空き家数について最新の調査が発表になりました(写真:Blue flash/PIXTA)

総務省が5年ごとに実施している「住宅・土地統計調査」で、2018年の調査で空き家数は846万戸で5年前に比べて26万戸の増加、空き家率は13.6%と、0.1%の増加にとどまった。

民間のシンクタンクが4年前に発表した予測では、空き家数は2018年には1000万戸を突破し、空き家率も16.9%に達するとしていただけに、住宅業界関係者からは「予想外の結果」との声が聞こえてくる。最近では政府統計の信頼性を揺るがすような問題が発生しているだけに、「住宅政策への影響に配慮したのでは?」との声も出てきそうだ。

年90万戸以上の住宅を新築し続けている

一般の人が普段、目にする機会が多い公的な住宅統計は主に2つだろう。1つは、今回発表された総務省の「住宅・土地統計調査」。もう1つは国土交通省が毎月発表している「住宅着工統計調査」である。

住宅・土地統計調査は、5年ごとに10月1日時点で約22万調査区、約370万戸の住宅・世帯を調査・推計して算出している。国内に建っている住宅ストックの数を知ることができる唯一の調査だ。

住宅着工統計調査は、建築基準法で床面積10平方メートルを超える建築物を建てるときに義務付けられている都道府県知事への建築工事届を集計している。重要な景気指標としてメディアでもよく取り上げられており、4月末に発表された2018年度(2018年4月〜2019年3月)の新設住宅着工戸数は前年度比0.7%増の95万2936戸とプラスとなった。

すでに日本は人口減少時代に突入しているにもかかわらず、毎年90万戸以上の住宅を新築し続けている。「住宅が余って空き家だらけになる。住宅生産の総量を規制すべき」(長嶋修・さくら事務所会長)と危惧する声が出てくるのも当然だろう。

住宅統計には、もう1つ注目すべき統計がある。地震や火災などの災害で倒壊したり、老朽化などで取り壊したりした建築物を調べて国交省が毎月公表している「建築物滅失統計調査」だ。しかし、この結果を報道しているメディアはほとんどない。

建築基準法では、建物を建てるときだけでなく、除却するときも都道府県知事に建築物除却届の提出を義務付けている。届け出をしない、虚偽の届け出をした場合には50万円以下の罰金が科されることもある。建物を除却したあとには、法務局で建物滅失登記を行うが、不動産登記の届出は義務ではない。

住宅着工戸数と住宅滅失戸数がわかれば、おおよその増加分を計算できる。総務省が5年ごとに調査しなくても、前回の調査結果に増加分を足せば、総住宅戸数を算出できるはずである。

2014年から2018年の5年間(暦年ベース)の新設住宅着工戸数は約467万戸(年平均93万戸)だった。同じ期間に災害または除却による住宅滅失戸数は約56万戸(同11万戸)だった。差し引き増加分は411万戸である。

今回の住宅・土地統計調査では、総住宅数は6242万戸となり、5年前に比べて3.0%増、179万戸の増加だった。実に「411万戸−179万戸=232万戸」もの違いが生じている。いくら調査方法が違っていると言っても、差異が大きすぎて、「誤差の範囲」とは言えないレベルである。

その理由について統計担当者や業界関係者から納得できる説明を聞いたことはない。では、5年間で「232万戸」もの住宅はどこに消えたのだろうか。

最大の原因は精度の問題

最大の原因は、住宅滅失統計調査の精度の問題だろう。法律で建築物除却届の提出は義務付けられているが、届け出数が実際の除却戸数よりも少ない可能性がある。不動産の滅失登記を行わないと、同じ敷地に新築した建物を登記できない可能性があるが、除却届を出さない場合に「土地を売れない」「新築工事ができない」などの不都合が生じるわけではないからだ。

