「社会人になってからというもの、なんだか仕事ばっかりだなあ…」

そんなふうに思うことがあるのは、筆者だけでしょうか。ついつい仕事を優先してしまい、気づけば友達と遊ぶ時間も、趣味を楽しむ時間もどんどん減り、筆者は最近、大切な恋人との時間さえ仕事のために犠牲にしてしまうようになってきてしまいました。

仕事は充実してるけど、ほんとうにこれでいいの…? こんなに仕事ばっかりで、将来家族との時間を大切にできるイクメンになれるのだろうか…?

そこで今回は、歌手、俳優など多方面で忙しく活躍されながらも、2度の育児休業を取得し「イクメン」の代表的な存在となったつるの剛士さんに、なぜ忙しいなか仕事と家庭を両立させられるのかお話を聞いてきました。

〈聞き手=サノトモキ〉


つるの剛士(つるの・たけし)】。二男三女の父親。「ウルトラマンダイナ」のアスカ隊員役を熱演して一躍注目を集めたのち、2008年に“羞恥心”を結成しリーダーとして活躍。現在は歌手、俳優、バラエティタレントとして幅広いフィールドで活躍中。将棋、釣り、サーフィンなど趣味も幅広く、好きになったらとことんやらなければ気が済まない多彩な才能の持ち主

サノ:
本日はよろしくお願いします!

つるのさん:
よろしくお願いします!

サノ君、恋人より仕事ばっかり優先しちゃうのが悩みなの? かっこいいねえ〜〜!



サノ:
いや、自分があまりにも仕事ファーストすぎて、将来まっとうな父親になれるのか本気で不安なんです!

つるのさんも仕事はめちゃくちゃ忙しいはずなのに、過去には2度も育休を取られてますよね。今日は、どうしたらつるのさんのような「イクメン」になれるのか教えてください!

つるのさん:
なるほど、なるほど。

あのね、サノ君はひとつ勘違いをしてるよ。

サノ:
勘違い…? なんでしょう?

つるのさん:
サノ君は、俺が育休を取ったから俺のことを「イクメン」って評価してくれてると思うんだけど、その考えがそもそも間違ってるんだよ。

俺は、自分が「イクメン」じゃなかったからこそ育休を取ったの。育休は、「イクメン」じゃない人にこそ必要な制度なのよ。


ど、どういうこと…?

収録後朝まで釣りに…。家族を顧みなかった20代

サノ:
育休は、「イクメン」じゃない人にこそ必要…

つまり、つるのさんにも家族ときちんと向き合えない時期があったということですか?

つるのさん:
それこそ俺も、20代なんて仕事ばっかだったもん。

20代後半で1人目の子どもが産まれたけど、この世界に飛び込んだ初期衝動が冷めないまま、仕事のことだけ考えてぶっ飛ばしてたから。

今のサノ君と同じ目をしてた。家庭のことなんて、ほとんど考えられてなかったよ。


つるのさんにもそんな時期が…

つるのさん:
あのころのスケジュール表は今でも額に入れて部屋に飾ってるんだけど、1日9本収録して寝ずに翌日のロケへみたいな日も本当にあって。

かといって大好きな趣味の時間を削るのも嫌だったから、収録のあと、楽屋から竿をもってそのまま夜のお台場に繰り出して、朝まで釣りしたりもしてた。

サノ:
控えめにいっても全然「イクメン」じゃない…

つるのさん:
まあ趣味も「絶対仕事につなげてやる」と思ってたから真剣だったんだけど、とにかく自分の仕事に対してがむしゃらだったの。

だけど、四女が産まれるとき…ちょうど「羞恥心」でめちゃくちゃ忙しい時期で、家庭を顧みず仕事ばっかり頑張ってることがいいのかわからなくなって。

サノ:
お仕事的には、絶好調のタイミングですよね。

つるのさん:
うん、だけど昔からの夢だった芸能界で思いっきり頑張っているはずなのに、自分を好きになれなかった。

もともと父から「家庭こそ人生の基盤。そこがうまくいかないと、人生はうまくいかない」と言われていたんですけど、まさに自分がそうなってることに気づいたんです。



つるのさん:
ただ、最終的に育休を取ることを決意した一番大きな理由は、「このままじゃ奥さんにフラれる」と思ったことなんだけどね。

女性はママになって“OS”が変わる。男性もアップデートが必要

つるのさん:
というのも、四女が生まれるころ…つまり僕が30代半ばくらいのときには、僕と奥さんは「親」としてのバージョンに圧倒的な差が生まれてしまっていて。

サノ:
「親」としてのバージョン??

