『冬ソナ』韓流ブームから15年…「韓国ドラマ」の今とその“チカラ”とは?【日本の中の韓流、15年目の現在地】

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NHK総合で約1年にわたって放送された『オクニョ 運命の女(ひと)』が、4月28日に最終回を迎えた。

だが『オクニョ』に限らず、日本では現在、毎日のように韓国ドラマを視聴することができることをご存知だろうか。BS放送を中心に、毎日15タイトル前後の韓ドラが放送されているという。

現在、 世界9000万人ともいわれる“韓流人口”だが、振り返れば、日本でいわゆる“韓流ブーム”の始まりとなったコンテンツは、韓国ドラマといえるだろう。

今現在はK-POPの勢いがすごいが、韓流の専門家100人の分析でも、韓国ドラマを「活発なコンテンツ」とした専門家が73人に上ったほどだ。

今から15年前の2004年4月、『冬のソナタ』がNHK総合テレビで放送されると、日本の中年女性たちを中心に韓ドラブームが訪れた。

ペ・ヨンジュン

同作主演のペ・ヨンジュンが初来日したときは、羽田空港に5000人のファンが押し寄せた話も有名だ。“韓流四天王”などの言葉が生まれたのも、ちょうどその頃だ。

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『冬のソナタ』をきっかけに、日本のテレビ局もこぞって韓国ドラマを求めるようになった。

韓国文化観光部の「放送番組輸出入統計」などを見ると、放送番組の輸出額は2003年の4216万ドル、2004年の7146万ドルから、2005年に1億2349万ドルと急上昇している。その後も2006年1億4774万ドル、2007年1億6258万ドルと続いた。

その大きな要因は、日本で韓国ドラマブームが起きたからに他ならない。

そんな韓国ドラマを日本に初めて本格的に輸入したパイオニアが、コンテンツセブン代表取締役の成七龍さんだ。コンテンツセブンは、韓国のテレビ局からドラマの版権を買い付けて日本のテレビ局へ販売し、DVDの制作や発売を行っている。

成七龍さんは在日コリアンとして生まれ、さまざまな職業を転々としながらドラマ『ホジュン−宮廷医官への道』と出会い、「この作品を日本の人に知ってほしい」との思いで2000年に同社を設立した。日本で巻き起こった韓国ドラマブームの前と後、そして現在を知る人物だ。

コンテンツセブン代表取締役の成七龍さん

「初めに起きた『冬のソナタ』ブームの中心にいたのは、子育てが一段落した年配の主婦の方々。やっと自分に時間とお金を使えるようになったタイミングで、テレビに王子様が現れたわけですよ。それで熱狂してしまった(笑)。

日本における韓国ドラマブームは、最初にその層に響いたことが大きかったと思います。若い世代の場合、生活の変化によって趣味から離れてしまうことがありますが、時間に余裕のある年配層は違います。韓国ドラマが生活に根付いた。だから韓国ドラマが長く愛されているのだと考えています」

版権料は5〜10倍に!?

『冬のソナタ』で韓国ドラマに触れた日本の主婦層やテレビ局は、貪欲に韓国ドラマを求めていく。

2004〜2006年頃だ。それから 『宮(クン)〜Love in palace〜』『コーヒープリンス1号店』『花より男子〜Boys Over Flowers』といったラブコメも日本に上陸した。

「女性が夢中になれるドラマですよね。特に2010年に日本で放送された『美男ですね』は、日本人男性が絶対に言わないセリフと、ツンデレ・キャラをチャン・グンソクが見事に演じて、大きな話題になりました。それは日本人女性が初めて知る男性像であり、“こんな男性、見たことがない”という衝撃を与え、“胸キュン”を楽しみたい30代女性にまで韓国ドラマが浸透したんです。

また最近は、軍人や医者、司祭といった職業ジャンルモノが増えた 。これまでのように“オッパ”が登場しない韓国ドラマも日本に入っていますよ」

日本で韓国ドラマの需要が高まるなか、版権料も上昇したという。成七龍さんは「私が輸入を始めた当時と比べると、5〜10倍に上がっています。ラブコメや時代劇の場合、10倍以上という作品もあります」と話す。

(画像=KBS)『冬のソナタ』

『冬のソナタ』から15年経った現在、日本における韓国ドラマは「ブーム」ではなく、ひとつの「ジャンル」として定着したといえるだろう。日本では以前からアメリカのドラマなどが「海外ドラマ」というジャンルを形成していたが、韓ドラはその「海外ドラマ」枠に含まれず、独自のジャンル「韓国ドラマ」と分けられている。

テレビではBS局を中心に、毎日15タイトル前後の韓国ドラマが放送されており、一日中無料で韓国ドラマに接することができる。有料のCSチャンネルでは、韓国専門チャンネルや韓国ドラマをメインとしたチャンネルが10局近くある。

