ウッドストックフェスティバルの主催者マイケル・ラングEvan Agostini/Invision/AP/REX/Shutterstock

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伝説の音楽フェスティバル「ウッドストック」の50周年記念として行われる予定だった「ウッドストック50」の中止が決定し、主要投資会社の一つである電通(Dentsu Aegis Networks Amplifi Live)に対し、主催者であるマイケル・ラングは、「彼らはチケット販売を阻止し、2020年夏の東京オリンピックでのイベント参加の可能性をちらつかせて出演者たちに出演を見合わせるように助言した」と強く主張。同フェステイバル開催を巡り、事態は泥沼化している。

ウッドストック50の投資企業だった電通に送付された単刀直入な長文書簡で、同フェスティバルの主催者マイケル・ラングは、フェスティバルが悲劇的な展開になった責任は電通にあると考えていると断言した。電通イージスの投資部門アンプリファイ・ライヴが「フェスティバルの銀行口座から1700万ドル(約187億円)を違法に引き揚げて、フェスティバルを危機的状態に陥れた」と主張しているのである。

この5ページに渡る書簡は、電通がウッドストック50の中止と撤退を公式に発表してから1週間後に電通に送付されたものだ。この書簡の中でラングは同社と自身の関係の発端を詳細に記しつつ、最初から危険信号が灯っていると感じていたと主張している。

ラングは次のように書いている。「当初、電通のような企業とウッドストックを結びつけることに不安を感じていた。時として企業との提携がクリエイティヴな試みに適さない場合がある。しかし、悲劇やスキャンダルに直面したあとも電通が社会貢献度の高い多種多様な活動や企画を実現しようと尽力してきた事実を鑑みて、貴社が道徳観念を有する高貴な企業であり、パートナーシップを結ぶに適しているとの確信を得た。貴社の役員である最高商務責任者DJマーティンは、電通フェスティバル自体に干渉することなしにウッドストックの特別な意義を具現化するという、非常に重要な点を主張して私を納得させた。つまり、貴社は両者の成功を確実なものにするための資金面での支援に徹するということだった」

ラングの主張によると、提携を決めた直後に、「広報的な理由」でこのフェスティバルの共同プロデューサー兼投資家をアンプリファイ・ライヴにするという契約書が届いたと言う。8月中旬に行われる予定だったこのフェスティバルはジェイ・Z、マイリー・サイラス、デッド&カンパニー、ザ・ラカンターズ、チャンス・ザ・ラッパー、ラン・ザ・ジュエルズなど、多くのアーティストが出演する予定だった。

イベント開催に向けて、すべての関連会社が必要な許可を得るための手続きを行い、チケット販売を可能にする条件付き承認をニューヨーク州から与えられた。しかし、ラングは電通が「明確な理由もなくこの販売を妨害した」と主張している。

5月第一週に保健福祉省の広報担当者がローリングストーン誌に語ったところによると、同フェスティバルに対する許可は一切降りていないということだ。「同局は引き続き申請者のワトキンスグレン・インターナショナルと連絡を取り合っているが、今回申請されたイベントの詳細情報のアップデートを待っている最中だ」と、同省の広報担当者が説明した。

一方、ラングの書簡は次のように続く。「同時に、電通がウッドストック・フェスティバルのスポンサーシップ販売に失敗にしたため、私たち主催者側はキャッシュフローの問題に直面していた。この不足分を埋めるために、当方は補完資金を得ようと努めており、その過程で得た反応はこのフェスティバルの成功を確信し得るものであった。この事実も貴社の人々に伝えてきた。また、このフェスティバルの経済状況を改善するために、会場のバリュー・エンジニアリングも行ってきた。2019年4月26日の金曜日までに、薄利を生むと思われる複数の計画を提示し、補助資料によってこれらの計画を実証した。しかし、当方に理由が一切説明されないまま、無視されてしまったようだ」