全国解体工事業団体連合会の幹部に話を聞くと「滅失統計調査の数字と、実際に除却している戸数の数字にはかなりの違いがある」と認めている。「全解工連で実際の除却戸数を把握しているわけではないのでわからないが、統計数字の2倍は壊している」というのだ。

解体工事業は、以前は業種区分で「とび・土工工事業」の中に含まれていた。今後は解体需要の増加が見込まれるとして、2016年6月の建設業法改正で、家屋の解体工事などを行う「解体工事業」が分離・独立して29番目の業種区分になったばかりだ。

国交省が専門工事別に建設工事の完成工事高を公表する「建設工事施工統計調査報告」では、「はつり・解体工事」の区分で完工高を調査してきた。それによると、東日本大震災を含む2009〜2013年度の年平均完工高3248億円に対して、2014年度から最新の2017年度の年平均完工高は4858億円と1.5倍に増えた。

ところが、住宅滅失戸数は2009〜2013年の5年間で61万戸だったのに対して、2014〜2018年は56万戸に減少した。建設リサイクル法で床面積80平方メートル以上の建築物の解体工事は事前届け出が義務付けられているはずだが、2016年度から届出件数が公表されなくなった。既存の統計からは解体工事の実態を読み取りにくくなっている。

住宅ストックの正確な把握が欠かせないのが、固定資産税を徴収する地方自治体だ。建築工事届や不動産登記が変更された情報を把握すると課税評価して固定資産税を徴収する手続きを進める。これによって住宅ストックの動向を正確に把握できるはずだが、各自治体では定期的に空中写真を撮影する調査を実施している。

2018年2月に国土地理院が公表した「固定資産税調査用空中写真撮影の実態」調査によると、空中写真撮影をした市町村は73.2%、うち住宅が多く建ち並ぶ市では87.3%が実施していた。撮影周期は、毎年実施が10.4%、3年ごとが44.6%だった。

自治体が頻繁に空中写真を撮影するのは、建築工事届を出さずに建てた建物や、逆に除却届を出さずに取り壊した建物を見つけるためだ。地価の高い都市部で200平方メートルの土地に建つ住宅を除却すれば、固定資産税が一気に6倍になる。こうした課税漏れを防ぐために空中写真を撮影し、課税台帳の地図と照合作業が必要になっている。

空き家数の増加になぜブレーキ?

住宅滅失戸数の統計データには問題があり、統計データより多くの住宅が除却されている可能性はある。空き家を中心に古い住宅が大量に取り壊されていたとすれば、空き家率が0.1ポイントしか上昇しなかった理由を説明できるかもしれない。もし、消えた「232万戸」がすべて除却されていたと仮定すれば、届出分56万戸を加えた288万戸、年平均58万戸が滅失していた計算だ。

しかし、いくら何でも統計データの5倍以上、年58万戸もの住宅が取り壊されたとは考えにくい。新築3戸に対して滅失2戸のハイペースで、あちらこちらで解体工事が頻繁に行われていたという実感はまったくない。戸建て住宅の解体費は少なくとも1戸150万円はかかるので、年58万戸なら住宅解体分だけで完工高は9000億円近くとなり、建設工事施工統計とも大きく食い違う。

前回2013年の住宅・土地統計調査の結果をみると、総住宅戸数は6063万戸で、5年前に比べて305万戸の増加だった。同じ5年間の住宅着工戸数は430万戸で、住宅滅失戸数61万戸を引くと増加分は369万戸。全解工連の幹部が言うように、滅失戸数が統計データの2倍程度なら、2つの統計数字の違いも説明がつく。それに比べて、2018年の結果は国交省の統計との乖離があまりに大きい。

もし、今回の調査で空き家数が1000万戸を突破していたら、景気対策の柱でもある新築住宅を「つくりすぎ!」との声が一段と高まっていただろう。本当に総務省の住宅・土地統計調査どおりに空き家数の上昇にブレーキがかかったのか。政府は、その理由をきちんと説明する必要がある。