by Christina Morillo

2003年2月1日に発生したコロンビア号空中分解事故は、アメリカのスペースシャトル「コロンビア号」が大気圏に再突入する際に空中分解を起こし、7人の宇宙飛行士が犠牲となった事故です。そんなコロンビア号の事故の背景には、とある「PowerPointのスライド発表」があったそうで、医師である教育者であるJames Thomas氏がスライドについて解説しています。

Death by PowerPoint: the slide that killed seven people - mcdreeamie-musings

https://mcdreeamiemusings.com/new-blog/2019/4/13/gsux1h6bnt8lqjd7w2t2mtvfg81uhx

PowerPointのスライドを用いた発表は仕事の会議や研究発表など、さまざまな場面で行われています。通常、スライド発表が失敗に終わっても視聴者の興味を失うだけで済みますが、過去には「7人もの宇宙飛行士の命を奪う結果になったスライド発表があった」と、Thomas氏は述べます。それが、コロンビア号空中分解事故の前に行われた、航空宇宙開発大手ボーイングによるスライド発表だったとのこと。

コロンビア号は2003年1月16日に打ち上げが行われ、微少重力状態がクモやアリに及ぼす影響などの科学的実験のミッション(STS-107)を行いました。打ち上げ自体は成功し、15日間に及ぶ宇宙飛行中に80に及ぶ実験が問題なく遂行されましたが、2月1日の再突入時に空中分解を起こして乗組員全員が死亡しました。

その原因と考えられているのが、発射から82秒後に外部燃料タンクの発泡断熱材が剥離し、左側主翼の耐熱保護パネルを直撃したことです。断熱材が左翼に衝突したこと自体はカメラの映像によって発射翌日には判明していましたが、地球上からでは左翼のダメージまでは確認できなかったとのこと。断熱材の剥離自体は過去の打ち上げでも確認されていたため、それほど問題視されていませんでしたが、大気圏再突入時の熱から翼を保護する耐熱保護パネルが、どれほど損傷したのかは問題と見なされました。

そこで、NASAの責任者らはボーイングのエンジニアたちと会議を行い、コロンビア号の損傷が危険なものなのかどうかを見極めようとしました。ボーイングのエンジニアらはPowerPointのスライドを28枚用意し、過去にとられたデータを基にした分析結果をプレゼンテーションしたとのこと。

エンジニアらが分析した過去データは、コロンビア号から剥離したものより600倍も小さい規模の断熱材衝突によって得られたものだったため、「実際のコロンビア号にはかなりの危険性がある」とエンジニアは認識していました。ところが、エンジニアが「十分に潜在的なリスクを伝えることができた」と感じていたのに反し、NASAの担当者らは「エンジニアにも詳しいことはわからないようだが、データによると乗組員の命を脅かす危険はないようだ」と判断してしまいました。

この食い違いによってコロンビア号は当初の予定通り大気圏へと再突入し、7人の命が奪われることとなってしまいました。もしもNASAがしっかりと危険性を認識することができていれば、当時発射準備中であったスペースシャトル・アトランティス号で救出を行うか、船外活動によって破損箇所を修復するといった対応が取れたかもしれません。

「一体なぜ、ボーイングのエンジニアが提出したデータは実際よりもはるかに小さい衝突規模で得られたものだったのに、NASAは再突入してしまったのか?」という点が、事故原因調査時に問題となりました。イェール大学のエドワード・タフテ教授は、コロンビア号の再突入前に行われたスライドを分析した結果、いくつかの問題点が見つかったと報告しています。

以下の画像はボーイングのエンジニアが、実際よりも600倍小さい規模の衝突から得られたデータを紹介した際のスライドです。赤線で囲んだ部分がスライドのタイトルですが、「Review of Test Data Indicates Conservatism for Tile Penetration(タイル貫通への保守性を示唆するテストデータレビュー)」となっており、一見すると耐熱タイルが断熱材の衝撃に耐えうると誤解を招きかねないものとなっています。タフテ氏は、スライドの中心に最も大きなフォントで表示されたこのタイトルが、ボーイングのエンジニアが本当に伝えたかった内容が失われてしまう一つの原因だったと述べています。

また、スライドは箇条書きの階層構造となっており、フォントサイズも次第に小さくなっています。この形式は内容の重要度を聴衆に無意識のうちにすり込み、下に行くに従って重要ではなくなっているように感じさせますが、実際のところ最も大事な内容はスライドの下部に配置されていました。

タフテ教授は断熱材を表す「SOFI」と「ramp」という単語が混在しているなど、曖昧な書き方になっている点も問題だと指摘。そしてスライドに100語以上もの単語が表示されており、「テストデータは実際の条件から大きく外れている」という重要な部分が最も下に位置しているため、聴衆が重要な部分にたどり着くのが困難であったと述べています。

事故後に行われたNASAの報告では、技術的な側面に加えて人的側面も事故の原因となったと批判しています。NASAにおけるPowerPointへの過度の依存が、技術的なコミュニケーションに食い違いをもたらし、結果として重大な事故につながってしまいました。

「もしもエンジニアが『テストデータの600倍以上の規模で断熱材が衝突しました』という言葉だけでスライドを作ったと想像してみてください。きっとNASAは何の対策もせずにコロンビア号を再突入させることはなかったでしょう」とThomas氏は述べ、PowerPointでスライドを作る際は重要な情報が失われないように注意するべきだと訴えています。