中国は14億人という国民の行動をすべて点数化しようとしている

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 いま、中国では政府が個人を一方的に“格付け”し、その点数を可視化する信賞必罰の評価システムが広がりつつある。加点・減点の内容は、ボランティアや寄付行為といったものから、犬の糞処理やガムのポイ捨てまで細部にわたる。一体なぜこんなシステムを強制するのか。中国事情に詳しいニッセイ基礎研究所・保険研究部の准主任研究員、片山ゆき氏がレポートする。

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 中国政府は2020年までに、国民の社会秩序の向上を目指す「社会信用システム」の構築を目指している。アリババのゴマスコア(アリババグループの各サービスを利用し会員登録したユーザーの消費行動を偏差値化したもの)などとは別の、国による国民への“信用格付け”である。

 信用ポイントが高い人はより便利な生活サービスを利用でき、ルールを守らない人には行動の制限を加えるという、国による信賞必罰の評価システムである。

 じつは、2013年には、法の裁きに従わない人(「失信被執行人」)を中心に、行動に制限をかける信用システムがすでに始まっていた。2018年末時点では、中国の省庁、政府機関が連携し、個人や法人の情報を蓄積・管理する共同のプラットフォーム「信用中国」を構築している。

 一旦、失信被執行人と認定されれば、氏名、年齢、IDナンバー、法院からの通知内容、執行状況などが「信用中国」のウェブサイトで公表される。さらに、罰金を支払わないなど法院の命令に従わない場合は、移動や高額消費などを制限されることになる。

 例えば、航空券や列車などの上位席の購入、高級ホテル・ゴルフ場などにおける高額消費、不動産の購入、旅行・バカンス、子女の私立学校への入学、高額な保険料を必要とする保険商品への加入制限などである。

 このように、社会信用システムは、政府機関による“横の連携”に、中央政府、省・直轄市・自治区、地方都市(地方政府)など“縦の連携”が加わることで、大きな社会システムへと発展している。地方政府は、「信用中国」の地方版を活用しながら信用ポイントを運用し、民間のプラットフォーマーとも連携することでそのシステムを市民の末端まで浸透させるつもりだ。

◆品行方正であれば、住宅ローンが軽減

 では、地方政府による信用ポイントとは具体的にはどのようなものであろうか。各市で内容が異なるため、ここではモデル都市の1つに選出され、2018年11月に正式に運用が開始された山東省威海市を例に見てみたい。

 まず、威海市の信用ポイントの愛称は海貝ポイントだ。「海貝」(貝)は、中国古代において貨幣として利用され、富と信用を表すもので、威海市が海洋都市である点からも選出されたようである。

 対象者は、満18歳以上の威海市民となる。個人を対象とした海貝ポイントは1000点の持ち点からスタートする。評価項目は、日々の生活における行動が対象となり、最終的に、獲得したポイントの多寡に応じてAAAからDまでの6つにランク分けされる。AAAがランクとしては最も高く、B以上で一定程度信用度があると判断され、Cが信用度の警告レベルにあたる。(別掲・図表1)。

 また、海貝ポイントは、ゴマスコアなどプラットフォーマーによる商用系スコアとは異なり、学歴や職歴、家族などの個人情報は評価のポイント付与の対象外となっている。市民の生活における品行向上や法令・社会秩序の順守など、民度を引き上げる点により重きが置かれているからであろう。自身の点数は、ウェブサイトや専用のアプリなどで、氏名やIDナンバー、携帯番号を入力すれば確認が可能である(別掲・図表2)。

 では、努力して信用を維持し、ポイントを積み重ねれば、どんな特典があるのか。

 威海市は、海貝ポイントのレベルがAAA(1150点以上)、AA(1050〜1149点)の市民に対して、住宅ローン、文化・体育・観光、医療サービスなど13項目の特典を設けている(別掲・図表3)。