つるのさん:
スマートフォンとかパソコンでも、本体のOSが更新されてバージョンアップするときってあるでしょ? 機能が拡張されて、できなかったことができるようになったりして。

それと同じで、女性は子どもが産まれるとOSのバージョンがガラッと変わるんです

それまで「恋人」だった奥さんが、一気に「ママ」にバージョンアップされていくわけ。


「もう、ホントに別物になる。聖なる域にいっちゃうの」

つるのさん:
でも、俺は出産という決定的な出来事を体験してないから、ずっと「恋人」からバージョンが変わってないんですよ。

だから奥さんの急激な変化にめちゃくちゃ戸惑ったし、奥さんは逆に、俺の変わらなさにイライラしてたと思う。

サノ:
「ママ」になった奥さんと、「恋人」のまんまの旦那さんか…

お互い目線が違うから、いろいろすれ違っちゃいそうです。

つるのさん:
まさにそうで、端末のOSが変わったら、当然アプリもOSに対応できるかたちにバージョンアップしないと使えなくなっちゃうでしょ? それと同じことが夫婦でも起こるの。バージョンがズレたまま無理に互いを機能させようとして、クラッシュしちゃう。

結婚当初とずっと同じバージョンでいつづけた俺というアプリは、子どもを産むたびにバージョンアップしていく奥さんのOSに対応できなくなっちゃったんです。


「そんなアプリ、ホーム画面から削除されちゃうよね」と遠い目のつるのさん。怖いこと言わんでください…

つるのさん:
だから、僕にとって育休は、自分をアップデートさせて「父親」としてのバージョンを奥さんに追い付かせるための“家庭訓練”の期間だったんです。

「イクメン」なんかじゃ、決してない。「このままじゃヤバイ」と一生懸命背伸びをしようとしていただけの「ただの父親」だったし、今もまったく同じ気持ちだから。

「育児休業」は“休み”じゃなく、「本当の理解者」になるための“訓練”

サノ:
でも、育休を取ることで仕事に穴を空けちゃうことは不安じゃなかったんでしょうか?

正直、取ることをためらっちゃう人も少なくないと思うんですけど…



つるのさん:
まあ、俺も「2カ月も休んで…戻ってくるところないぞ」って言われたりもしたけど、そういうこと含めてまだまだ社会全体が「育児」に対する理解が足りてない感じはすごくあるよね。

そもそも、「育児休暇」という言葉がもうおかしいもん。

サノ:
そ、そこから!?

つるのさん:
やってみればわかるけど、まったく“休暇”じゃないからね。「休み」なんて生やさしいものじゃなくて、ホントに“家庭訓練”くらいに思っておいたほうが実態に近いと思うよ。

育児がある意味仕事よりきついってことを、ひとりで家のことを切り盛りしたことのない僕たちは知らなさすぎるんです。

たとえば、ママたちがなんであんなにおしゃべりが好きか、わかる?


突然の出題。みなさんはわかりますか?

サノ:
いや、正直完全に謎です…どうしてですか?

つるのさん:
俺も育休取って初めてわかったけど、育児って朝から晩まで家のなかのお仕事に追われることになるから、家族以外ほぼ誰ともしゃべれないのよ。

朝・昼・晩、家族全員分のごはん作って、使ったお皿全部洗って、洗濯して服畳んで…本当に誰とも会うことなく一日が終わっちゃう。

俺、育休1週目で「仕事に戻りたい」って本気で思いましたから。

サノ:
それ、想像しただけでもめちゃくちゃ息苦しいです…

つるのさん:
だから俺も、塾の送り迎えのときママたちの輪に混ぜてもらってたりしてたもん。奥さんや子どもにぶつけちゃいそうなイライラをノートに書き殴ったりもしてたし。


「『早く弁当箱出せ。洗いたいから』とかね」

つるのさん:
ああ、あと、ママたちがSNSに手料理を投稿しまくる気持ちもわかるようになったなあ!

サノ:
どうしてなんですか?

つるのさん:
だって、誰も褒めてくれないんだもん。「ありがとう」も言ってくれないし。

毎日一生懸命作ってるのに誰にも認めてもらえないから、外部から「いいね」が欲しくなるの。俺も気づいたらバンッバン投稿してたもん(笑)。



つるのさん:
他にも、「ママってなんで10分前まで機嫌よかったのに急にキレ出すんだろう?」って思ったりしてたけど、あれもホントは全然急じゃないのよ。弁当出してくれないとか、油もの分けてくれないとか、小さな積み重ねが積もりに積もってキレたくなるの。

でもそういうこと、今はまだ全然わからないでしょ?

