東農大三のエース・飯島一徹はこの春の埼玉で、泣いて笑って、昨秋に続いての関東大会進出に貢献した。

「今年は普段の学校生活や時間の使い方をきっちりとできる子たちばかり」と高廣聖也監督が評するチームの象徴が、エースナンバーを背負う飯島と言っていいだろう。


甲子園常連校や強豪校からも誘われたが「強い高校を倒したい」と東農大三を選んだ

 初戦では昨年秋の準優勝校のプレッシャーもあっただろうが、大宮東を4安打完封し、安堵の笑顔を見せた。準々決勝の花咲徳栄戦では5点を奪われながらも8三振を奪う粘りの投球を披露。一昨年の全国制覇など、4年連続で夏の甲子園に出場している強豪を破り、「ずっと倒すことが目標でした」とうれし涙を流した。

 最速145キロのストレートに加え、高校入学後に高廣監督の助言で習得した「日によって落ち方が変わる」というツーシームが武器。ピンチの場面でこそ持ち味を発揮する精神力も頼もしい。

“一徹”の名は、昭和を代表する野球マンガ『巨人の星』の主人公・星飛雄馬の父である星一徹からつけられた。我が子がお腹のなかにいる時、テレビで再放送されており、それを見ていた母の玲奈(れな)さんが「何事も頑固一徹。筋を持って取り組んでほしい」と命名。その名に恥じぬ一途な思いが飯島の成長の源だ。

 飯島はかねてよりプロ志望を公言している。

「お母さんに楽をさせてあげたい。母子家庭なので少しでも親孝行できればと思います」

 兄弟もいないため母とふたり暮らしで、キャッチボールの相手も母が務めてきた(今でも時折キャッチボールをするという)。

 北本の自宅から東松山にある学校まで自転車で40〜50分かけて朝練に通う息子のために、母は朝5時前に起きて朝食と弁当を準備。1日に5合炊くが「私は朝にお茶碗一杯を食べるくらいなので、ほとんど一徹の分です」と玲奈さんは笑う。

 飯島は「お母さんのごはんは最高においしいです。とくに麻婆豆腐が一番好きで、いっぱい食べています」と玲奈さんとよく似た屈託のない笑顔で話す。

 取材時に感じる明るくハツラツとした性格は家でも変わらないという。「その日にあったことをいつも話してくれますし、よく笑わせてくれます」と玲奈さんは目を細める。

 試合のないオフシーズンは「この時期が一番大事」と、自らの体をいじめ抜いた。グラウンド横にある1周2キロの土手を多い日は10周。ウエイトトレーニングにも力を入れた結果、体と球威は強さを増した。

 そして5月18日から地元・埼玉で開催される春の関東大会に、東農大三は埼玉4位で挑む。昨年秋は初戦で佐野日大に最終回に逆転を許して2−5と惜敗。雪辱の思いは強い。

「エースとして不甲斐ない投球をしてしまったので、チームを引っ張るような強気の投球をしたいです」

 幼い頃から夢見てきた”甲子園”と”プロ”での活躍に向け、飯島一徹は一歩ずつ歩みを進めていく。