小売業としてのイオンがパッとしない。金融事業や不動産事業は好調だが、中核となる総合スーパーや食品スーパーがかんばしくないのだ。店舗経営コンサルタントの佐藤昌司氏は、「『トップバリュ』のてこ入れに加え、『連邦経営』の問題点に向き合う必要がある」と説く――。
イオンモール幕張新都心(千葉県美浜区)=2016年8月10日(写真=時事通信フォト)

■増収増益で悪くないように見えるが……

小売業としてのイオンの未来に暗雲が立ち込めている。

4月10日発表の2019年2月期の連結決算は、売上高が前期比1.5%増の8兆5182億円、営業利益は0.9%増の2122億円だった。増収増益で、悪くはないように見える。だが、その内実は必ずしも喜べるものではない。

事業別の収益状況を見てみよう。総合スーパー(GMS)事業は、売上高が前期から横ばいの3兆806億円、営業利益は2.3%増の115億円だった。3兆円を超える売上高を誇るが、そのわりに営業利益はわずかしかない。売上高営業利益率は0.4%にとどまる。

食品スーパー事業は、売上高が0.2%減の3兆2350億円、営業利益は18%減の251億円だった。営業利益率はGMS事業よりは高いが、それでも0.8%である。

■小売りあっての金融業と不動産事業

このように、イオンの中核であるGMS事業と食品スーパー事業はかんばしくない。企業としては金融事業や不動産事業に収益源を頼る状況が依然として続いている。金融事業の営業利益は708億円、不動産事業は555億円だ。こうした状況を見るとイオンの本業は、もはや小売業ではなく金融業と不動産業といったほうがよさそうだ。

もっとも、金融事業と不動産事業で利益を稼ぎ出せるのは、スーパーなど小売り事業があってこそだ。金融事業ではクレジットカードやATM、電子マネーなどで収益を上げており、これらのお客は主にイオンのスーパーの利用者である。不動産事業は商業施設「イオンモール」などでテナント先から賃貸収入を得ており、そうした商業施設の魅力を高めるにはイオンのようなスーパーが欠かせない。低利益率とはいえ、スーパーが果たしている役割は小さくない。

だが、スーパーで十分な利益が出せない状況は不健全だ。改革は急務だが、動きは滞っている。特にダイエーの負の遺産の整理が、待ったなしの状況だ。

■セブンプレミアムの半分強のトップバリュ

関東、近畿、名古屋の旧ダイエーGMSを運営するイオンリテールストアの売上高は、前期比2.5%減の1383億円、営業損益は61億円の赤字(赤字幅は前期から10億円縮小)だった。

九州の旧ダイエーGMSを運営するイオンストア九州の売上高は1.0%減の564億円、営業損益は13億円の赤字(前期からほぼ横ばい)となっている。食品スーパーを運営するダイエーの売上高は4.3%減の2803億円、営業損益は40億円の赤字(12億円縮小)だった。いずれも売上高を減らしながら採算性を改善しているが、営業赤字に変わりはない。

ダイエーは創業者の中内功氏が進めた「価格破壊」が消費者に支持され、一時は日本最大の小売業として名を馳せた。しかし、「価格は安いが、欲しいものがない」と揶揄されるようになり、次第に業績は落ち込んだ。イオンはダイエー再建のため、15年に完全子会社化し、プライベートブランド(PB)「トップバリュ」の販売などを始めた。しかし、抜本的な改善には至っていない状況だ。

どうすればダイエー事業を含む各スーパーの利益率を高めることができるのか。

ひとつには、「トップバリュのてこ入れ」が挙げられる。トップバリュは近年低迷が続き、力強さを欠いている。18年度の売上高は7755億円で前年度からは増えたが、14年度の7799億円には届かない水準だ。その規模は競合のセブン&アイ・ホールディングスのPB「セブンプレミアム」(18年度は1兆4130億円)の半分強に過ぎない。トップバリュの競争力を高めることが必要だろう。

■顧客志向の徹底がセブンプレミアムの強さ

もうひとつは「顧客志向の徹底」だ。上位に立つセブンプレミアムの強さは、ここに由来しているように思う。鈴木敏文セブン&アイ元会長は、書籍『セブンプレミアム進化論 なぜ安売りしなくても売れるのか』(朝日新聞出版社/緒方知行、田口香世)のインタビューで、こう指摘している。

