女性誌『Suits WOMAN』で注目を集めた「貧困女子」。これは普通の毎日を送っていたはずが、気がつけば“貧困”と言われる状態になってしまった女性たちのエピソードです 。

畑中花乃子さん(仮名・38歳)は、月収手取り10万円で、実家の会社を手伝っています。実家は東京都内にあり、かつては裕福だったけれど、今は倒産寸前だといいます。

「実家に働くようになったのは、短大出たものの、就職氷河期でどこも就職できなかったからです。それで、家の仕事を手伝うことにしたのです。母は喜んでいましたが、父は渋い顔をしていました。思えば、あの時に社会に出ていれば、今みたいに家の地縛霊にならなくて済んだのに……と思います」

「私は家の地縛霊」という言葉は、お話を伺っているときに、何度も登場しました。それを意識したのは、34歳で始めた婚活のとき。

「もともと引っ込み思案だったので、親や親戚が縁談を持ってきてくれたんです。最初に結婚の話が出たのは、21歳の時でした。相手は10歳年上の公立高校の先生で、なんかキモい人だったから断っちゃったんですよね。今、すごく後悔しています」

花乃子さんの実家の仕事は、工業製品の部品加工業。

「昔は仕事もいっぱいあって、うちにもお金がありましたが、今は多くのメーカーさんが海外に工場を移転してしまって、親子3人が食べていくのがやっとという状態なんです。66歳の母のパートの収入や、75歳の父の年金、兄夫婦からの仕送りがなければ、今の生活はできないと思います」

それに気が付いて、花乃子さんは婚活を始めました。それまで、母親は友達と働くのが楽しいから外で仕事をしているのだと思っていたそう。

「女の子なんだから、頑張らなくていいよ」と言われて育つ

「5歳年上の兄は、幼いころから独立心が旺盛。高校時代から、家にあまりいつかなかったんです。だから両親は私をよく面倒見てくれたんだと思います。兄の成績はガミガミ言っていたのに、私に対しては『女の子なんだから勉強なんて頑張らなくていいよ』と言っていました。中学校で部活を選ぶときも、私はテニス部に入ろうと思ったのですが、『そんなキツい練習、花乃子ちゃんには無理よ』と反対され、美術部に入りました。高校から私立の女子高に進学し、そのまま短大を卒業しました」

学生時代に男性とつきあった経験はなく、それどころか、今までバイトもしたことがなかったといいます。

「男の人には興味はありましたが、縁はありませんでした。ウチは高校時代の門限が19時で、短大になってからは21時だったので、飲み会も満足に参加できなかったですし、バイトもできませんでした」

合コンに行かなかったのは、門限のせいもあるけれど、男性が怖いことも理由。短大1年生の時に行った飲み会で、ある男性からのアプローチを断ったら『ブスが調子乗るな』と大きな声で言われたことがあったから。

「酔った男の人は、うるさいし、タバコ臭いし、手を握られたり体を触られたりして、本当に不快でした。それに対して『やめてください』と言ったら、暴言で返されたのです。あとは、ずっと仲が良かった女の子たちに彼氏ができると、顔も服もガラリと変わってしまったことにも、取り残されたような気持ちになりました」

花乃子さんは、“ヲタク”にもなれなかったそうです。

「仲がいい友達が、アニメやドラマに夢中になって、ものすごく深い知識を持っていたり、漫画を描いていたりするのに、私はそこまで何かを好きになれないんです。一緒にイベントに行っても、何が何だかさっぱりわからない。その結果、途中で帰ってきてしまい、やがて、誘われなくなるのです。個人的には仲良しですよ。でもヲタク仲間と結婚して子供もいるから、話が合わなくなってしまって、今では1年に1回くらい会うだけです」

花乃子さんの容姿は、ポッチャリしているけれど不美人ではありません。うりざね顔にボブヘアが上品。無難な黄色のカーディガン、白のブラウス、デニムパンツの組み合わせで、全体的に清潔感があります。

「この服も母が買ってくれました。ずっと一緒にいたから気づかなかったのですが、親は気が付けば“老人”になっているんですよね。4年前にやっとそのことに気が付いたのです。このままでは、私は一人になる。それが怖くて、婚活をすることにしたのです。でもホントにあれは不毛な戦いでした」

都内にある実家は築30年。水回りなどの配管にガタがきているという。

毎回、意気消沈して帰ってくる娘を見かねて、両親は「親の婚活」に乗り出す〜その2〜へ続きます。