北海道新幹線H5系。青函トンネル区間の最高速度は時速20kmアップで時速160kmとなった(撮影:久保田 敦)

鉄道ジャーナル社の協力を得て、『鉄道ジャーナル』2019年7月号「北海道新幹線における『壁』とは」を再構成した記事を掲載します。

青函トンネルを挟む北海道新幹線と貨物列車が共用する三線軌区間は2008年から工事が開始され、同時に速度をいかに設定するかが検討されてきた。2010年には新幹線の高速化を切望するJR北海道からトレイン・オン・トレイン(T on T)構想も示されたが、翌年に東日本大震災が発生し、また、JR北海道も相次ぐ事故等で経営悪化が明るみに出て頓挫した。

以来、震災に鑑み地震発生時の安全に対するハードルがより高く要求されるようになり、2012年に国土交通省の交通政策審議会に、青函共用走行区間技術検討ワーキンググループ(WG)が設けられた。

いよいよ時速200卅行も

このWGの検討により、大地震時に貨物列車の荷崩れがないとは言い切れないとして、2016年3月の開業時は、線間に限界支障検知装置を設けたうえで在来線特急と同レベルの時速140km走行でスタートした。

しかし「遅い」のは共通認識であったため、引き続き検討会で海峡域に大きな活断層や海溝型地震の震源域がないことを確認し、時速160km走行でも貨物列車とのすれ違いの安全は保てると判断、昨2018年9月に青函トンネルの保有主体である鉄道・運輸機構により実地の高速化試験が行われた。

内容は大別して2つで、第1が時速160kmでのすれ違い試験。安全を担保するため試験列車は時速180kmまで引き上げて検証した。第2は時速200kmを目指す高速化試験。これは2020年度を目標に、ゴールデンウイークや年末年始などに下りの一部臨時列車等で速度を引き上げるとするもの。

期間限定の臨時列車でというのは、人の動きが激増する一方で物流は大幅に減る時期、貨物列車が走らない時間帯を作って行うためである。また、下り限定の理由は、上下線で異なるダイヤ調整の関係であろう。

ところで、この試験期間中に北海道胆振東部地震が発生したため、時速180km走行を確認した段階で試験は中断となっている。積み残しとなった高速化試験は今年、実施日のダイヤを空ける日程調整を行い、改めて実施する。

この結果、まずは青函トンネル内時速160km走行が実現し東京―新函館北斗間3時間58分の列車が登場した。

だが、こうした動きは歓迎される一方、3年前の開業に間に合わせてくれれば……などの恨み節が聞こえないわけではない。4時間切りを達成したものの大いに限定的であるし、新幹線の名にふさわしい時速200km走行はさらに期間を絞った臨時列車となる。

1970年代までさかのぼる枠組みに縛られ、今も時速260kmに抑えられている整備新幹線と同様、青函の貨物走行についても多くの関係者の利害、それぞれの負担能力や意志が絡み、ことがこの期に及ぶまで牽制し合う状況があったようだ。かなり以前の段階で、高速走行に耐える貨車の新造に国が助成する案もあったと聞くが、実現はしなかった。

成り行きが大いに注目されたT on Tも、現在のJR北海道の体力では新規開発は困難として止まったままだ。代わって貨物列車を最新技術のフェリーを新造して航送する案や第2青函トンネルを作る案も出てきたが、今のところ提唱されたという段階にとどまっている。

2030年札幌開業、そのとき

北海道新幹線は、今後2030年度開業を目指して札幌までの延伸工事が行われている。その少し具体的な姿が、4月9日に発表されたJR北海道の「長期経営ビジョン」で明らかになった。

まずは「輸送サービスの変革」の1つとして「東京―札幌間4時間半への挑戦」を掲げている。そのため共用走行問題を抜本的に解決するとともに、時速320kmの高速化を挙げる。これは、時速360km化を目指すJR東日本の車両開発や整備新幹線の整備主体である鉄道・運輸機構との連携を図って進めてゆく。「挑戦」という語句を用いた点に、新幹線に託す決意と、ハードルの高さも感じられる。

この東京―札幌間4時間半運転はWGでの検討が続けられる。また、この5月に試験車両ALFA-Xも完成する東北新幹線の時速360km化は、国土交通省とJR東日本が協議中で、整備新幹線区間の速度向上も国土省と関係者の協議が持たれている。道内の高速走行については、貨物問題や防音壁等の設備の変更のほか、本州あるいは道南とも異なる雪質の問題が大きく関わってくる。

