ふしぎなモノも? 米国車、ダッシュボード進化の歴史 前編
技術の進化とともに
米国主要メーカーのデザイナーたちが、長く抑え込まれていた創造性を一気に爆発させた時期があった。
エクステリアデザインにも同じことが言えるが、結局のところ、スタイリングというものは、それぞれの時代の消費者の好みを反映しているに過ぎない。
振り返ってみれば、こうしたさまざまなデザインをもたらしたものは、テクノロジーの進化であり、もっとも風変わりなダッシュボードデザインが登場したのは、各メーカーが自社のモデルにコンピューターを搭載し始めた頃だった。
1950年代以降、量産されたモデルだけでも、米国自動車メーカーからはさまざまなダッシュボードデザインが生み出されている。
シボレー・コルベット(1953年)
初代シボレー・コルベットの魅力は、パワーではなく、まるでコンセプトカーのようなそのスタイリングにあった。
その未来的なデザインはキャビンにも及び、このクルマのデザイナーは、ダッシュボードを左右対称にするとともに、スピーカーを速度計のような形状にして、そのなかに埋め込んでいる。
さらに、6つのメーターをダッシュボード下側に並べると、デザインの連続性を保つべく、イグニッションキーはその左側に配置されている。
当時、ダッシュボードの右側に置かれた回転計について、このクルマのオーナーは、助手席パッセンジャーからのほうがよく見えるとジョークを飛ばしていたほどだった。
インペリアル・クラウン(1960年)
クライスラーの最高級ブランドであるインペリアルは、1960年に登場したクラウンのオーナーに、ジェットエンジン時代の雰囲気を感じて欲しいと考えたようだ。
このクルマのデザイナーは、楕円形をしたステアリングの後ろに、電界発光照明を持つジェットタービンに似せたふたつのメーターを配置するとともに、その両側にはボタンを垂直に並べている。
左側に置かれたボタンで、ドライバーはオートマティックのギアシフトを行うとともに、右側のボタンではエアコン操作が可能だった。
インペリアルでは、121ドル(2019年現在では1000ドル/11万2000円に相当)のオプションとして、電動回転シートを用意していた。
マーキュリー・クーガー(1967年)
マーキュリーではクーガーのインテリアをデザインするにあたり、スペースが足りなくなってしまったに違いない。
オーバーサイズハブを持つステアリングホイールの背後にふたつの巨大なメーターを配し、残ったダッシュボードスペースには、時計を含め、5つの計器類をちりばめていたが、なぜか圧力計は助手席側ダッシュボードへと追いやられてしまっていた。
その結果、クーガーのインテリアは、パフォーマンスクーペというよりも、まるでボートのキャビンのような雰囲気だったが、1960年代後半、クーガーがベースとしたフォード・マスタングでも同じようなインテリアデザインが採用されていた。
オールズモビル98(1970年)
1970年、意図的かどうかは分からないが、オールズモビル98のダッシュボードには、その4つのヘッドライトによく似た4眼式メーターが配されており、こうしたデザイン手法は、時代や場所を問わず、あまり一般的とは言えないだろう。
各メーター自体の機能は、速度計といったごく一般的なものであり、ドライバーはT字型スポークを持つステアリングホイール越しに、この4眼式メーターを目にしていた。
キャデラック・クーペ・ドゥビル(1971年)
ドライバー中心のダッシュボードと聞いて、キャデラックを思い浮かべることはあまりないかも知れないが、1971年のクーペ・ドゥビルでは、ドライバーがコックピット中心に座っているかのようなレイアウトが採用されていた。
速度計とラジオ、さらには数多くのスイッチ類が、運転席側に向けて設置されたパネルに纏めて配置されていた。
ワイパーのスイッチはドアパネルに設置されており、姉妹ブランドのオールズモビルでは、トロネードを筆頭に、1970年代前半、同じようなドライバー中心のレイアウトを採用していた。
フォード・サンダーバード(1980年)
2019年現在、ほとんど忘れ去られたようなモデルだが、8代目フォード・サンダーバードは、なんとか伝統ある名前を残そうと、当時急ごしらえで登場したクルマを象徴するようなモデルだった。
