実は日々の相場の値動きはプロでも当てることはできません。なぜなら短期的な価格の変動は市場参加者たちの買いたい、売りたいという感情や思惑の集積で動くものなので、合理的に予測することはできず、でたらめな上下の反復運動を繰り返しているものなのです。つまりそれを予測して勝負するのですから、そこに合理性は存在せず、ゆえに「投機」(ギャンブル)なのです。

■本物の投資は時間がかかる

では「投資」とは何か? それは実体経済の中に資金を投ずる行動です。経済活動にはお金が必要であることは言うまでもありません。産業界は世の中がより便利で豊かになり、生活者を喜ばせ満足させることを目的に事業を行っています。そうした付加価値を提供するためには、産業に携わる人々のたゆまぬ努力と共に多くの資金が不可欠で、本来投資とは実体経済における資金需要に応える立派な金融行為なのです。

そしてビジネスが実現する付加価値こそが経済成長の源泉です。つまり本物の投資のリターンは相場の値動きではなく、投資した先が新たな価値を実現する=成長からもたらされるもの。成長して増えた価値から、「あなたの資金提供のおかげですてきな価値を創出できました」と御礼として受け取る分配なのです。

そこでちょっと思いを巡らせてほしいのは、世の中が便利で豊かになり幸せがたくさん増えるようなビジネスの価値創造には、何年もの時間が必要だということです。本物の投資とは経済活動の成長を支えるための資金供給であり、リターンは成長の実現によって合理的にもたらされるものですが、そのためには長い時間を与えないといけない。つまり本物の投資は長期しかあり得ないということです。読者の皆さんは投機と投資の違いがわかりましたか? そしていかに日本では投資への誤解がまん延してしまっているか。

■投資マネーは経済活動の糧

真っ当な投資マネーは経済活動の糧です。そして投資とは、より豊かな社会の実現への意志を込めた資金提供であり、すなわち未来へ向けた立派な社会貢献の一環なのです。結果として豊かさの実現という成長から御礼でいただくのがリターンと考えれば、成長が見いだせる先に投資すればお金は合理的に育つ。それを資産形成手段としてあまねく生活者に実践してもらおうと、国は「イデコ」や「つみたてNISA」といった投資非課税制度を整備したわけです。

これらの非課税制度は長期でお金を合理的に育てていくための仕組みであり、利用しない手はありません。

次回は本物の投資へと一歩を踏み出したいと考えている読者の皆さんに向けて、その行動場所として最適な「イデコ」と「つみたてNISA」の具体的活用の仕方へと話を進めてまいりましょう。

(セゾン投信代表取締役社長 中野 晴啓 写真=iStock.com)