普通免許を「AT限定」で取る人が増えています。なかには、MTでの教習をAT限定に切り替えたり、失効後の免許をAT限定で再取得したりする人も。MT免許、もはや不要なのでしょうか。

MTの教習からAT限定へ移行する人も

 2019年現在、国内販売されているクルマのほとんどは、クラッチ操作が不要なAT(オートマ)車です。国内新車におけるその比率は、2010年代以降、98%以上で推移しています。


MT車の例。ホンダ「シビック タイプR」。

 普通免許の「AT限定免許」が登場した1991(平成3)年当時でも、日本ではAT車が年間販売台数の7割を超えていましたが、AT車の普及とともにAT限定普通免許の取得者数も増え、2018年末には約63%を占めます。また、同年に東京都内の指定自動車教習所で普通免許の教習を受けた人においては、約73%がAT限定で卒業している状況です。

 AT限定普通免許の教習は、MT免許と比べ法定の技能教習が3時限短く、値段も1万円から1万5000円ほど安くなります。逆にいえば、その時間と費用をかければMT車も運転できるようになるということ。平和橋自動車教習所(東京都葛飾区)によると、「MTで受講する人は『何かあったときのため、とりあえずMTで取っておけ』と親御さんに言われたから、という理由が大半ですね」といいますが、なかにはMTで受講していたところ、途中でAT限定に切り替えるケースも、年に数例あるそうです。

 平和橋自動車教習所によると、「つまづくのはやはり、クラッチなどの操作です」とのこと。すぐに要領を飲み込む人もいれば、足踏みしてしまう人もいるなど、どうしても個人差が出るといいます。「もちろん経験を積めば慣れてはいきますが、あきらめる方は、技能教習の第1段階で早々にATへ移行する傾向です」と話します。

 MTの普通免許は、トラックなどに乗ることを想定した需要もありました。しかし、2017年に準中型免許が新設されて以降、普通免許で乗れるクルマは、ほぼ乗用車に限られるように。平和橋自動車教習所によると、普通免許をMTで教習する人の比率はさらに減っているといいます。

 ちなみに、AT限定からMTの教習に切り替えることはできません。AT限定で免許を取得したうえで、改めて指定教習所や運転免許試験所における試験に合格し、その限定を解除する必要があります。

失効した免許の再取得は「ほぼAT」

 MT免許を取得していた人が、AT限定になるケースもあります。失効した免許を再取得する場合、MTかAT限定かを選んで受験できるのです。

 そのような免許の再取得に向けた教習を、25年以上にわたり行ってきたフジドライビングスクール(東京都世田谷区)の田中さんによると、MTで再取得する人は1割程度に留まるとのこと。「MT車を運転していないし、乗ることもない」「早く(免許を)取り戻したい」といった理由から、AT車で1、2時間練習して運転免許試験所の試験に臨む人が多いといいます。

「いちどMT免許を取得した人でも、MT車で最もつまづくポイントはクラッチの使い方です。クラッチペダルを踏む左の足首が動いていたり(ペダルは足首を動かさず膝を動かして操作する)、半クラッチのキープができなかったりする人が多いです。ペダルの踏み方からしてAT車では行わない動作なので、MT免許を持っていても慣れない人が多いでしょう」(フジドライビングスクール 田中さん)。

 仮にそのような操作ができたとしても、それを意識しすぎ、信号を見落とすなどして試験で落とされるケースも少なくないとのこと。一方、AT車で試験に落とされる場合も、「ルール守らない」ことが多いといい、黄色信号で進行したり、歩行者がいる横断歩道で止まらなかったりするケースを挙げます。


ホンダ「シビック タイプR」のペダル類。左端がクラッチペダル。

 ちなみに、レアケースながら、MT車に乗るために田中さんのもとへ練習に来る人もいるそうです。「スポーツカーや輸入車はMT車が多いです。AT車しか乗っていなかったところ、だんだんクルマ好きになってスポーツカーを買ったり、あるいは高級外車を買ったりした人が、『上手なMT車の操作を教えてほしい』と受講される場合があります」と話します。

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トヨタ「カローラスポーツ」のMT車にはコンピューター制御の「iMT」を搭載。ドライバーのクラッチ、シフト操作にあわせてエンジン回転数を制御し、滑らかな変速をアシスト(画像:トヨタ)。