不正利用の疑いが浮上している「フラット35」。どのような場合、不正利用とみなされるのでしょうか(写真:freeangle/PIXTA)

不正利用の疑いが浮上している住宅金融支援機構が提供する長期固定型住宅ローンの「フラット35」。本来であれば、住宅購入に利用されるはずのフラット35が、不動産投資目的の購入に使われていたというのです。

フラット35は、最長35年間、固定金利で借りられる住宅ローンで、モーゲージバンクを中心とする銀行を含めた金融機関が住宅金融支援機構からの業務委託を受けて販売しています。民間金融機関から住宅ローンを借りにくい人や低金利で長期間借りられることなどから、利用している読者もいるのではないでしょうか。

なぜ投資用にフラット35を使うと不正?

フラット35と、民間金融機関との違いでも大きいのが、年収に対する考え方です。一般的な住宅ローンは年収400万円以上でないと借り入れ条件が厳しくなりますが、フラット35は年収に関しておおらかで、住宅ローンの毎月の返済額が、年収の30%未満(年収350万円未満の場合)であれば、住宅ローン審査が通ります。

年収300万円の場合、年間の住宅ローン返済額が90万円に満たなければ、住宅ローンが借りられることを意味します。つまり、低所得者にも門戸を開いており、かつ全期間固定金利のため、将来の金利変動時においても住宅ローンの毎月返済額の変わらない仕組みのローン商品ということになります。

では、なぜこのローンを投資用マンションに利用するのが不正に当たるのでしょうか。実は、住宅ローンという商品は、自分あるいは、親族のマイホーム、セカンドハウスなど、居住を目的とする不動産取得にしか利用することができません。

2019年5月現在のフラット35の金利は、35年間借りる場合は金利1.3%程度(モーゲージバンクあるいは金融機関により誤差あり)。銀行など民間の金融機関の変動金利は0.5%前後ですから、変動金利に比べれば割高ですが、一昔前の変動金利が1.5%程度であったことを考えれば、10年前の変動金利の水準で35年間金利が固定するということは大きなメリットです。不動産投資用のローンは2.5%〜4.5%ほどですから、投資用のローンと比べて大幅に金利が低いことがわかるでしょう。

フラット35はマイホーム専用のローンですから、住宅ローンを借りる際は、居住用と証明できる資料を提出することになります。例えば、住民票を住宅ローンの対象となる不動産に移しているということが1つの条件です。これにより、実際に住む場所に住宅ローンを借りるということの対外的な証明になるのです。

しかし、一度住宅ローンを借りてしまえば、後でマイホームかどうか確認されることはありません。そのため、住宅ローンを借りる際は住民票を移しておいて、実際は自分では住まずに賃貸に出すという事が可能です。フラット35は70万戸のマイホームに利用されていますが、実際に不正利用されたかどうかは全件チェックしなければわからないでしょう。

こうした中、真っ先に不正利用が疑われる可能性があるのは、不動産の住所と現住所が異なる人です。これは、転勤や諸事情で引っ越した人も含まれます。なぜかというと、引っ越す理由を証明できるものはないからです。

転勤や引っ越しでやむなく引っ越した場合は

もともと購入したマイホームに住むつもりがなく、当初から賃貸にする予定であれば、住宅ローン契約の時点から虚偽の申告をしており、不正だったことになります。フラット35の申込書には、住宅取得の理由を記載する欄がありますので、虚偽記載を行ったという事は契約自体が成り立たないことを意味します。

一方、転勤でやむなく引っ越し、空いた自宅を賃貸に出した場合はどうでしょうか。現状では、民間の住宅ローンでは、転勤の場合は正当な理由であると判断されて、賃貸に出されても不正な住宅ローンの利用とは見なされることはないと考えられます。実務的には、貸方が定期借家契約であれば、戻る気があると見えますし、普通借家契約であれば戻る気はなく、住宅ローンの利用目的が、転勤による引っ越しを境に不動産投資に変更になったと見ることができます。

介護など家庭の事情で引っ越さざるをえない人もいるでしょう。騒音や近隣トラブルで引っ越さざるをえない人もいるでしょう。しかし、こうしたやむをえない事情の人たちも、理由が証明できませんから、不本意ながらも疑われることになりかねません。

そもそもなぜ今回のような住宅ローンの不正利用が存在したのかを考えると、手続きの隙間を突かれたという以外にありません。まず、不動産会社は家を売らなければ仕事になりませんが、最初から投資目的でマイホーム取得を提案する人たちが一定数おり、制度の抜け穴を利用して、住宅ローンを活用して不動産を購入していたということです。

不動産関係者も、金融機関も、ファイナンシャルプランナー(FP)も誰も驚いていないはずです。むしろ、「やっぱりダメだったんだ」という受け止め方が大勢ではないでしょうか。ただ、住宅ローンを実際に借りている人からすれば、ただ事ではありません。

調査の結果、住宅ローンの不正利用と認定されれば、住宅ローンの一括返済が求められます。モーゲージバンク(フラット35専門金融機関)でフラット35を借りている場合は、代替ローンが存在しませんので、サポートできません。至急銀行や信用金庫に相談すべきでしょう。銀行、信金などは自社の住宅ローンやアパートローンがありますので、住宅ローンから不動産投資用のローンへの切り替えを勧められることになるかもしれません。その場合、金利が倍になります。

