測定方法の違いから数値が異なってしまう

 いまや新車のカタログを見るときには、燃費の項目を気にしているというユーザーが多数派かもしれないが、やはり諸元表の華といえば、最高出力(馬力)や最大トルクというドライバーもまだまだ多いことだろう。しかし「こうしたカタログスペックを信じてはいけない」という声もある。なんでも、実測値ではカタログ値を下まわっていることがあるというのだ。

 シャシーダイナモなどと呼ばれるローラーを回転させる馬力計測装置を使って、愛車の最高出力を測定することは、それなりにカジュアルにできる時代となっている。規模の大きいカー用品店でも、シャシーダイナモを備えているお店は全国にあるほどだ。こうした機械を使って、愛車の最高出力を測ってみると、カタログスペックとは異なる結果になることがほとんど。もちろん個体差もあるので、完全に同じ数字となるほうが珍しいだろうが、誤差の範囲を超えて、カタログとは異なる数値が出ることも珍しくない。

 なぜ、このようなことが起きるのだろうか。まず言えるのは、カタログスペックとシャシーダイナモでは計測方法がまったく異なるということだ。カタログに記載されている最高出力はエンジン単体で計測した数値に、トランスミッションなど駆動系の抵抗を補正して導き出しているケースが多い。一方で、ローラータイプのシャシーダイナモではタイヤの抵抗も要素として入ってくるし、最高出力を計測する領域でタイヤのグリップが落ちてくると数値に影響してしまう。このように、そもそも計測方法が異なるため、横並びで比べるものではないのだ。

 しかし、ショップなどで計測した数値を「実馬力」といって絶対的な基準としてカタログスペックとの違いを指摘する声は多い。しかし、実馬力といっても本当にリアルな数値となっているとは限らない。というのも、シャシーダイナモであっても気温や気圧によって補正値を入れている。それだけではない、意図的に補正をするケースもある。タイヤを外して、ハブにアタッチメントを装着して計測する「ダイナパック」という計測機器の表示を見ると、tcfという項目がある。ここが「1.00」となっている場合は補正をしていない計測値だが、1.15などの数字が入っているときには補正によって数値を大きくしているということになる。

ターボエンジンはカタログ値を上まわる可能性も

 これはズルをしているのではない。チューナーによって補正値をどうするのかは判断がわかれるところなのだ。もともとシャシーダイナモはチューニングの成果を数字で確認するためという側面がある。そのため「ノーマルで●●馬力だったクルマが、チューニングによって●■馬力まで増えた」という判断ができればいいわけで、絶対値として扱う種類の数字ではない。補正値をいくつにしようと仕様変更の前後で同じ数字にしておけば問題ないという世界なのだ。なお、慣例で何馬力増えたという表現をしてしまうが、本来はナンセンス。仕様変更の成果を測るのであれば、何%増しになったと捉えるべきだろう。

 もし実機がカタログスペックを出しているかどうかを確認したければ、エンジンを降ろして、オイルなども新品に交換して、エンジンベンチで測定したのちに、メーカーが使っているのと同じ補正をかけるしかない。

 しかし、そこまでして計測する必要性があるだろうか。計測器の構成まで言い出すとキリがない。条件を同じにせずに、違う方法で測った数字を比較することに合理的な意味はないといえる。エアクリーナーまわりの処理、ラジエターの冷やし方だけでも差が出てくる世界なのだ。

 そうは言っても計測した「実馬力」とカタログスペックの差異は気になるところだろう。傾向としてNAエンジンはカタログ値より低め、ターボエンジンでは高めになる。これはNAエンジンが嘘をついているというわけではなく、過給エンジンはそもそも余裕があるケースが多いことに所以している。エンジン自体のポテンシャルを引き出すのではなく、トランスミッションなどの駆動系に合わせて抑えている傾向にあるのだ。

 カタログに掲載されたトルクカーブが水平になったフラットトルクは、エンジンの性能を引き出した結果ではなく、制御系で作り上げたフラットなラインであることが多いのだ。そのためターボエンジンでは計測値がカタログスペックを超えることが“まま”あったりする。

 ただし、本来的な話をすればエンジン単体での計測値を、ロスが増えるであろうタイヤのついた状態で測って超えるということは考えにくい。恣意的でないにしても補正による数値を比較すべきではない。何度もいうが、測定機器や測定方法が異なる数値を比較することに意味はないといえる。