2019年5月20日、日本テレビ系列の朝の情報番組「ZIP!」で、兵庫県の朝ごはんとして「イカナゴの釘煮」が取り上げられ、話題となった。一時、「イカナゴ」というワードがトレンド入りをする勢いで、ネット上で注目を集めたのだ。


イカナゴの釘煮(Ro-~commonswikiさん撮影、Wikimedia Commonsより)

「兵庫の春といったらいかなごだよねー!」「いかなごのくぎ煮ほんま美味いよなぁ」と共感する声が上がる一方で、イカナゴの釘煮が「兵庫県の郷土料理」として紹介されたことに、衝撃を受けた人もいたようだ。

実際、ZIP!のVTRに出演したアメリカ生まれ、神奈川・平塚育ちのタレント・マーティンさん(24)も、イカナゴの釘煮が何なのか分からなかった様子。これにツイッターでは、次のような反応が相次いだ。

「え?みんないかなごのくぎ煮って知らんの?」
「いかなごの釘煮って兵庫だけなの?全国共通かと思ってた」
「え、いかなごって全国区の食べ物じゃないん びっくりやわ」

イカナゴの釘煮が全国で食べられていると思っていた兵庫県民からの率直な感想である。

「ZIPでいかなごのくぎ煮。 関西では普通にどこのスーパーでもあるし家でも作ってたけど、学生時代他地方の子達が全く知らなくてローカルグルメやった事にビックリしたな(笑)」という体験を投稿する人もいた。

読者の皆さんは、イカナゴをご存じだろうか?

「イカナゴの釘煮でごはん何杯でも食えるぞ」


ご飯にのせたイカナゴの釘煮(Ro-~commonswikiさん撮影、Wikimedia Commonsより)

イカナゴは、スズキ目イカナゴ科の魚類で、北半球の寒帯域から温帯域を中心に生息する、どちらかというと北方系の魚だ。

稚魚は東日本で「コウナゴ(小女子)」、西日本で「シンコ(新子)」などと呼ばれている。1歳で10センチ程度まで成長し、さらに大きくなると「オオナゴ」、東北で「メロウド」、西日本では「フルセ」、「カマスゴ」などと、呼ばれるらしい。


山陽自動車道三木サービスエリアで販売されていたイカナゴの釘煮(Mtiさん撮影、Wikimedia Commonsより)

「イカナゴの釘煮」が親しまれているのは、兵庫県淡路島や播磨地区から阪神地区にかけての瀬戸内海東部沿岸部、播磨灘や大阪湾だ。

イカナゴの稚魚(新子)を平釜で醤油やみりん、砂糖、生姜などで煮込む。炊き上がったイカナゴの幼魚は茶色く曲がっており、錆びた釘に見えることから、「釘煮」と呼ばれるようになったと伝えられる。


イカナゴ(Wikimedia Commonsより)

「兵庫県民はいかなごのくぎ煮さえあればごはん何杯でも食えるぞ」というツイートもあったが、ご飯の友として欠かせない兵庫県民のソウルフードと言える。

毎年春になると、淡路サービスエリア、JR新神戸駅・新大阪駅、神戸空港、大阪国際空港、関西国際空港などの土産物店で販売されているという。近年は不漁の影響で、値段が高騰しているらしいが......。

イカナゴは北方系だが、キビナゴは南方系の魚


キビナゴ(Xavier Romero-Friasさん撮影、Wikimedia Commonsより)

一方、名前が似た魚に、キビナゴがある。こちらは、ニシン目・ニシン科に分類され、インド洋と西太平洋の熱帯・亜熱帯域に広く分布する、南方系の魚だ。地方によっては、ハマイワシ、ハマゴ、ハマゴイ、キミナゴ、キビナ、カナギ、スルンなどとも呼ばれるが、やはり鹿児島県で呼ばれる「キビナゴ」がもっとも知られているかもしれない。キビナゴの成魚は全長10センチほど。体は細長く、体側に幅広い銀色の帯がある。


キビナゴの刺身(Opponentさん撮影、Wikimedia Commonsより)

キビナゴの刺身は、指と爪を使った手開きで頭・背骨・内臓を取り除き、いわゆる「開き」の状態で皿に盛り付けられる。

生の身は半透明で、小骨が多いが脂肪が少なく甘みがある。このキビナゴの刺身を鹿児島県独特の甘口の醤油につけて食べると、ことのほか美味い。辛口の焼酎に合うのだ。その他、煮付け、塩ゆで、天ぷら、唐揚げ、南蛮漬け、干物など、調理法はさまざまだ。


キビナゴの唐揚げ(Madoro Ishiiさん撮影、Wikimedia Commonsより)

イカナゴとキビナゴ、どちらも郷土料理の食材で、けっして全国区にならなかったのは、小魚のため傷みが早く、漁獲地以外に流通することが少なかったためだろう。イカナゴの釘煮とキビナゴの刺身、どちらも美味しそうだが、地元で味わうのがやはり一番のようだ。