マスタングと同じフォックス・プラットフォームを採用したことで、先代モデルよりもボディ全長は短くなり、サンダーバードとして初めて6気筒エンジンを積んだモデルでもあったが、問題は3.3ℓ直列6気筒にもかかわらず、そのエンジンパワーが89psに留まっていたことだった。
フォードでは、その未来的なテクノロジーによって、このクルマを選ぶひとびとが、6気筒エンジンの貧弱なパワーを忘れてくれることを期待していたに違ない。
エントリーグレードは通常のアナログ式だったが、フォードではオプションとしてデジタル式速度計や燃料計を備えた電子式ダッシュボードを用意していた。
その価格はグレードによって275ドルと313ドル(2019年現在の価値では、それぞれ850ドル/9万5000円と960ドル/10万8000円に相当)とされており、さらに、316ドルを支払うことで、いまのSNSとも言える短波無線を手に入れることも可能だった。
サンダーバードをベースとしたマーキュリー・クーガーでも同じ電子式ダッシュボードを採用していたが、1982年にこの2台がモデルチェンジを迎えると、その後、フォードがデジタルメーターに手を出すことはなかった・・・
キャデラック・シマロン(1982年)
しばしば、キャデラック史上最大の失敗作とされるシマロンだが、このクルマはBMW 3シリーズやサーブ900といった欧州からの輸入車に対抗すべく登場したモデルだった。
そのため、シマロンには他のキャデラックよりもスポーティな味付けが求められたが、インテリアデザインを行うころには、キャデラックの創造性も枯渇してしまったようだ。
シボレー・キャバリエがシマロンのベースモデルだったことは明らかであり、インテリアにも数多くの共用パーツが使用されていたが、さらに問題だったのは、その樹脂製パーツの品質も同じようにオモチャレベルだったことだ。
キャデラックとしては異例とも言えるインテリアレイアウトを採用していたシマロンは、そのせいもあって散々な評価を受けることとなった。
シボレー・カマロ・ベルリネッタ(1982年)
1980年代、デジタル化が時代のトレンドだった。シボレーでは、カマロ・ベルリネッタの燃料計や水温計といった計器類にはアナログ式を残しつつ、速度計と回転計をデジタル化するとともに、ダッシュボード右側には、警告灯をまとめて配置していた。
手の届く範囲に、テキサスインスツルメンツ製電子計算機が羨むほど数多くのボタンが配置されたベルリネッタのキャビンに座ったドライバーは、まるで宇宙船のキャプテンにでもなったように感じたことだろう。
フォード・サンダーバード(1983年)
1980年代初頭、フォードにとっての高級化とはハイテク化を意味していたのであり、9代目となるサンダーバードでは、回転計や速度計に電子表示を用いるとともに、リアルタイム燃費や平均速度といった情報も表示可能な複数のグレードを用意していた(そのなかには、なぜか「ヘリテージ」というグレードも含まれていた)。
さらに、上級グレードではマルチファンクション式ステアリングホイールとデジタル表示付きエアコン、さらにはイコライザーを備えたオーディオシステムまで装備されていた。
しかし、残念ながらベルギーのワッフルショップで見たことがあるようなエアベントが、キャビンの高級感を台無しにしていた。
6代目マーキュリー・クーガーはサンダーバードと密接に関連したモデルであり、このクルマのオーナーは同じようなデジタルインテリアを選ぶことができた。
シボレー・コルベット(1984年)
4代目シボレー・コルベットのダッシュボードは、まるで硬い漆黒のプラスチック塊から削り出したかのようだった。
メータークラスターにはふたつの速度計が設置され、ひとつ目はデジタルで速度表示を行い、ふたつ目はバー式スピードメーターだった。
速度表示の上限を85マイル(137km)に規制していた米国の法律が1981年に改正されたにもかかわらず、シボレーを含め、多くの米国自動車メーカーはその後数年間もこの規制に従っていた。
オーディオシステムとエアコン、警告灯、さらにはボタン類を集約した小さな塊が、センターコンソールにある一連の囲いのなかに配置されていた。
幸い、キャビンに彩りを求めるコルベットオーナーのために、カーペットとシートのカラーには、赤や青といった色を選ぶことができた。
