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普段はテクノロジーにあまり縁がなくても、この1週間は「5G」という言葉を耳にした人も多いのではないだろうか。総務省は4月10日、第5世代移動通信システム(5G)で使用する周波数を、国内の通信4社(NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイル)に割り当てることを決めた。これを受け、日本で2020年春に本格的な5Gの商用サーヴィスがスタートする。来るべき5G時代の幕開けを象徴する出来事といえる。

次世代の通信規格となる5Gの特徴は、「超高速大容量」「低遅延」「同時多接続」である。2時間の映画を数秒でダウンロードできると言えば、その速さは伝わりやすいかもしれない。

5Gの通信サーヴィスでは、大量の情報を瞬時に、しかも遅延なくやりとりできる。このため、さまざまなモノとモノの接続、すなわちIoT(モノのインターネット)の普及が加速するはずだ。さまざまなセンサーが取得した情報をリアルタイム処理する必要がある自動運転技術についても、実用化を後押しすることになるだろう。

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5Gではデータをクラウドに瞬時に送り、複雑なタスクを処理した結果を遅延なく受信することが可能になる。このため端末側の負担が減り、ますますシンプルな構造になっていく。そうなれば未来の生活では、いわば「スマートスクリーン」のようなものが、鏡やクルマの中など、身の回りのあちらこちらに置かれているかもしれない。

いつの時代も、新たなテクノロジーが想像もつかなかったようなサーヴィスを生み、ひいてはわたしたちのライフスタイルを変えてきた歴史がある。そんな変化が、5Gの時代にも起きることになる。

一体感を超える「新感覚」に期待

それでは5Gの商用化は、未来の生活にどのような変化をもたらすのだろうか。

身近な一例を挙げると、超高速大容量の通信サーヴィスによって、スポーツ観戦をもっとリアルに楽しむことができるとされている。5Gの通信を利用したKDDIの実証実験では、野球の試合風景をあらゆる角度から観られる自由視点の映像を、リアルタイムで複数のタブレット端末に配信することに成功している。スタジアムにおいて座席の位置にかかわらず、観客はバッターボックスの選手を好きなアングルで眺めることができるのだ。

また、あらゆるデヴァイスがインターネットを通じてつながる5Gのシステムを生かせば、テレビでスポーツの試合を観ながら、選手の心拍や脳波も一緒に感じられる未来すら訪れるかもしれない。選手に取り付けたセンサーを通じて、心拍数などの情報が視聴者の身に着けているウェアラブル端末に送られるといった具合だ。それは、観客席にいるときの一体感や臨場感を超えた新しい感覚ではないだろうか。

5Gを活用したベライゾンの仮想現実(VR)ヘッドセットを着け、デモンストレーションするNBA選手のアンソニー・デイヴィス。PHOTO: PHILIP PACHECO/ANADOLU AGENCY/GETTY IMAGES

高解像度な画像を低遅延で送受信できる5Gの通信は、人が立ち入りにくい危険な場所での作業にも役立つと期待されている。例えば、地震による崩落現場で無人の油圧ショベルを遠隔操作で動かす場合、現地の精密な画像やスキャンしたデータなどをリアルタイムで確認できれば、作業効率と安全性の向上につながるだろう。

米国と韓国で火花

5Gの商用化を目指す動きは諸外国でも活発化している。米国と韓国を舞台に今月上旬、スマートフォン向けサーヴィスの開始を巡って火花が散ったことは話題になった。米通信大手のベライゾンが、当初11日に予定していたサーヴィスの開始を約1週間前倒しして、世界初を韓国通信大手から奪還しようとしたのだ。これに対して韓国の通信大手3社も対抗してさらに前倒しすることで、“世界初”を宣言した。

こうした国際的な5G戦線に目を向けると、日本はスタートが出遅れたと言わざるを得ないだろう。今後は実用的なサーヴィスを他国に先駆けて展開できるかが、存在感を示す鍵となる。

国内では19年9月のラグビーワールドカップにおいて、いくつかの会場で試験運用が始まる。NTTドコモが意欲を示しているほか、KDDIは愛知県の豊田スタジアムと大阪府の花園ラグビー場で、上空からドローンで撮影した高解像度の映像を5Gの通信で伝送して、警備に活用することが報じられている。

商用化は東京オリンピック・パラリンピックの開催年である20年にスタートする。通信4社は21年春までに全都道府県でのサーヴィス提供を目指す。

しかし、5Gの恩恵を列島の隅々まで行き渡らせるには、課題もある。現時点では進んでいない基地局の整備がその代表例だろう。5Gで使用する電波は4Gに比べて長い距離を飛びづらく、また直進性が高いため壁の内側やビルの陰などには届きにくい。つまり、これまでより多くの基地局を設置しなければならない。

超高速で大容量の通信を謳う「本物の5G」を多くの人が体感するには、越えるべき壁があるのだ。

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期待と課題とともに動きだした5Gの時代。ここで「WIRED.jp」で公開された編集記事から5本を紹介しよう。