4月29日月曜日に、電通の首脳陣から「電通が(実際は法的根拠がないにもかかわらず)フェスティバルの支配権を握っている」という通知が届いたと、ラングは主張する。それから少しして電通がイベントのキャンセルに関する説明を行ったと言う。ラングの言葉を借りれば「彼らにはそれが可能な法的権利はない」ということだ。そして、今回の問題を悪化させた原因は、電通が「私やこちらのスタッフに事前の告知をせずにメディアに中止を発表した」ことだと、ラングは主張している。

さらに、「一つのグループとして米国東部夏時間12時に全員で会議している最中に、メディアはウッドストックの中止を報道し始めた。そのとき、アンプリファイがフェスティバルの銀行口座から約1700万ドルを違法に引き揚げたことを知り、これによってフェスティバルは危機的状況に陥れられた。貴社が行った一連の所業は、貴社とパートナーシップを結ぶ段階で私が覚えた不安を最悪の形で実証した。これらの所業は違法であり、高潔さのないビジネス手法である」とラングは述べている。

ラングは証拠も持っていると言う。フェスティバル中止の発表後、電通は「会場のワトキンスグレン・インターナショナル、保険会社、プロデューサー、ヴェンダー、パフォーマー(ラッキーなことに何人かは私の友人なので直接連絡できるが)を含む利害関係者全員に直接連絡して、私とビジネスを行わないように提案し、彼らと私の会社との契約を侵害した」というのがラングの主張だ。さらにラングは、電通がイベント運営を担当する2020年夏の東京オリンピックへの参加を望むのであればウッドストックから手を引くことを、電通の代理人たちが出演者たちに助言したとも言っている。現時点では電通がアーティスト、利害関係者、その他のウッドストック50関係者に直接連絡した確認が取れていない。

また、ローリングストーン誌が電通の代理人にコメントを求めたが、返事はまだない。

ラングは、「あいた口が塞がらない、ルール違反とも言える(電通の)一連の所業」が、ひいてはフェスティバルの従業員、ファン、ニューヨーク州ワトキンスグレンの地元コミュニティにすら大きな影響を与えることになると懸念を示す。しかし、ラングは資金繰りが可能になる「新たな関心」の存在を示唆しながら、このような障害をものともせずに、今後は自身の関与の度合いを高めて開催に向けて前進するため、「ウッドストック50の計画通りの開催に自信を持ち続けている」と、決して諦めないようだ。

「私たちが貴社に望むことは、法を順守し、貴社が果たすべき義務を果たすことだけで、この素晴らしいイベントを実現しようとする私たちへの妨害をやめて、不適切に引き揚げた1700万ドルを返金してほしい。電通が思い描いたほどの利益を得られないとわかって、ウッドストックへの関与をやめる貴社の決断は尊重するが、だからといって50周年記念という特別なイベントを貴社なしでは開催させないために、ウッドストック自体を窒息死させる所業は、運営面の修正を主張する私たちだけでなく、ウッドストック50の関連各社を困惑させている」というのが、ラングの主張だ。

電通がウッドストック50の中止を発表した数日後に、制作パートナーのスーパーフライがイベントへの関与を取りやめた。このニュースを受けて、イベント業界で20年の経験を持つある関係者は、スーパーフライのこの決断は「終焉の前兆」であり、「破滅的な」一撃だとローリングストーン誌に語った。この関係者は「フェスティバル好きにはスーパーフライがウッドストック50に不信感を持っているのがはっきりとわかる。この状況からどう復活するのか私にはわからないが、(復活は)不可能だと思う」と断言した。

3月のフェスティバル開催発表の記者会見に同席したジョン・フォガティは、初期段階でフェスティバルに対する懸念があったことをローリングストーン誌に明らかにした。「彼らはチケット情報の公開を延期した。しばらく前に彼らが許可を得ていないという記事を読んだ記憶もある。これを知って驚いたよ。常識的に考えても、最初に行うことが諸々の許可申請で、最後にやることじゃない。一事が万事そんなふうで、最初からこのフェスティバルにはそこかしこに不安定さが顕在していた。でもね、最初のウッドストックは、素晴らしい主催者やその努力ではなくて、みんなの『開催したい』という気持ちが一番の力になって実現したんだよ」と、フォガティーは言った。