「お客さまの立場に立って、質をどこまで高められるか、それがマーチャンダイジング(商品政策)の変わらぬ基本だろうと思うのです」
「質の追求ということは、お客さまの立場にとことん立つということです」

鈴木氏が繰り返し訴えているのが、顧客の立場に立って考えること、すなわち顧客志向を徹底させることだ。この考えはもちろん正しく、それゆえにセブンプレミアムが売れているのだ。

■顧客の意見を吸い上げる体制もセブンが先行

たとえばセブンプレミアムは、2009年に顧客参加型のコミュニティサイト「プレミアムライフ向上委員会」(現・セブンプレミアム向上委員会)を立ち上げている。以来、そこで顧客からの意見や要望を積極的に吸い上げ、開発に生かしてきたのだ。

一方、イオンは顧客に向き合う姿勢が十分とはいえない。それがトップバリュの弱さにもつながっている。特に顧客の意見や要望を吸い上げる体制は不十分だ。13年頃からは、顧客の意見や要望を積極に吸い上げた「商品カルテ」を作成し、それを開発に反映させる取り組みを始めているが、その成果は見えづらい。

セブンプレミアムは情報開示の面でも顧客志向を徹底している。商品に共同開発した企業名が明記されているのだ。この取り組みは消費者ニーズに応えるもので、安全性などに敏感な消費者には強く訴求する。

■PB商品に製造企業を明記するか

一方、イオンはこれまで製造企業を明らかにしてこなかった。その理由についてイオンは「イオンが責任を持って商品を企画し、販売している」と説明してきた。その考え方は理解するが、より顧客に支持されるのはセブンプレミアムのやり方ではないだろうか。

もっとも、2015年に施行され、20年3月末までに完全施行される食品表示法で、一般消費者向けの加工食品は製造者の名称や工場の所在地の表示が義務づけられた。このためトップバリュについても2割ほどで製造企業が表示されるようになった。ただ、あくまでイオンの対応は受け身であるように感じられる。

イオンの顧客志向が不十分と思える事例は他にもある。子会社のイオンペットが、ペットの預かりサービスで「屋外で散歩をさせる」と宣伝しながら、実際にはしていないケースがあったとして、消費者庁から景品表示法違反(優良誤認)に当たるとして4月3日に再発防止の措置命令を受けている。

■景表法違反も顧客志向の不徹底の現れ

イオンペットは15年9月〜18年10月、ウェブサイトや店頭ポスターに預かったペットを屋外で散歩をさせる写真を掲載し、「お散歩朝夕2回」と記載。しかし、広告を掲載した177店のうち107店は一部またはまったく実施していなかったという。これは顧客を欺く行為で悪質だ。

また、イオン子会社のイオンライフは、2017年3〜5月に、葬儀サービスについて新聞広告で「追加料金不要」と宣伝しながら実際には別料金がかかるケースがあったとして、消費者庁から景品表示法違反(優良誤認)に当たるとして17年12月に再発防止命令を受けている。いずれも、イオンの管理不行き届きが指摘されてしかるべきだろう。

■「連邦経営」ゆえの問題が表面化している

イオンは積極的なM&A(企業の合併・買収)を行ってきたが、その経営は子会社の独自性を重視する「連邦経営」が特徴だ。M&Aの対象となる企業としては、連邦経営であれば高い独自性を保つことができるので傘下に入りやすい。これを呼び水に次々と企業を傘下に収め、売上高で小売業首位に君臨するにまで成長した。

しかし、連邦経営であるがゆえにイオンの理念が浸透しきっていないという問題が表面化している。イオンは強力な指導力を発揮して顧客志向を徹底し、それにより顧客が望むPB商品やサービスを開発・提供していくべきではないか。それができなければ、ダイエーを含めたスーパーを立て直すことはできないだろう。イオンはこのことについて真剣に考える必要がありそうだ。

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佐藤 昌司(さとう・まさし)
店舗経営コンサルタント
立教大学社会学部卒業。12年間大手アパレル会社に従事。現在は株式会社クリエイションコンサルティング代表取締役社長。店舗型ビジネスの専門家として、集客・売上拡大・人材育成のコンサルティング業務を提供している。

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(店舗経営コンサルタント 佐藤 昌司 写真=時事通信フォト)