金正恩(キム・ジョンウン)氏

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脱北して中国に逃げ込んだ多くの北朝鮮人女性が、強制売春や結婚などの人身売買の被害に遭っていることは、本欄でも繰り返し言及してきた。そしてこのほど、その実態を探った調査報告書が、新たに発表された。

米政府系のボイス・オブ・アメリカ(VOA)などによると、英国のNGO、コリア・フューチャー・イニシアティブは20日、中国国内の脱北女性に関する実態調査をまとめた報告書を英国下院に提出したという。

そこに収められた被害者の証言は、残酷の一語に尽きる。たとえばある女性は、次のように語っている。

「14歳だったころ、中国に住む母のいとこが私に(吉林省)延辺朝鮮族自治州の繊維工場での仕事を斡旋してくれることになった。夜になってブローカーと共に国境の川を渡り、目的地の家に着いたとき、私はすべてが嘘であったことに気付いた。36歳の男が私を2万4000元(約38万3000円)で買ったのだった。私は彼の母に出産を求められる前に逃げ出した」

被害女性の中には、こうして人権侵害を重ねられた挙句、逃げることもかなわず非業の死を遂げる人々も少なくないという。

(参考記事:「性暴力の末に非業の死も」北朝鮮女性の人身売買はこうして行われる

また報告書では、9歳の少女がサイバーセックスによる被害に遭っているとされているが、これほど幼い被害事例は筆者も聞いたことがなかった。

北朝鮮においては、人身売買以外にも様々な形による女性への性的虐待が横行して、そうした実態についても繰り返し告発がなされてきた。

その現状を根底から変えるには、北朝鮮の体制と社会の変革を待つほかなく、被害女性の速やかな救済は現実的に相当な困難を伴なう。しかし人身売買の問題については、各国政府は少なくとも具体的な行動を起こすことが可能だ。

北朝鮮に協力し、脱北者を摘発・強制送還している中国に対し、そのような行動を止めるよう求めるのだ。

北朝鮮女性の人身売買被害がなくならないのは、中国当局に訴えても不法入国により強制送還されるだけで、保護を受けることができないからだ。強制送還されれば、本国の収容施設で拷問を含む虐待が待ち受けている。

中国が北朝鮮との間で結んでいる「辺境地域の国家安全と社会秩序維持業務のための相互協力議定書」には、「住民の違法越境防止業務」(第4条)、「犯罪者処理問題での相互協力」(第5条)、「犯罪人、違法越境などの引継ぎ手続き」(第9条2項)などが規定されている。これらを根拠に、中国は北朝鮮との条約上、脱北者を送還する義務があると主張している。

しかし、中国が1988年10月に加入した「国連拷問等禁止条約」は第3条で、「いかなる当事国も、拷問を受ける恐れがあると思われる相当の根拠がある他の国に、個人を追放・送還もしくは引き渡してはならない」と規定している。たとえ難民だと見なされない人であっても、拷問が横行する北朝鮮のような国に無理やり送り返してはならないということだ。

脱北者を強制送還する中国の行動は、国際条約に対する違反行為であると同時に、北朝鮮の非民主的な体制の横暴を助長する行為だ。日本を含め、北朝鮮における人権侵害を厳しく批判してきた国々の政府は、中国に対しても強い非難を行って当然だろう。