2019年はまだ5月なのに各地で30度超の気温を記録しており、早くもエアコンをつけたくてしょうがなくなっている人も多いはず。エアコンは部屋単位で空気を暖めたり冷たくしたりできる装置ですが、この時期に使うと一部の人は快適でも別の人は寒がってしまうこともあり、なかなか使いづらいものです。そんな時にピッタリな、人間をひとりだけピンポイントで冷やしたり暖めたりすることができる、「個人用エアコン」とも呼べるパッチが開発されました。

Wearable thermoelectrics for personalized thermoregulation | Science Advances

https://advances.sciencemag.org/content/5/5/eaaw0536



Air conditioner ‘in a patch’ provides portable cooling : Research Highlights

https://www.nature.com/articles/d41586-019-01576-x

熱電システムは半導体を使用してデバイスの一方側からもう一方側に熱を送り込み、低温領域と高温領域を作り出すことができるというものです。このようなシステムを用いることで「コンパクトかつ簡単に温度調整が可能な冷却装置」を作り出すことが可能です。しかし、これまでの技術では効率的に熱を逃がすことは困難であるとされていました。

そんな中、カリフォルニア大学サンディエゴ校のRenkun Chen氏とSheng Xu氏らによる研究チームが、2つの伸縮性ポリマーシートの間に複数の柱上の半導体材料を埋め込むことで、熱電システムを用いて「コンパクトかつ簡単に温度調整が可能な冷却装置」(TED)を作り出すことに成功しました。

TEDの作成には柔軟性の高いバッテリーパックを開発して組み込むことが必要だった模様。開発チームによると、作成したTEDは肌を10度以上も冷却する効果があります。以下の写真が作成した試作品のTEDです。



Chen氏らが開発した「2つの伸縮性ポリマーシートの間に複数の柱上の半導体材料を埋め込んだシート」(熱電シート)がBの画像。サイズは5cm×5cm程度です。その隣にあるのがChen氏らが開発したシートの内部構造を示すもので、白色部分が伸縮性のポリマーシート、中にある茶色のものがフレキシブルな銅製の電極、「TE pillars」と書かれているのが「熱電」柱。Aの画像部分にあるように、ベストやアームバンドなどの中に熱電シートを取り付けることで、TEDとして使えるようになる模様。熱電柱の高さは5mmなので、熱電シートの薄さは「5mm以上1cm以下」となります。



伸縮性ポリマーシートは片方が過熱シート、もう片方が冷却シートとして働くようになっており、それぞれのシートは絶縁状態にあります。2つのシートが絶縁状態にあるため、過熱シートが熱を空気中に拡散したり、冷却シートにより冷気を空気中に拡散したりすることが可能になるとのこと。

Bの画像はTEDのON時(グレー)とOFF時(白)の外気温度(T air:黒色線)と肌温度(T skin:ピンク色線)を現すグラフです。TEDをONにすると体温を一定(32度)に保つことができるとよくわかるはず。Cの画像はTEDをONにした状態で撮影したサーマル画像で、TED部分が暖かく(42度前後)なっていることがわかります。Dの画像は逆にTEDで肌を冷却した際のサーマル画像で、TED部分の温度が他の部分よりも低下しています。Eの画像はTEDをON時(ピンク色線)とOFF時(黒色線)で外気温度と肌温度を測定したもの。外が寒ければTEDが肌を暖め、暑ければ肌を冷やしてくれることがわかります。



科学誌のNatureによると、Chen氏らが開発した「個人用エアコン」のようなものを用いることで、既存のエアコンと比較して電力を20%も削減できるとのこと。これにより電力削減につながるだけでなく、夏や冬にも屋外でより快適に過ごせるようになります。