滅多に報道陣に公開されない工場を特別に取材

 ホンダのパワーユニットを積んだレッドブルF1のマックス・フェルスタッペン選手が、2019年F1開幕戦オーストラリアGPで3位入賞。ホンダにF1復帰後、初のポディウムをもたらしたわけですが、ホンダのパワーユニットというのはF1を頂点とした四輪車、MotoGPを頂点とした二輪車だけでなく、さまざまなシーンでいろいろな用途に使われています。

 代表例が、ボートなどを動かす船外機、畑で使われる耕うん機。発電機、除雪機、芝刈り機などもホンダは作っています。そうした船外機や汎用エンジン機を統括しているのがパワープロダクツ事業本部。船外機を作っているのが「パワープロダクツ事業本部 細江船外機工場」です。すぐに製品テストができるよう、浜名湖に隣接した細江船外機工場では、おおよそ年間10万機のペースで船外機が生産されているということです。生産する製品のラインアップも8馬力の「BF8」から250馬力の「BF250」まで幅広く、それらがフレキシブルな生産ラインにて組み立てられているといいます。

 滅多に報道陣へ公開されることのない細江船外機工場を、今回取材することができました。船外機というのはエンジンからギヤを介してダイレクトにプロペラ(スクリュー)を回しているという構造です。そのため完成品の状態でいうとエンジンは、クルマとは異なりクランクシャフトが縦に貫くように置かれているのですが、そうした構造も組み立てラインでは見ることができました。

 しかも、出力の大きな船外機で使われているエンジンは、四輪車で見覚えのあるものばかり。V6エンジンはレジェンドなどで使われているものと基本的に同じということです。それだけの大出力のある船外機まで、細江船外機工場では有資格者により完成機検査を実施しています。小さな水槽で完成機検査を行う際に、プロペラがついたままではトラブルになってしまうので「ムリネ」という一定の負荷をかけられるものをプロペラの代わりに付けるというということも教えてもらいました。

 工場の中をひとまわりした後は、生まれて初めてのボート体験です。細江船外機工場内の小さな港で乗り込んだボートの後方に備え付けられていた船外機は、「BF135A」。名前の通り135馬力で、エンジンは2.4L4気筒を使っています。ホンダのファンならご存知の「K24A」型と基本的に同じユニットということです。

耕うん機や発電機の始動性の良さに驚いた

 浜名湖に繰り出し、まずはボートのダイレクトな動きに古典的なモビリティとしての魅力が詰まっていることを感じたのちに、許可されたエリアでボートを動かしてみます。スロットルを開くと、エンジン回転が上昇、速度が上がっていきます。前述のようにエンジンとプロペラはダイレクトにつながっているので、リニアリティという面ではクルマ以上なのは驚きの発見です。内燃機関が好きな人にはたまらない乗り物といえそうです。

 さて、パワープロダクツ事業本部でもある細江船外機工場には、汎用エンジンを使った耕うん機などを試すための農園も用意されています。せっかくの機会ということで、ご好意で耕うん機や芝刈り機の体験もできました。こちらも初めての体験だったので、どのように優れているのかはわかりませんが、エンジンの始動性が非常に優れていることは印象的です。

 この手の汎用エンジンを使った道具にセルモーターなどはなく、ひもを引っ張るリコイルスターターによってエンジンをかけます。リコイルスターターによる始動は慣れが必要で、一発始動は難しいという印象もありますが、ホンダの汎用エンジンは冷えた状態からでも簡単に始動します。また、リコイルスターターを引く力もさほど必要ではなく、手軽に使える道具として、作り込まれていることが確認できました。

 とくに家庭用カセット型ガスボンベを使う、ホンダ独自の耕うん機「ピアンタ」や発電機「エネポ」の始動性は良好で、汎用エンジン機器に慣れていないユーザーでも簡単に使えるというのは本当だと実感しました。さらに、ガソリンと違って長期保存のしやすいカセット型ガスボンベを使う発電機は、災害時のバックアップ用としても有効なのだそうです。そうした製品の使い勝手や耐久性などを確認しているのも、じつは細江船外機工場の役割だということを、今回の訪問で知ることになった事実でした。

 海や畑で活躍するホンダのパワープロダクツにも、四輪や二輪で培ってきた信頼性や楽しさが生きているのです。