今年で13年目のシーズンに突入し、新たに1球団を加えるなど、一貫して攻めの姿勢を崩さないルートインBCリーグ。そのなかでも、とりわけ攻めの姿勢を続けているのが栃木ゴールデンブレーブス(栃木GB)だ。

 2017年に加盟した新興球団だが、昨年は行き場を失った村田修一(現・巨人コーチ)を入団させ、世間をあっと言わせた。結局、村田はNPB復帰をかなえることはできなかったが、大ベテランに花道をつくったことで栃木GBの知名度は一気に上がった。

 NPBを目指す若者の挑戦の場として存在する独立リーグに、NPBを経験したベテラン選手を入団させることについて、すべてが肯定的ではない。しかし、ファンを喜ばせ、リーグのプレーレベルを上げるという点においては、彼らの存在は不可欠と言えるだろう。実際、昨年の栃木GBは村田の入団によって飛躍的に観客動員数を伸ばした。

 そして今シーズンも、栃木GBにビッグネームがやってきた。NPBのみならずメジャー経験もある”スピードスター”西岡剛だ。トップバッターとして圧倒的な存在感を見せつけている。


NPB復帰を目指しBCリーグの栃木ゴールデンブレーブスでプレーする西岡剛

 開幕戦で対戦した茨城アストロプラネッツの投手・小沼健太はこう語る。

「もう雰囲気が違います。オーラが出ているって感じですね。僕は千葉出身なので、西岡さんは子どもの頃からのヒーローでした。緊張したってわけではないですけど、やっぱりのまれてしまったというのはありましたね」

 NPBのスカウトも注目している小沼と西岡の対戦は4打数2安打。「逃げずにいこう」と得意のストレートで勝負するも、初回にいきなりライトオーバーの二塁打を打たれてしまう。ボールをリリースした瞬間、「いかれた」と思ったほど、西岡は独特の雰囲気を醸し出していたと小沼は振り返る。

 さらに小沼が驚いたのは、2、3打席を真っ向勝負で抑えたあとの4打席目だった。追い込んだあと、ダブルプレー狙いで投じた外角低めのチェンジアップを西岡はうまく合わせ、レフト前にポトリと落とした。

「うますぎでしょ!」

 小沼は思わずそう叫んだ。打たれるはずのないコースの球をいとも簡単に無人のフィールドに落とした熟練の技に、小沼は自分が目指すNPBの壁の高さを思い知らされた。

 そして10連休真っ只中の5月2日、再び茨城アストロプラネッツと栃木GBの試合が行なわれた。ネギの名産地だという茨城県坂東市にある岩井球場には、独立リーグにしては大勢のファンが押し寄せ、数百人も入れば満席となる小さなスタンドは大入りとなっていた。

 ファンのお目当てが西岡であることは、彼の現在の背番号である「1」がプリントされた栃木GBのレプリカユニフォームだけではなく、昨年までプレーしていた阪神タイガース、さらに千葉ロッテマリーンズ時代のユニフォームを着たファンの姿からもわかる。

 この日、栃木GBはビジターゲームだったが、ホームゲームは毎試合、これ以上の観客でにぎわっていると言う。

 独立リーグは「会いに行けるプロ野球選手」を売りにしている。試合後には、ホームチームの全選手がスタンドの外に出て、来場したファンを見送る。選手たちはファンからのサインや写真撮影の要求に快く応じ、なじみのファンと談笑する姿は日常となっている。

 そういうシーンに西岡の姿があることをイメージすることは難しいが、NPB時代には考えられなかったファンサービスにも快くやってくれていると、ある球団スタッフは言う。

「ほかの選手とまったく同じ扱いですよ。住むところも、地元のアパートを借りて住んでいますし、ファンサービスにも積極的に参加してくれています。『遠慮せずにもっとなんでも言ってくれ』って自ら申し出てくれていますし。やっぱり独立リーグに来て、思うところがあったんじゃないでしょうか」

 この日の試合でも、西岡は格の違いを見せつけた。トップバッターとして第1打席で四球を選ぶと、3回の第2打席は無死一塁の場面で追い込まれながらセンター前ヒットを放ち、先制点のきっかけをつくった。さらに、5回に回ってきた第4打席でもセンター前にヒットを放ち2打点。集まった観客は西岡の活躍に大喜びだった。

 ヒットで出塁し、一塁ベース上に立つ西岡の姿を、ファウルグラウンドにあるブルペンにまで出て、じっと見つめる選手がいた。茨城アストロプラネッツの小野瀬将紀、独立9年目のベテランだ。この日まで、小野瀬は西岡と同じリーグ2位の5盗塁を記録していた。

 翌日、このシーンについて小野瀬に尋ねると、照れ笑いを浮かべながらこう答えた。

「ちょうど前の日に西岡さんの動画を見ていたんです。それでどんなスタートを切るのか、塁上ではどこを見ているのか気になったんです」

 NPBの第一線を走ってきた男の技を少しでも盗もうと、フィールドでプレーする西岡の姿にくぎ付けだったようだ。

「去年の村田さんもそうでしたが、やっぱりNPBのトップでプレーされていた選手が独立リーグに来てくれるのは、選手にとって本当にいい刺激になります。僕はもう年齢的にNPBは苦しいと思いますが、現役でやっている以上、うまくなりたいと思っていますから……勉強させていただいています。ただ一緒のチームだと、ポジションがひとつ埋まってしまうわけで、そこは複雑な気持ちになるかもしれないですね」

 今年32歳になる小野瀬だが、塁上での極意を西岡に直接聞くのはまだ先だと言う。

「いや、いきなりはおそれ多いですから。あいさつ程度はしましたけど、まずは名前を覚えていただいてからですね」

 5月15日現在、西岡の打席成績はリーグ2位の4割1分1厘。ヒットメーカーとして圧倒的な存在感を見せつけていると言っていいだろう。なにより西岡の存在は、NPBを目指す若い選手たちにとって、自らのレベルを計る試金石になっている。

 そして地方のファンは、独立リーグがなければなかなか目にすることはできなかったであろう”本物のプレー”に野球の魅力を知る。また、西岡がプレーすることでBCリーグのレベルがどの程度のものかを知ることができる。実際、メジャーのスカウトも日本の独立リーグに足を運ぶようになっているという。

“西岡効果”は、確実に日本の独立リーグの存在価値を高めている。