長谷部誠が語る仕事観・後編

 2002年に浦和レッズに入団した長谷部誠は、Jリーグ、ブンデスリーガでキャリアを積み重ねてきた。35歳になった現在も、フランクフルトの主力として第一線で活躍を続けられるのは、常に体や心の状態を整えてきた成果とも言える。

 そんな日々のルーティンをこなすモチベーションはどこから生まれてくるのか。日本代表での経験を含め、さまざまな歓喜と落胆を味わってきた長谷部が、その胸の内を明かした。


日本代表のキャプテンとしてロシアW杯を戦った長谷部

――前回に続いて、選手の”心”の部分からお話を伺います。ブンデスリーガのライプツィヒで指揮を執るラルフ・ラングニック監督は、「選手の能力は『才能×性格』で表わせる」と発言しています。才能が10あっても、性格が0なら能力も0になる。逆に、才能が2しかなくても性格が10あるなら、その選手の能力は20になると。長谷部選手から見ても、長くトップレベルでプレーをする選手には、そういった共通点がありますか?

「訳し方が合っているかはわかりませんが、ラングニック監督が言う”性格”とは、『どれだけ考える力があるか』だと思います。いわゆるパーソナリティ、ドイツ語では『ペルゼンリッヒカイト』(Persönlichkeit)と呼ばれるものですね。その”性格”の中にも、いろんな特徴があると思います。自分のことをきちんと理解できる選手、自分を律することができる選手、他人の言うことをしっかり聞ける選手、とかですね。勉強でいい成績が取れる頭のよさではなくて、考える力がある選手はケガも少なく、長く現役でプレーできるのではないかと思います」

――長谷部選手自身もそういった点を高く評価されていますが、その長谷部選手から見て、「すごい」と感じる選手はいますか?

「日本の選手では、中村俊輔選手と中澤佑二さんですね。2人にとっては普通なんでしょうけど、僕から見ても『やりすぎなんじゃないか』と感じることがあるくらい。たとえば中澤さんは、僕とご飯を食べに行く時も『じゃあ、夜8時に家に帰って寝ないといけないから、夕方5時集合で』ときっちり指定していた。徹底して自分のルーティンを作っているところは本当にすごい。僕はそこまではできないです。2人のように長くトップレベルでプレーできる選手は、しっかりしたルーティンを持っていますね」

――そんな中村選手や中澤さんとは日本代表で共にプレーしていましたが、長谷部選手の代表での”集大成”となったロシアW杯では気になる場面がありました。決勝トーナメント進出を決めた、グループリーグ第3戦のポーランド戦後に「真実は結果の中にしかない」とコメントしたことです。その試合で物議を醸した後半の”ボール回し”の戦術について述べた言葉ですが、その真意を教えていただけますか?

「簡単に言い表せることではないですけどね。それまで喜怒哀楽、山あり谷ありのサッカー人生を歩んできて感じていたのは、やはりプロの勝負の世界は”結果がすべて”ということ。『美しい負け方』と言われる試合とか、いろんな経験を経て辿り着いた自分の答えが、”結果を出さないと、何も得られない”ということだったんです。

“何も得られない”というのは、またちょっと違うのかもしれないけど……。とにかくあの時の言葉は、自分の中の感覚で出てきたというか、誰かに伝えようとした言葉ではないんです。(0−1で)負けた試合後の言葉としては、人によっては偉そうにも聞こえたかな、とも思います。だけど、苦渋も味わってきた自分の経験から出た言葉なので。正直、自分に言い聞かせていた部分もあった気がします」

――ロシアW杯で日本代表からの引退を発表しましたが、フランクフルトではヨーロッパリーグでベスト4に進出し、タイトルを取るという”大きな結果”を出すチャンスが訪れています。昨季はドイツ杯のタイトルも獲得していますが、その優勝報告会でフランクフルト市庁舎から見た景色はいかがでしたか?

「あそこからの景色はなかなか見られるものではないし、最高に気持ちよかったです。まあ、前の日にほとんど寝られなかったので、寝不足だったんですけど(笑)。あの時のようにファンのみんなが心の底から喜んでくれることが、何より選手たちのモチベーションを高めてくれます。

 それはサッカーに限ったことではなくて、たとえば子供が生まれた時、社会人だったら何か成果を出せたときの喜びは何物にも代え難いと思います。僕もそういう喜びを得るために、日々の当たり前の作業やルーティンをコツコツやり続けている。『ああいう瞬間を何度でも味わいたい』という思いが、活力になっています」

――だいぶ先の話になると思いますが、そういった瞬間を指導者として、たとえば監督として迎えるビジョンはありますか? フランクフルトの同僚であるマルコ・ルス選手は、「僕はアシスタントコーチだったらやれるけど、監督は無理だ。でも、ハセなら似合うよ」と話していましたが。

「いやぁ、どうですかね(笑)。ルスには、選手としてのキャリアを終えてからのビジョンがあって、自分にはコーチが合っていると感じているんだろうけど。僕は、正直なところ具体的には決めきれてない部分がある。『まだ現役を頑張りたい』という思いが強いので、それをやりきってから考えたいと思います」