サノ:
…正直、もし今育児についての愚痴を聞いたとしても、全然苦しさを想像してあげられないんだろうなと思いました。

つるのさん:
そうだよね。だけどさ、仕方ないんだよ。

ママたちには申し訳ないけど、僕らも本当にわからないんだよ。だって、やったことがないんだから。



つるのさん:
でも、だからこそ僕らは、育休という「家庭訓練」の期間をうまく使って、「自分ひとりで一定期間家を切り盛りする」ということがどういうことなのか、体験してみるべきだと思うんです。

一回やれば、絶対に見方が変わるから。

サノ:
つるのさんが育休で一番変わったと感じたことって、何だったんでしょうか?

つるのさん:
何より、家のなかに「本当の理解者」がいると、それだけで家庭ってものすごく円満になるんです。

今日やったことの大変さを心の底から理解してもらえたり、いざというときに手伝ってくれる人がいるだけで、家庭の雰囲気ってホントに変わる。

もっといえば、「育児休暇」っていうけど、育児なんていったんどうでもいいのよ。

サノ:
えっ?

つるのさん:
お父さんとお母さんがちゃんとした関係を築けていれば、育児はどうとでもなるんだから。まずは、両親のバージョンをきちんと一緒に上げていくことが、何より大事。

うちだって、どんだけ奥さんと話し合って、喧嘩して、ぶつかりあって今の関係を築きあげてきたことか。

いきなり「イクメン」な男なんて存在しないのよ。「親」になることすら難しいんだから。

20代はそのままがむしゃらに

つるのさん:
まあだからさ、まだ20代でしかも結婚もしてない今のうちから、あれこれ考えなくていいんだよ!

真面目すぎ!


(グサッ…)

サノ:
じゃ、じゃあ、今のまま仕事に打ち込みまくっていいんですかね?

つるのさん:
そうだよ。今はそのまんま突っ走りなよ。

その時期にしかもてない熱量って、あるから。せっかく他の全部を犠牲にできるくらい自分の将来に注ぎ込めるようなエネルギーと熱量をもってるなら、今は肩の力抜くこと考えたらダメだよ。

サノ:
でも、やっぱり恋人に申し訳ない気持ちもいっぱいありまして…

つるのさん:
まあ、そうだよねえ。でもさ、そうやって苦しい時期を一緒に乗り越えた経験って、二人にとって何ものにも代えがたい財産になるんじゃない?

俺も、誰にも見向きされてなかった俺の原点みたいな時期を見ててくれてたからこそ、今も奥さんと信じあえてるところはあるからさ。

サノ:
くーっ…めちゃくちゃ励みになるお言葉です…!!

つるのさん:
心配しなくてもおじさんになったら勝手に肩の力抜けて、楽になってくるから。で、いつか結婚してお父さんになったときに、ちょっとだけ今日の話を思い出してよ。

…何これ。取材じゃなくて、人生相談じゃん(笑)。

ま、とにかく、今はそのまま行きな!


つるのさん、ありがとうございました!

家庭をもってからのこと、親になってからのことを教えてくれつつ、仕事を頑張る20代の背中を押してくれたつるのさん。本当にやさしく、あたたかで、素敵な人生の先輩でした。

育児休暇は「イクメンが取るもの」ではなく、働く親なら一度は経験する価値のある「家庭訓練」の期間。

僕も、「育休が自分を『父親』にバージョンアップさせる最高のチャンス」であることを肝に銘じながら、今はもう少し仕事をがむしゃらに頑張ってみようと思います。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

〈取材・文=サノトモキ(@mlby_sns)/編集=天野俊吉(@amanop)/撮影=藤原慶(@ph_fujiwarakei)〉

つるのさんからのお知らせ


つるの剛士 ベストアルバム『つるの剛士 ベスト』PCCA.04762/2枚組/3500円(本体、税別)発売中!

さて、そんなつるのさんは2019年に芸能活動25周年、4月には歌手デビュー10周年を迎え、これまでの歌手生活の集大成ともいえるベストアルバム『つるの剛士 ベスト』が絶賛発売中!

『M』や『糸』をはじめとする日本の名曲カバー集、またつるのさんご自身の代表的なオリジナルソングが収録された2枚組のアルバムです。

つるのさんの美しくも力強い歌声、そしてR25世代の胸の内に眠る少年心を目覚めさせてくれるような熱い歌詞を、ぜひご堪能ください!

つるの剛士オフィシャルサイト|ポニーキャニオン
http://www.tsurunoweb.com/

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