いま世界に存在するクルマすべての電動化は不可能に近い

 トヨタは、国内自動車メーカーのなかでもとりわけほかの産業分野との提携を推し進めていると感じる人が多いのではないだろうか。そこに、将来へ向けたトヨタの必死さを読み取ることができる。

 CASE(コネクテッド、オートノマス、シェア、エレクトリック)やMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)といった言葉が躍り、地球環境保全のための電動化はもとより、自動運転(オートノマス)や、情報通信を活用した共同利用(シェア)などを活かすことによる新たな自動車産業の動きが日々話題となっている。

 ことに米国では、航空機の利用以外は公共交通機関の普及が限定的であるため、事業者に限らず個人同士での共同利用が急速に進んでいる。欧州では、ディーゼル車の普及による大気汚染が顕著となって、気候変動という地球規模の環境問題とあわせ、地域の環境保全を目的とした電動化が著しい。

 それらに対し、日本では都市部を主体とするとはいえ公共交通機関が発達し、たとえば新幹線と航空機が競い合ったり、個人でクルマを利用するより鉄道やバスなどを利用したほうが安上がりであったりといった現実がある。環境問題についても、たとえば東京都のディーゼル車NO作戦などの効果で大気汚染防止が進み、地球環境に対してもハイブリッド車(HV)の普及拡大により、それ以上の電動化への認識は低い。

 しかし、グローバル企業化した自動車メーカーの視野にあるのは、米国や中国、あるいはインドやその他東南アジア諸国などの広大な市場環境だ。今後、環境問題を解決しながら、クルマを利用した個人の移動の自由を確保するためには、世界的なクルマの台数を減らすしかない。なぜなら、世界で約13億台におよぶ商用車を含めたクルマの台数分のリチウム資源はないからである。では、クルマの電動化の未来は暗いのかといえば、そうではない。13億台に及ぶクルマの総数を減らせば資源は確保される。

クルマをシェアするという考えが普及すれば販売台数は厳しくなる

 世界的に見ても、クルマが実働しているのは、一日の時間の1割ほどでしかないとされる。それは、クルマを所有することを前提としているからだ。これを共同利用にすれば、一台の稼働時間を増やすことができる。

 リチウムイオンバッテリーを実用化した旭化成の吉野 彰フェローは、AI(人工知能)を使った電気自動車(EV)を共同利用すれば、世界のクルマの台数を現在の7分の1に減らすことができるとする。なおかつ、そこで必要とされる電力は、EVの蓄電機能を活用することで賄える可能性もあるとしている。

 こうなると、今日、世界最大規模の販売台数を誇る自動車メーカーこそが淘汰の影響を強く受け、MaaSのための車台メーカーとして生き残るしか道がなくなってしまうかもしれない。そうした未来において、所有という価値がなくならないとしても、そこで選ばれる銘柄であるためには、少量生産で独自性を持つ個性豊かなメーカーである必要がある。

 トヨタに限らず、量を追い求めてきたフォルクスワーゲンやGMなどといった大手自動車メーカーほど、将来への危機感を募らせているといえる。同時にまた、年間の販売台数が200万台前後の自動車メーカーも、ブランドの生き残りをかけた特徴づけを行っているというのが、今である。

 トヨタが繰り広げる他業種との提携が、どのような成果を得るかは見通せない。また、トヨタが目指す未来の交通社会の具体像も明らかではない。だが、布石を打っていかなければ出遅れ、淘汰されてしまうとの危機感が、旺盛な提携の動きになっているのではないだろうか。また、そこまで未来を想像しているのも、トヨタのほかにはないともいえる。