■世界一高い超高層ビルが赤字でも建設された深い理由

国際会議に参加するために、初めてアラブ首長国連邦のドバイに来た。

ドバイでは2020年に中東・アフリカ地域で初の国際博覧会(万博)が開催される予定。(AFLO=写真)

最近発展が目覚ましいと言われるドバイ。かつての石油依存の経済から脱却して、新たな発展を遂げていると聞いていたので、この目で確かめるのが楽しみだった。

何よりも期待していたのが、世界一の高さを誇る超高層ビル、ブルジュ・ハリファ。高さ829.9メートルのこのビルは、ぜひ間近から見上げたかったし、イスラム建築から想を得たというその形状もじっくりと鑑賞したかった。

さすがにこれだけの高さがあると目立って、空港からホテルに向かうその道でも、すでにブルジュ・ハリファを目にすることができた。「あれが世界一のビルか!」とテンションが一気に上がった。

ブルジュ・ハリファの「ブルジュ」は、アラビア語で「塔」を指す。一方、「ハリファ」は、建設に大きく貢献したアラブ首長国連邦第2代大統領の名前に由来している。

会議の合間に、いよいよブルジュ・ハリファを見にいくことにした。ドバイを代表するモスクまでタクシーで行き、そこから5キロほどの距離にあるブルジュ・ハリファに向かって歩いていった。

現地に行ってみて初めて納得したのが、ブルジュ・ハリファを建設するという計画の経済的な合理性である。

ブルジュ・ハリファは、単に、そこに世界一高いビルを建てるということに尽きるのではない。周囲の開発と一体化した、一大プロジェクトだったのだ。

驚いたのは、ブルジュ・ハリファの下にあるショッピング街「ドバイモール」の巨大さ。高級ブランドの店から、小さな雑貨屋さんまで、あらゆるジャンルの店やレストランが並び、ほんとうにたくさんのお客さんで賑わっている。

ブルジュ・ハリファ自体が1つの強力な「客寄せ」のシンボルになっている。展望台に至るエレベーターにも、ドバイモール内から乗るような仕組みになっている。したがって、ブルジュ・ハリファに行こうと世界各地から集まる観光客は、自然にドバイモールを散策してお金を落とす。

ドバイモールだけでなく、横にある人造湖や、その周辺のホテル、オフィス、住宅など、一帯がブルジュ・ハリファを中心として開発されており、その経済効果は実に莫大である。

ドバイに来てから見聞きした情報によれば、ブルジュ・ハリファ自体だけでは経済的にペイしないのだけれども、周辺を含めると大幅な黒字になっているのだという。

■日本でも大いに参考になるように感じた

もともと、目立つもののない砂漠の地だったドバイが、脱石油の経済発展を目指す中で、何よりもインパクトのある「世界一」の高さのブルジュ・ハリファを建設する。それを強烈な吸引力として、周囲にうまく関連施設を設計、配置する。このような都市計画、ビジネスモデルのあり方は、日本でも大いに参考になるように感じた。

日本では、「ブルジュ・ハリファ」に相当するものは何だろうか。これからどんな仕掛けをすればいいのだろう。

東京タワーや東京スカイツリー、通天閣などの既存の施設を活かすことにもつながるし、大阪万博のパビリオンや跡地とその周辺の利用計画、あるいは豊洲の新市場の周辺のことなど、いろいろと連想や夢が膨らむ。

大切なのは吸引力のある「中心」をつくること。そんなインスピレーションが得られたドバイへの旅であった。

(脳科学者 茂木 健一郎 写真=AFLO)