初めは住宅ローンを悪用する意図はなくても、住宅のセールスにおいて、何かあったら賃貸に出せばいいと提案するケースがあります。FPの立場としても、住宅購入のリスクである居住しない場合の対策として、賃貸に出すという選択肢があることを伝えます。これは、従来やむをえない事情の場合は、居住用としなくても、とがめられることがほぼなかったという経験則に基づきます。

実際に、フラット35だけでなく、民間の住宅ローンについても、居住しなくても引き続き住宅ローンを借り続けられるケースがほとんどで、住宅ローンの一括返済を求められるような事態になるケースはほぼ聞きません。

住み替え中に「儲けている」場合も?

フラット35は住み替えの際に利用されることも多いため、住み替えを偽装した住宅ローン融資も存在する可能性があります。従来住んでいた家Aを売り、新しい家Bを買う場合、民間の住宅ローンですと二重の住宅ローン支払いとなるため、審査が厳しくなることがあります。しかし、フラット35ですと、既存の住宅ローンの返済を考慮せずに住宅ローン審査を行います。

結果として、一時的にマイホームを二戸所有する期間が出てきます。既存のマイホームAの売却が進まず、マイホーム二戸の所有期間が長引いた場合、かつ既存のマイホームが高値で賃貸に出て成約した場合、既存のマイホームを売却するよりも、保有し続けて「家賃>住宅ローン返済」の状態を継続すれば、毎月家賃と住宅ローン返済の差額が家計に蓄積されます。もちろん確定申告や所得税、住民税の支払いは必要ですが、投資用不動産ローンの半分以下の金利で不動産投資ができるならマイホームの売却はストップするでしょう。

フラット35の不正利用から端を発したニュースですが、実際は民間の銀行、信金なども住宅ローンを貸し付けたつもりが不動産投資に使われているケースは一定数あるはずです。これも、悪意の有無を問わず、実際に賃貸に出しているケースを何度も見てきましたので、疑いようがありません。民間の金融機関は、一定期間ごとに表札を確認するなど、不正利用のないようにチェックしているという話も、金融機関関係者から聞いています。

しかし、住宅ローンを不動産投資に利用するために、賃貸に出した不動産に、自分の表札を付けたままにして居住を偽装したり、居住者に事情を説明して金融機関から送付される書類を一時的に預かってもらったりという工夫を凝らす人もいます。ここまで対策されると、確認手段は住民票、源泉徴収票、納税証明書、定期券などで、居住エリアと住宅ローンの目的となった不動産をチェックする以外にありません。ここは今後の動向を見守るほかありません。

住宅ローンを不正利用する場合は、住宅ローン控除も悪用できるため、実際にはマイホームに住んでおらず、不動産投資をしているだけのケースで、住宅ローン控除分の脱税ができることになります。これはかなり悪質ですし、確信犯でしょうから、厳しい処分が科されることになるでしょう。

ほとんどの人が今回のような不正利用はしていないと思いますが、70万件のローンがある中で、1%で7000件、0.1%で700件の不正利用がある計算です。おそらく、今後フラット35の審査や貸し出しにいろいろ制限が出てくるはずです。フラット35は、私も含めてフリーランス、自営業、中小企業経営者のように、住宅ローンを借りることが難しい業種にはとてもありがたい住宅ローンでした。それが今後、いろいろな規制がかかると、会社員や公務員以外は住宅取得が厳しくなる可能性もあります。

フラット35の存在意義が問われかねない

今回の不正利用報道を見て、1つ仮説を立てました。実はフラット35は高所得者の利用が多いという事があります。従来は、高所得者にとっては住宅ローン金利が上がるリスクより、多少金利が高くても全期間固定金利を選択することで、今後一切金利変動リスクを無視できるというメリットがあると考えられていました。

今後調査が進まないと判断できませんが、高所得者層が不動産投資の資金調達手段としてフラット35の不正利用をしていた事例が出てくるかもしれません。そのような事態になった場合は、フラット35の存在意義が問われることになりそうです。

さて、住宅ローンの不正利用が判明した場合、金融機関から住宅ローンの残高一括返済を求められるでしょう。ほとんどの人が住宅ローンの一括返済は不可能でしょうから、自宅を売りに出すことになります。住宅ローンの返済期間中にマイホームを売却する場合、住宅ローン残債>マイホームの売却価格となれば、手元の預貯金を取り崩して差額の住宅ローン返済に充てることになります。もし、手元に資金がなければ、自己破産に類するような経済的な破綻を迎えることになります。

はたして、住宅ローンの不正利用者はどれほどいるのか。金融機関は不正利用を働いた人に対してどのような対応をするのか注目です。もし、あなたが住宅ローンの不正利用をしていたことに気がついたら、すぐにでも金融機関に相談することをお勧めいたします。

FPに相談しても、販売した不動産会社に相談しても、後の祭りで何もできません。不正利用した人に、新たにローンを貸す金融機関がどれほどあるのかわかりません。しかし、何もせずに破綻を待つのではなく、可能性のある金融機関を探してみてはいかがでしょうか。