「原発の代替なるか? 大規模な洋上風力発電が、ついに米国で本格稼働する」の写真・リンク付きの記事はこちら

マサチューセッツ州にあるピルグリム原子力発電所が、2019年6月1日に閉鎖される。米国内の経済が悪化するなか、稼働コストが上昇していることが理由だ。

しかし、老朽化した原子力発電所で発電されていた電力は、まもなく二酸化炭素を発生させない別の方法に取って代わられるだろう。その方法とは、洋上風力発電だ。海面からの高さが650フィート(約198メートル)の風力タービン84基が設置されている。このプロジェクトを進めているのは、マサチューセッツ州ニューベッドフォードの風力発電会社Vineyard Windだ。

同社のプロジェクトを請け負う開発業者によると、タービンは22年中に稼働を始め、800メガワットを発電するという。これは、大規模な石炭火力発電所の出力に相当する発電規模で、ピルグリム原発の640メガワットを上回ることになる。設置場所は、マサチューセッツ州にあるマーサズ・ヴィニヤード島の14マイル(約22.5km)南方の沖合いだ。

「ついに洋上風力発電がやってきました」と、Vineyard Windの最高開発責任者(CDO)であるエリック・スティーヴンズは話す。同社は、デンマークとスペインの風力発電会社から支援を受けている。

スティーヴンズの説明によると、風力発電所の運用コストは、開発業者に取り合ってもらえるほどには抑えられるようになってきたという。「風力発電のコストが低くなっただけではなく、海中のこれまでよりも深い位置にタービンを設置できるようになったことから、設置コストが下がったのです」

原子力発電の代替エネルギーになる得るか

マサチューセッツ州の公益事業部(DPU)は、Vineyard Windとの間で20年間にわたり1キロワット/時あたり8.9セント(約10円)で電力を供給する契約を19年4月に締結した。これはカナダの水力発電など、ほかの再生可能エネルギーにかかるコストのおよそ3分の1にすぎない。電気料金を支払っている人全体で見ると、20年間で13億ドル(約1,438億円)を節約できるという。

しかしながら洋上風力発電は、ピルグリム原発やほかの原発の穴を埋めることができるのだろうか? 風力発電の賛成派はできると思っている。ただ、それは陸地にある既存の送電線とうまく接続できると同時に、漁業や海洋生物に与えるかもしれない悪影響にまつわる懸念に対応できることが前提だろう。

風力発電は米国において目新しいものではない。41州とグアム、プエルトリコに56,000基の風力タービンがあり、全米で96,433メガワットを出力している。しかし、洋上にある大規模な風力発電所はまだ稼働していない。そこでは、ビルや山にさえぎられることなく、安定的に強い風が吹く特徴があるのだ。

風力タービンは、ここ数年で大きくなり、塔も高くなっている。このため、5年前と比較して発電量は3倍になった。併せて、遠洋にタービンを導入するために必要な技術も改良されたほか、海辺のコミュニティから以前よりも受け入れられるようになっている。

「風力タービンは大きければ大きいほどいいでしょうね」と、風力発電に関係するメーカーと開発事業者の代理を務める法律事務所K&L Gatesで、電力グループのコーディネーターを務めるデイヴィッド・ハッテリーは語る。海上の強風を生かして力を生み出すには、タービンと羽根は大きいほうがよりよく機能するからだ。

「気流が激しいため、ベアリングとギアボックスは摩耗してしまいます。沖合にあるタービンの故障は避けたいところです。修理にはとてもお金がかかりますから」と、ハッテリーは言う。

巨大化するタービン事情

タービンの巨大化で競争が激化するなか、Vineyard Windは直径174mのローターを擁する出力9.5メガワットのタービンを使用する予定だ。これは多くの標準的な風力発電機と比べても非常に大きい。

しかし、ゼネラル・エレクトリック(GE)は、もっと大きなタービン「Haliade-X」を18年に発表した。これは21年に完成予定で、12メガワットを出力する。各タービンの翼幅は220mに達し、ヨーロッパで16,000戸に供給するのに十分な電力を生み出すことが可能だ。

