高齢運転者による事故が相次ぐなか、運転免許を自主返納する人も増えています。しかし、高齢者ほど運転に自信を持つ傾向も。自分の衰えを客観視することが、運転をやめる判断にだけでなく、運転を長く続けるためにも必要かもしれません。

認知症は免許停止・取り消しの対象に

 高齢運転者の事故が増加傾向にあります。内閣府によると、死亡事故件数のうち75歳以上の運転者による事故の割合は、2012(平成24)年からの5年間で2.7ポイント増の13.5%。交通死亡事故件数が年々減少していくなかで、相対的に高齢運転者による死亡事故の割合が高まっています。

 このため、安全対策として運転免許の自主返納制度があり、自治体などが返納者向けの各種優待を用意するなど、返納をサポートする制度を整えています。


高齢運転者のイメージ(画像:Akhararat Wathanasing/123RF)。

 2017年には道路交通法の改正で高齢運転者対策が強化され、75歳以上の高齢者が3年に1度の免許更新時などに受検する「認知機能検査」で、認知症のおそれがあると判定された場合に、医師の診断が義務化され、そこで認知症と診断されれば免許の取消や停止の対象となりました。こうしたこともあり、同年と2018年には年間42万人以上(2016年と比べて約6万人増)が免許を自主的に返納しています。

 とはいえ、免許の返納は日常の「足」を失うことにもつながります。免許の「定年制」や、更新時に技能試験を設けるべき、といった議論もあるものの、実現には至っていません。免許の返納、どう考えるべきなのでしょうか。

 損害保険大手の損保ジャパン日本興亜によると、「免許返納のきっかけは、『そろそろお父さんもやめといたら』と、家族から促されることが多いようです。しかし、『いや、俺はまだ大丈夫』と考える人も少なくありません」とのこと。

 そのような家族からのニーズもあり、カー用品店「オートバックス」を展開するオートバックスセブンは、後付け可能なアクセルペダルの踏み間違い防止装置「ペダルの見張り番」を2016年から販売。当初は大きく注目されたそうですが、「最近は売上が落ち着いてきています。というのは、やはり『私は大丈夫』と思う高齢のお客様が進んで買うことはなく、店側としても積極的に勧められないのです」と話します。

年齢が上がるにつれ「運転に自信」

 一方で、高齢運転者による痛ましい事故も相次いでいます。2019年4月19日(金)には、東京・池袋で87歳の男性が運転する乗用車が赤信号を無視して走行、歩行者をはねるなどして10人が死傷する事故が発生しました。このドライバーは2017年の免許更新時に行った認知機能検査で問題なしと判定されていたことが、複数のメディアで報じられています。

 損保ジャパン日本興亜によると、年齢が上がるにつれて、運転への自信が高まるという調査結果もあるとのこと。自分の衰えを自覚するには、自分の運転を客観視することが必要だといいます。

 同社をはじめ損害保険各社はこの点に着目し、ドライブレコーダーを活用した保険の特約に「運転診断機能」を追加しています。自動車保険におけるドライブレコーダーの活用は本来、事故の客観的な証拠とすることが主目的ですが、これを、自分の運転の見直しに生かすというわけです。

「全国の保険加入者の運転データと比較して、自分の運転能力の衰えが客観的に把握できます。当社の商品では視覚機能や認知機能をチェックするコンテンツもあり、免許更新時における認知機能検査だけでなく、定期的な診断に役立ちます」(損保ジャパン日本興亜)


「運転診断機能」の画面例。ドライブレコーダーに基づく運転操作などのデータから、運転機能の衰えの兆候がフィードバックされる(画像:損保ジャパン日本興亜)。

 これには、「MCI(軽度認知障害。認知症ではないが、認知機能が年代別平均値から一定以上低下した状態)」の早期発見につなげ、「運転寿命の延伸」を図る狙いがあるといいます。

「MCIの状態は、認知機能の低下防止に効果があるとされる運動などの対策をとれば、健常な状態へ回復する可能性があるといわれています」(損保ジャパン日本興亜)

 損保ジャパン日本興亜の調査では、50〜70歳代の85%以上が、クルマの運転は「趣味・生きがい・生活の手段としてなくてはならないもの」と答えているとのこと。「運転診断機能」は「長く、安全に運転するために、早い段階で手を打っていただくこと」を狙っているそうです。

【グラフ】年代別「運転への自信」 年齢が上がると…


損保ジャパン日本興亜の調査による年代別「運転への自信」の推移。70歳以上は「あてはまる」「ややあてはまる」が6割を超える(画像:損保ジャパン日本興亜)。