今回の発表で、東京―札幌間4時間半の看板とともに道内主要駅間の所要時間を示したことも、JR北海道としてはアピールしたい点である。それによると、札幌―新青森間1時間半、札幌―新函館北斗間1時間、札幌―倶知安間30分とされた。札函間1時間は、現在3時間30〜40分を要する在来線気動車特急に対して劇的な短縮であるばかりか、丘珠〜函館間の航空よりも短い時間で都市間の移動ができる。


新函館北斗駅の東京からの実キロは823.7km。これまでの考えでは鉄道がトップシェアを握れる距離帯をやや超えているので今後の対策に期待がかかる(撮影:久保田 敦)

函館は旭川に次ぐ北海道第3の都市でありビジネス流動が期待できるほか、道内で発生する観光需要の最大の目的地とされる。この時間が持つインパクトは、道内に漂っている北海道新幹線に対する懐疑論や無関心に一石を投じると期待される。

また、倶知安を掲げているのは、ウィンタースポーツなどのリゾート地としてインバウンドに絶大な人気を得ているニセコの玄関であり、新幹線からの接続交通体系づくりが、これもまたJR北海道にとって重要なためである。

貨物共用走行、並行在来線など課題山積

同時に、長期ビジョンでは、2031年度の連結最終利益を黒字化し、国の支援なしで経営の自立を図ることを目標として示しているが、その中に、JR北海道単独では解決が困難な課題として、北海道新幹線の共用走行問題の解決と合わせて青函トンネルの維持管理等に係る問題の解消を挙げている。

現在、青函トンネルは鉄道・運輸機構が保有するものの、JR北海道は線路使用料のほか日常的な保守費についても負担し、しかも現在は基本的にJR貨物の列車しか使用しない在来線専用の分岐器等線路設備も、JR北海道の負担と区分されている。それに対する枠組みの再考を、JR北海道として求めている部分である。

新幹線札幌延伸時の並行在来線の扱い等も重大な検討事項であるが、まだ具体的な協議には入っていない。残された期間は10年ほど。もはや猶予はなくなってきており、急ぎ協議の場を設けていかなければならない。

北海道新幹線が札幌開業を迎えると、最大限の目標を達成できたとして東京―札幌間4時間半。「4時間の壁」があるとすれば、単純にはその壁を破れないことになる。しかし、そこで期待され、すでにキャラバン等で誘客の取り組みが展開されているのが、東京圏北部のさいたま市(大宮)はじめ、北関東や南東北エリアである。

大宮の地の利は非常によく、単に周辺だけでなく埼京線や湘南新宿ラインで新宿や池袋から30分、武蔵野線等を使って東京西郊の多摩地区からも集客される。新幹線での東京―大宮間所要時間は現行23分程度で、近い将来、設備改良による速度向上で1分程度の短縮が見込まれるが、そう大きな変化はない。すると大宮―札幌間は4時間強といった線が導き出される。

飛行機利用の場合、大宮駅から羽田へ最速でも70分程度、それから新千歳へ飛んで札幌へ入ると、やはりトータルで4時間程度となる。主たる乗り物に乗っている時間が短いほうを好むか、乗り換えの少ないほうを好むかの志向によるが、拮抗した競争になるだろう。


2018年6月と7月に計3日、初めて6時大宮始発、新函館北斗行き臨時列車の「はやぶさ101号」が運転された。定期運転の新函館北斗行き1号(東京6時32分、大宮6時58分)より1時間早い時間帯で、さらに二戸以北各駅停車の1号に対して主要駅のみ停車として北海道により早く入ることを明確に打ち出した。新函館北斗到着9時41分だから所要時間は3時間41分。

これがインターネット限定の「えきねっと」や「モバイルSuica」により50%割引(1万円前後)で販売されて大好評を博し、およそ7〜8割の乗車率で青函トンネルを越えたと言う。これは大いなる試行であったはずだ。

「はやぶさ」の宇都宮停車は?

これに鑑みると、定期運転についても期待をかけたいところとなる。東京―大宮間はダイヤが過密なため新たな列車の挿入は困難だが、大宮始発ならば余地がある。また、かねて地元から要望が出されている「はやぶさ」の宇都宮停車についても、首都圏北部をターゲットに位置付ける大宮始発列車ならば応じられるのではないか。

札幌市の人口は約197万人で、福岡の158万や広島の120万を大きく上回る大都市である。10年先の札幌延伸時に現状のまま1時間1本ペースではないであろうから、まったく刷新されたダイヤを想像するのも興味深い。一方、そのような活況が感じられる列車ダイヤへと持ち込むためには、価格やサービスが変わり、最高級のグランクラスだけではなく豊かなサービスが築かれていてほしいものだ。