GEは洋上風力発電用として、この“怪物”をヨーロッパで建設している。ヨーロッパでは、大陸全体の電力のうち14パーセント(米国では6.5パーセント)を風力でまかなう。

「われわれはいま、まさにふさわしいマシンを保有していると感じています」。GEリニューアブルエナジーの洋上風力発電事業における最高経営責任者(CEO)ジョン・ラヴェルはこう語る。

洋上風力発電のポテンシャル

米当局は、洋上風力発電に利用できる場所が米国近海には多く存在すると考えている。米国エネルギー省(DOE)によると、潜在的に2,000ギガワット以上の容量、あるいは年に7,200テラワット/時の発電量があるという。これは米国が現在使用している電力量の倍近くに当たる。このうちたった1パーセントでも実用化できれば、650万戸近くに洋上風力発電による電力を供給できるだろう。

当然ながら、このようなタービンを建設して稼働させるには、何年にもわたる計画期間に加えて連邦や州による数々の許可が必要だ。ただ、連邦政府がタービンの設置場所を管理する新しい規則をここ5年で導入したことで、状況は若干よくなった。また、内務省の海洋エネルギー管理局(BOEM)は洋上リースのための区域を設け、風力発電所を開発する企業からの入札を受け付けている。

初の洋上風力発電プロジェクトは、タービン5基を擁する30メガワット出力の風力発電所だ。16年の終わりごろから稼働しており、ロードアイランド州にあるリゾート地のブロック島で稼働していたディーゼル発電に代わって導入された。

洋上風力発電業者のDeepwater Windが開発を担当しており、東海岸沿いに風力発電所を建設する15の有効な計画がある。ほかにも、カリフォルニア、ハワイ、サウスカロライナ、ニューヨークで計画が進行している。

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“届かない延長コード”のような失敗も

連邦政府のプランナーにタービンの設置場所を決めてもらうことで、開発者はかつて「ケープ・ウィンド・プロジェクト」で起きたような大失敗を避けたいと考えている。このプロジェクトは、ナンタケット島とマーサズ・ヴィニヤード島、ケープコッドに挟まれた浅瀬の海域であるナンタケット海峡沖で計画されていた。

開発業者は大きな望みをもって2001年に開発を始めた。しかし、地域住民、漁業従事者、そして家からタービンが見える米国の名家ケネディ家と大富豪であるコーク兄弟との数年に及ぶ訴訟を経て、17年に事業を停止した。

それはあたかも、リビングルームまで届かない延長コードのようだった──。既存の海底ケーブルの長さが限られていたことから、ケープ・ウィンドの開発事業はナンタケット海峡で立ち往生してしまったのである。しかし、新たな海底送電機能を使えば、浜辺に建つ家々や商用海路、クジラの移動経路から離れて、タービンをもっと遠洋に設置することは可能になる。

電力を陸地に送るコストは誰が負担するのか?

「ケーブルを遠くまで伸ばせても、電力を陸地まで送り返すことに誰かが依然としてお金を払わなければなりません」。米国電力研究所(EPRI)で統合送電分野のヴァイスプレジデントを務めるマーク・マクグラナハンはこう話す。

マクグラナハンによると、デンマークとドイツでは、タービンから出力される交流(AC)を直流(DC)に変換する洋上の変電所と、そのような長距離送電に対して政府が支払いをしているという。しかし、ここ米国では、そのようなコストを公共料金や税金から支払わなければならないだろうとマクグラナハンは予想している。

「洋上風力発電は完全に現実のものとなり、われわれはそれをどうやって動かしていくのかを知っています。そこで浮上する問題のひとつが、電力を陸地に送るインフラの費用を誰が負担するのかということです」

問題はコストだけではない。陸地の家の近くをケーブルが通るのを嫌う近隣住民や、漁場がなくなるのを危惧する漁業従事者、洋上の発電所の建設がクジラやイルカなどの音に敏感な海洋哺乳類に悪影響を与えると懸念する環境保護の推進派にも、洋上風力発電の開発業者は敏感にならなければならないのだ。

それでも、放射性廃棄物を捨てる安全な場所を探すよりは簡単だろう。放射性廃棄物は、ピルグリム原発およびほかの原発97カ所の周辺に、いまも積み上げられ続けているのである。