東京23区と横浜、川崎の店舗ではその他の地域と比べ、21円高い(記者撮影)

カレー専門店「CoCo壱番屋」(ココイチ)のカレーの値段が上昇している。

運営する壱番屋は3月1日、国内全1267店のうち約8割の店舗で、ポークカレーの価格を21円(税込み、以下同)引き上げた。これにより、ポークカレーの価格は東京23区など都心部の店舗では505円、それ以外の地域では484円となった。

カレーの組み合わせは「1億通り」

ココイチの来店客は、カレーソースをポークカレーなど4種類から選び、「ロースカツ」や「スクランブルエッグ」などのトッピングを付ける。ご飯の量や辛さもそれぞれ客の好みに指定でき、その組み合わせは全部で「約1億通り」という。その都度、自分好みの食べ方ができる仕組みが顧客から支持を受けている。

今回値上げされたポークカレーは、メニューブックに「基本のカレー」と記載されるほど、94%の顧客が注文する人気商品だ。残りの6%の顧客が注文する「ビーフソース」、「ハッシュドビーフソース」もポークカレーに先駆けて、2018年12月に32円値上げした。

3月に新しく就任した壱番屋の葛原守社長は値上げの理由について、「人件費や原材料の価格が上がっているのに加え、食材製造工場の改修費用もかさむ」と説明する。

実は、ココイチの値上げは今に始まった話ではない。ベースとなるポークカレーの値上げは、2016年12月から2017年12月にかけて地域ごとに値上げをした。今回はそれ以来2年ぶりの値上げとなるが、トッピングやライス増量の値上げ、地域別価格帯の見直しなどを含めれば、近年ではほとんど毎年値上げが行われている。

たとえば、人気のロースカツカレーにトッピングでチーズを選び、辛さを1辛、ライスを400グラムにした場合。都心部の税込み価格は2013年の1000円から1030円→1084円→1115円→1140円と、年々上昇してきた。6年間で14%値上げした計算になる。

値上げ戦略に苦しむ外食チェーン

外食チェーンでは、値上げ後に客離れを起こして苦しむことが多い。牛丼チェーンの吉野家は2014年12月に牛丼(並盛)の価格を300円(税込み)から380円(同)に値上げした際、既存店の客数は半年以上にわたり前年同月比10〜20%の大幅な減少に見舞われた。

焼き鳥居酒屋チェーンの鳥貴族も、2017年10月に全品280円(税抜き)から298円(同)に値上げしたものの、2017年12月から16カ月連続で既存店客数の前年割れが続いており、苦しい状況を抜け出せない。

一方、ココイチは度重なる値上げにもかかわらず、月次の既存店客数は前年同月を上回ることが多い。2019年2月期(2018年3月〜2019年2月)も12カ月のうち8カ月で前年超えとなった。値上げ初月となった今年3月も、客数は前年同月比0.2%減とほぼ横ばいを維持。値上げにより顧客1人あたりの客単価が1.5%上昇し、既存店売上高は前年を1.3%上回った。

ココイチのメニューはカレーソースとトッピングの価格が別建てとなっているため、一つ一つの値上げ幅は大きくない。そのため、「値上げしていたことを知らなかった」(20代男性)と話す顧客は多い。

加えて、トッピングや辛さなどの組み合わせによって自分好みのカレーが選べるココイチは、“独占市場”を作り出しているともいえる。「ココイチでは値段を気にせず、自分の好きなようにアレンジして食べる」(別の20代男性)との声もある。熱烈な固定客が多いからこそ、段階的な値上げも受け入れられるのだろう。

値上げに成功して既存店売り上げも好調、となれば壱番屋の収益も順調に伸びそうなもの。しかし、前2019年2月期の業績は売上高こそ前期比1.5%増の502億円だったものの、本業のもうけを示す営業利益は44.4億円と、47.1億円だった前期と比べて5.7%の減益となった。


一段の値上げを実施して臨む今2020年2月期においても、値上げによる利益改善効果を11億円ほど見込むものの、営業利益はわずか1.9億円増の46.3億円にとどまる見通しだ。

人件費やポイント還元で伸び悩む利益

利益が伸び悩む理由の一つが、人件費の上昇だ。社員の賃金ベースやアルバイトの時給アップを背景に、人件費の増加基調が続く。また、10月に実施される消費税の軽減税率に対応するため、レジや受発注システムの更新費用が必要になる。

同時に、キャッシュレスで決済をした顧客に対するポイント還元費用ものしかかる。中小企業にあたるフランチャイズの店舗では、国の財源でポイントが還元される。だが、直営店は大企業にあたるため、国の還元策が受けられない見通し。

顧客からすれば外形上はフランチャイズ店と直営店の違いはわからず、ポイント還元が受けられる店とそうでない店があれば、混乱を招きかねない。そのため壱番屋では、本社が負担する形で直営店(全体の14%)でもポイント還元を実施する方針だ。

これらの一つ一つが重荷となり、値上げが浸透しても利益の大きな回復には至らない。際限なく値上げを続けるわけにもいかず、少なくともここ1〜2年は我慢の時期となりそうだ。