「特に有料のCSチャンネルにとって、韓国ドラマはなくてはならないジャンル。もし韓国ドラマがなくなったら、“何で番組表を埋めればいいの?”と困ってしまうと思います。そのくらい視聴者を魅了して取り込める代わりのものがない。その枠にアメリカのドラマを入れても、中国ドラマでは弱いのかもしれませんね」

それにしても、なぜ韓国ドラマはなぜ日本で長く愛されているのか。成七龍さんは、韓ドラが日本で愛される理由を大きく6つに分析する。

「まずは“少女マンガのような世界観”ですね。ここまで悲劇のヒロイン、王子様の登場、明確な悪役といった、コテコテのドラマは日本にありませんでした。それが新鮮で、自分の叶えたかった世界が広がっているわけです。

次に“先が読めない展開”。韓国ドラマは毎話最後の5分で展開が変わるため、続きが読めず、気になる。時代劇に関していえば、“大河ドラマのような重厚感”が日本のファンに支持されています。日本では大河ドラマが年に1作品しか作られませんが、韓国には何作品もあるため、いろいろと楽しめるのです」

実際に韓国では時代劇ドラマが次々と作られており、ヨ・ジングやチョ・ジョンソクら人気俳優が“韓流時代劇ブーム”を導いているという。

(写真提供=tvN)『王になった男』

「魅力的な“サントラの存在”も重要。韓国ドラマの挿入歌は、単体として聴きたいと思える歌ばかり。映像と音楽が相まって、ドラマのシーンが五感に刷り込まれ、思い入れも強くなります」

日韓関係の影響も「ないとはいえない」

ここまでをドラマ自体が持つ内的な理由とするならば、残る2つは外的な理由といえるかもしれない。

「日本では韓国ドラマを“習慣としての視聴”が叶います。BS局を中心に、毎日韓国ドラマが放送されているのです。朝9時になったらこのチャンネル、12時になったらこのチャンネルと、視聴習慣がついている。一日中、韓国ドラマばかり観る年配の方がたくさんいるくらいです。さらにコアな人たちは、有料チャンネルを利用します。そこに加入して、最新のドラマを見るわけです。

最後に“ファンミーティング”。日本にはドラマの主演俳優と会えるファンミーティングという文化がありません。でも韓国ドラマは大きい作品から小さい作品まで、主演俳優たちが日本に来て、ファンと触れ合う機会がたくさんある。画面越しにしか接することができない憧れの俳優を間近で見る体験をしたら、ますますのめり込むでしょう」

『雲が描いた月明かり』『ボーイフレンド』などで人気絶頂のパク・ボゴムも2月に日本でファンミーティングをしていたが、トップスターと身近に接する機会があることは、ファンには非常にうれしいことだろう。

こういった要素が複合的につながっているため、韓国ドラマが日本でブームを起こし、今でも人気といえるのだ。

パク・ボゴム

今やブームではなく、完全に日本のエンターテイメントのひとつの「ジャンル」として定着した韓国ドラマだが、まったく課題がないわけではない。

日本では韓国ドラマ視聴者の年齢層が、それほど広がりを見せていないのだ。日本の若者はK-POPは好むが、韓国ドラマは「お母さん世代が観るもの」と感じているそうで、確固たるジャンルとして定着しているがゆえに視聴者層も固定化しているのだ。

そして、そんな視聴者たちが望むのは、『冬のソナタ』のような“古典的な韓国ドラマ”。そこに現在韓国で制作されているドラマとのギャップが生じている。

「最近の韓国ドラマはラブがない、ジャンルモノ、職業モノの作品が増えています。それが既存の日本の韓ドラファンにはなかなか響きません。それは日本のテレビ局も同じで、“もっと胸がキュンキュンするような作品はないの?”と。私も何度かジャンルモノにチャレンジしているのですが、難しいところです」

また、他の韓流コンテンツに比べて、政治的な影響を受けやすいのも韓国ドラマならではの課題かもしれない。日本のK-POPファンは政治とコンテンツを完全に切り分けているが、ドラマファンは若干違う。

「いくらエンタメといえども影響はあります。日韓関係が悪化すれば、韓国ドラマに対しての“しんどさ”を持つ人が出てきます。年配の方々だからか、政治的なことには敏感です。日本のテレビ局にも、“なぜ韓国ドラマを流すのか”といったクレームが来るかもしれません。最近はあまりにも日韓関係が悪いので、なんとか改善されてほしいですね」

『冬のソナタ』から15年、ブームを超え、日本でひとつのジャンルとして確立された韓国ドラマ。今後いくつかの課題を解決して、その立ち位置をさらに磐石なものにするのか注目してみたい。