 例えば、AAAの市民は、住宅ローンの金利が通常の金利よりも5〜10%低くなる。中国において住宅は結婚などを見据えた上で重要なツールであり、高額化しているため、金利の引き下げはインセンティブとして大きい。

 また、病院に入院する際、病状の程度などに基づき一定程度の入院費を予め支払う(デポジット)必要があるケースがあるが、AAAの市民はこのデポジットを5万元分まで免除される。急な入院で多額の現金をすぐに用意できない場合を考えると、生活における一つの安心材料となるであろう。

 ただし、運用後まだそれほど経っていないことや、そもそも社会秩序、市民の品行やルール遵守を目的としていることから特典の内容はそれほど充実していない。また、信用ポイントの普及が優先され、低格付けの市民に対する罰則やデメリットなどは設けられていない。

◆噛んだガムはきちんと捨てないとマイナス20点

 加点・減点の項目には具体的にはどのようなものがあるのか。そもそも海貝ポイントの評価項目を分類してみると、(1)政府や国からの表彰・奨励(2)公共サービス(3)法令順守(4)社会責任の履行(5)道徳・公益の5分野となり、合計29分類3411項目にのぼる。

 減点項目がそのうち95%を占める3242項目、加点項目はわずか169項目である(別掲・図表4)。減点の項目数が圧倒的に多く、加点の項目数は限定的なため、点数をある程度維持するには、いかに減点されないか、いかに品行方正に生活するかが重要となってくる。

 減点の対象となる内容は、本人が受けた行政処罰の内容や程度、ルール違反の情況によって程度が異なる。中には、以下のように日本では考えられないような内容もある。

・鶏、アヒル、ウサギ、羊、豚などを届出せず飼育し、都市の景観や環境を損ねた場合:▲20点
・犬の散歩時に、犬がした糞をすぐに処理しなかった場合:▲20点
・ところかまわず痰を吐き、タバコの吸殻、ガム、飲物の空き瓶などを捨てた場合:▲20点
・水道代を期限内に納めなかった場合:▲10〜30点
・病院での医療費の支払いが遅れた場合:▲10〜30点
・届出をしていないデモや集会をした場合:▲50〜70点
・大型の宗教行事を届け出なく行った場合:▲20〜60点

 一方、加点内容は以下のように、本人の信用如何にかかわらず加点されるものもあり、必ずしも基準が明確というわけではなさそうである。

・オリンピック、世界選手権、アジア大会など国際大会で上位8位以内であった選手とその監督:+60点
・年間の寄付額が10〜50万元:+30点
・献血1回:+10点
・ボランティア1時間あたり:+1点など

◆中国は、近い将来を垣間見る実験場

 当初、中国でこのようなシステムの導入の検討が始まったのは、脱税行為や罰金の支払い逃れなどあまりにも法が守られず、裁判所の執行力が弱かったからである。広大な国土、14億人という莫大な人口、多民族で諸格差の大きい中国において、順法倫理の均質的な浸透には膨大な時間とコストがかかることは明らかであった。

 評価システムは、その隙を突いて、品行方正な市民をつくり、社会を安全にするツールとして、また、もともと品行方正な市民がきちんと評価されるツールとして政府が導入したものである。

 中国ではIT化が急速に進んだことや、ゴマスコアなど商用の格付けが先行して浸透していたこと、歴史的に個人情報を共産党が管理する制度があることなどから、国民は評価システムをすんなりと受け入れたとも見える。いまや政府は個人を格付けし、その点数を可視化することで、寧ろ市民間の競争心理を煽っている状態だ。

 日本でもマイナンバーカードなどによる資産の把握や、キャッシュレス社会の推進による脱税防止が指摘されている。EUと同様に個人情報に対するリテラシーが高い日本では、中国のこうしたシステムがすんなりと受け入れやすい土壌にはないであろう。

 ただし、現在中国で起こっていることは、程度や形を変えて、やがては世界や日本にも広がるであろう。そういった意味でも、中国は近い将来を垣間見る、1つの実験場なのだ。