4月上旬の会見で握手を交わしたフォルシアのパトリック・コラーCEO(左)と、クラリオンの川端敦社長(記者撮影)

また1社、日本のカーエレクトロニクス(カーエレ)メーカーが株式上場廃止となった。

日立製作所の子会社でカーナビゲーションシステム(カーナビ)やカーオーディオを手がけてきたクラリオンは3月末、自動車部品大手のフランス・フォルシアの完全子会社となった。これに伴い上場企業としての56年の歴史に終止符を打った。


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クラリオンは日本で初めてカーラジオやカーステレオを開発したカーエレの老舗だ。2006年には協業関係にあった日立の子会社となった。そんなクラリオンだが、ここ数年は苦戦が続いていた。2019年3月期も主要客先である日産のアメリカ向けの純正ナビや中国向けの不振により、期中に業績予想を下方修正。売上高1500億円(前年同期比18%減)、営業利益25億円(同66%減)と減収減益を見込む。

日立は2019年3月期までの中期経営計画で営業利益率8%を必達目標として掲げ、子会社を含む事業ポートフォリオの見直しを進めている。具体的には、利益率達成の足を引っ張る事業や市況に左右されるコモディティー製品事業を切り離しており、クラリオンも売却対象となったのだ。

フォルシアが見込んだシナジー

フォルシアは自動車部品メーカーとして世界10位、約2兆2000億円の売り上げを誇る。シート、内装品、排気系部品が中心だが、近年はカーエレ領域を強化しており、中国とフランスの企業を買収。今年1月から2月に株式公開買い付け(TOB)を行い約1400億円でクラリオンを傘下に加え、カーエレ事業を第4の柱とする。

フォルシアのパトリック・コラーCEOは「クラリオンには、オーディオだけでなく、乗客モニターやADAS(先進運転システム)のハード・ソフト技術ともにノウハウがある。フォルシアとは、内装のモジュール化に大きなシナジーが見込める」と意気込んだ。


クラリオンはカーナビを中心に次世代コックピットの受注を狙う(写真:クラリオンのHPより引用)

自動車業界はいわゆるCASE(コネクテッド・自動化・シェアリング・電動化)の流れが加速する中、部品メーカーにもピンチとチャンスが訪れている。音響システムを組み込んだシートや、インフォテインメント(情報娯楽)システムと一体化したコックピットのニーズが高まるとされており、フォルシアはクラリオン買収でこの領域に攻勢をかける。

実は、クラリオンも安全警告をシートの振動で伝える次世代内装システムや次世代コックピットなどの開発を進めていた。事業化には苦戦していたところ舞い込んできたのがフォルシアからの買収話だったという。クラリオンの幹部は「まったく業態の違う会社なのに、われわれとフォルシアの出した将来の車内のコンセプトはとてもよく似ていた」と振り返る。

近年、国内のカーエレメーカーが相次いで買収されている。

2017年には富士通子会社だった富士通テンをトヨタ系の自動車部品最大手・デンソーが買収。2018年12月にはアルパインが親会社のアルプス電気に完全子会社化されて上場廃止となった。オーディオやレーザーディスク、プラズマテレビで一時代を築いた名門・パイオニアも昨年、香港系ファンドに総額1020億円で買収され、今年3月27日に上場廃止となった。背景にあるのは、主力のカーナビ事業に吹き荒れる逆風だ。

一般的にナビを含むカーエレ事業は、市販用と自動車メーカー向け(純正用)の2つのビジネスに分けられる。市販用は純正用に比べると粗利率が高い反面、販促費がかさむ傾向がある。その市販用がナビの標準搭載比率の上昇を受けて競争は熾烈で、市場の単価下落が止まらない。スマートフォンのナビ機能の進化も続いており、この先の成長も見いだせない。

純正用は、自動車メーカーに採用されれば比較的安定するものの薄利の商売だ。にもかかわらず、日進月歩で進化するスマホ対応などで開発費は高騰している。ナビ事業の収益性が厳しくなる一方だ。

シート大手が欲しがったクラリオンの技術

他方、CASE対応を進めるうえで、カーエレメーカーが持つセンサーやソフトウェアの技術に価値を見いだす、フォルシアのような企業もある。クラリオンは日立グループの車載事業の中で自動車庫入れ機能や大型駐車場でのバレーパーキングなど低速領域での自動運転技術の開発を担当していた。コラーCEOは、「完全自動運転までの移行期には、クラリオンの低速での自動運転技術が重要となる。クラリオンと組まなければ、未来のインテリアビジネスをグローバルに展開する、というわれわれの大志を実現できない」と言い切る。


クラリオンは買収を機に業績を回復させることできるか(写真:尾形文繁)

この発言にはリップサービスがあるにしても、1400億円をつぎ込んだ買収にフォルシアが大きな期待をかけているのは間違いない。新たに設立したカーエレ部門を「フォルシア クラリオン エレクトロニクス」と名付け、拠点は日本、クラリオンの川端敦社長を部門責任者としていることにもそれは見て取れる。

フォルシアの顧客は欧州メーカーが中心で、日米メーカーが主要顧客のクラリオンとは取引先の補完関係も成り立つ。クラリオンとしても欧州メーカーへの販売が拡大すれば、稼働率低下に苦しんでいるハンガリー工場の立て直しにつながる。

日立からは切り離されたものの、積み上げてきた技術力が身を助けたと言える。今回、クラリオンにとっては初めての外資傘下入り。シート会社フォルシアの力を借り、巻き返すことができるか。