Jタウンネットではこれまで、「名古屋飛ばし」について、芸能・テレビ関係の実体験を紹介してきたが、今回は角度を変えて、名古屋の教育機関の歴史を取り上げたい。紹介するのは、名古屋生まれで愛知県在住の30代男性の投稿だ。

名古屋で最もハイレベルな最高学府・名古屋大学も、実は「名古屋飛ばし」の憂き目にあったかのような歴史を持っていた。


名古屋市千種区にある名古屋大学東山キャンパス(Gnsinさん撮影、Wikimedia Commonsより)

明治維新の影響?

男性はまず、「旧制高等学校のナンバースクールができたのが最後」として、

現在でいうところの大学の教養課程に相当する旧制高校のうち数字を冠した「ナンバースクール」が第一高等学校から第八高等学校までの8校ありましたが、名古屋の第八高等学校は一番最後に設立されました。

と訴える。

明治時代に一高(第一高等学校)から八高(第八高等学校)までつくられたのが、旧制高校の中でもとりわけ格上とされるナンバースクールだ。

戦前の高等学校は今でいう大学の教養課程に相当する高等教育機関で、その都市の教育レベルの象徴でもあるから盛んに設立運動が行われた。

そのナンバースクール、確かに名古屋の八高は明治末期の1908年創立で、1886年創立の東京の一高に遅れること20年。他にナンバースクールがあった都市は設立順に仙台・京都・金沢・熊本・岡山・鹿児島で、現代人から見ると「後回し」にされたように感じるかもしれない。

もっとも、これには明治時代の政治的な事情も影響している。旧制高校の前身に高等中学校という学校が1886年から87年に設立されたが、この時開設された都市は東京・大阪・山口・金沢・仙台・熊本・鹿児島。

山口・熊本・鹿児島と明治維新に功績があり、発言権の強い地域に偏っているあたりで既に恣意的な配分であるが、それでも全国に48校設置された旧制高校の中では8番目と早い時期に開設されているから、明治政府も名古屋をそれなりに重視していたのではないだろうか。

請願レースに勝った、最後の帝国大学

帝国大学の方も名古屋が最後になった。投稿をくれた男性も、

帝国大学は9大学(国内の7大学・ソウル・台北)ありましたが、名古屋帝国大学は一番最後に設立されました

と訴えている。

名古屋帝国大学は1939年設立で、こちらは1886年設立の東京帝国大学に比べると半世紀も遅れた。帝国大学はまず首都東京、次に関西の京都に設立される。ここまでは納得ずくだが、この後政界では、1地方ごとの設立が優先され、東北帝国大学(1907年)九州帝国大学(1911年)、北海道帝国大学(1918年)が開学、さらに植民地の京城(ソウル)と台北にも設立された。

大正から昭和にかけては東に東京帝大、西に京都帝大と日本ナンバー1・2の大学があるので後回しにされた。これは残念ながら名古屋飛ばしの典型だろう。京都に近い大阪でも1931年に大阪帝国大学が開学し、当時の人口ベスト4の都会(東京・大阪・名古屋・京都)で帝国大学が無いのは名古屋だけになってしまった。

それでも名古屋での帝国大学設立の機運は高く、1927年には既に名古屋綜合大学設立期成同盟会が結成され、議会で名古屋市に総合大学の設立を請願する建議が可決されている。この年には名古屋の他にも岡山・新潟・金沢・広島・松江などからも総合大学設立請願の建議が可決されていて、結果的に名古屋はこれらの都市との誘致合戦に勝った形だ。

昭和10年代になると名古屋周辺は航空機産業を中心に重工業が発達し、軍需産業の一大拠点となる。これが政府に重い腰を挙げさせ、理工系を中心に高度な人材を育てるべく1938年に名古屋帝国大学開設が決まった。創設費は何と全額を愛知県の寄付で賄ったというから、地元の熱意がうかがえる。

見方を変えれば、帝国大学とナンバースクールをともに持つ都市は東京・仙台・京都・名古屋だけなのだ。福岡は明治初期には熊本の方が大都市だったために旧制高校設置は遅れ、大阪は先に高等中学校が設立されながら高校(三高)に改組する時に京都に移転してしまった。開拓が始まったばかりの札幌も北海道帝国大学こそ1918年設立だが、前身は札幌農学校とやや特殊な出自で、旧制高校は戦後の教育改革までついに設立されなかった。

教育制度にはしばしば政治的な事情が絡む。国政は名古屋の願望に応えきれていなかったかもしれないが、地元の尽力と産業の発展もあって国立大学開学にこぎつけた。

全国の旧制高校は戦後に新制大学の教養課程に統合され、帝国大学からは「帝国」の文字が外れ、八高は新制の名古屋大学に統合された。名古屋大学は地元で絶大なブランドを持っていて、「メイダイ」といえば明治大学ではなく名古屋大学だ。他の都市に先を越されても国立の大学をあきらめなかった先人の熱意が今も生きているということか。

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