フランスに1−3というスコア以上の惨敗を喫し、選手間ミーティングを重ねることでそのショックを払拭して臨んだドイツ戦(世界ランク2位)。35分に長谷川唯(日テレ・ベレーザ)が先制点を挙げると、追いつかれた後の69分にはパスミスをさらった中島依美(INAC神戸)とパスをかわしながら横山久美(AC長野パルセイロL)がゴール。その後、2点を失ったがドローで終え、何とか6月のワールドカップ本大会へつながる結果を残した。


中島依美のアシストでゴールを決めた横山久美(右)

 ゴールへの匂いは確かにしていた。あとはその瞬間を待つだけだった。

「そろそろ来そうですよね」

 フランス戦の惨敗を振り切るかのように、ドイツ戦を前に自身のゴールを予感していたのが横山だった。

 このところスタメン出場というチャンスを得ていながら、対戦してきたアメリカ、ブラジル、フランスなど世界トップクラスのチームを相手にゴールという結果を出せず、期待に応えられていなかった。

 それでもフランス戦の後半、最初に飛び出した横山のシュートはファーストタッチからかつてないほど最速で振り抜いた。

「日本だったらゴールになっていたはず。フランスはDFの足が伸びてきた。これが世界との差なんだと感じました」(横山)

 それでも、型にハマらず、タイミングを外す意表を突いたシュートが彼女の真骨頂。調整のために何度もシュート練習を繰り返していた。

 その積み重ねが結実したのが、ドイツ戦でのゴールだった。一度目の中島からのパスで横山はシュートを選択するつもりでいた。

「でも、寄せてきた選手がフランクフルト時代の元チームメイトだったんで、たぶん自分を狙ってくると思った」

 そう読んだ横山は、すかさず中島へボールを戻す。すると、欲していたマイナス方向のボールが中島から返されてきた。あとはシュートを決めるだけ。一見、パスミスをした場面に見えたが、計算したうえで導き出したゴールだった。

 2015年、当時の佐々木則夫監督の指揮下では、横山はスーパーサブとしての役割が大きかった。与えられた限りある時間で”結果”を残すことを義務づけられていた彼女は、課せられたミッションを成功させることでその存在を印象づけてきた。

 その姿勢は今でも変わらず、高倉麻子監督の就任後も横山は招集され続けている。それでも、同時期から招集されてきたライバルたちが振り落とされていくのを目の当たりにして、「結果がすべて」と奮い立たせてきた。

 若手だった横山も、現在25歳。所属チームでは看板選手という立ち位置だ。

「チームでは全部のことをバランスよくできるようにしています。シュートよりパスを選ぶことが多いです」(横山)

 だが代表チームに入れば、その役割はストライカーへと変わる。その大きな違いを楽しめるようになってきた。

「普段は違う観点で練習をやっているけど、代表では自分の高みを求めて練習ができる。チームでは苦手な部分を克服して、代表はそれを生かせる場所です」

 代表では17ゴール目で、もちろん現在のメンバーのトップスコアラー。そして何よりゴールが量産されるゲームではなく、決めてほしい試合で決める嗅覚がある。意外にも、この6月からのフランスワールドカップがフル代表で初の世界大会となる。メンバー入りへしっかりと爪あとを残した。

 しかし、明るい材料ばかりではなく、チームとしての課題は解消されていない。失点はドイツに完全に崩されたもので、危険な選手を危険なエリアで立て続けにフリーにしてしまい、それは90分を通して何度も起こりうることだった。ドイツのようなトップレベルとの試合では、少しのミスが必ず失点につながることをあらためて思い知らされたシーンだった。

 2失点目も、タイミングがひとつズレて、すべてが後手に回ってしまった。パスワークで相手を崩してチャンスを作るのは、もはや日本の専売特許ではなく、アメリカ、フランス、ドイツなど強豪国も高いレベルで実行できている。ただし、これも想定内ではある。こういった流れの中でも、同等の攻撃力で得点を奪うことができるかどうかが、勝負の分かれ目となる。

 この日の試合でいえば、2得点とも相手GKのパスミスから生じたものだったが、それをゴールにつなげたことは評価できるポイントだ。欲を言えば、崩した形、さらにはセットプレーなど、いくつか見ておきたいゴールの形はあった。

 しかし、ピッチ上でフランス戦ほど相手に圧倒されることなく対応していく選手の姿に、監督、コーチ陣も胸をなでおろしたのではないだろうか。フランス戦から中4日で、ドイツのよさを消しながらゴールを奪う形に至る軌道修正は、このチームの強みがそのまま発揮されたと言っていい。

 阪口夢穂(日テレ・ベレーザ)、岩渕真奈(INAC神戸)、籾木結花(日テレ・ベレーザ)らがケガで離脱しているとはいえ、これでW杯メンバーの最終選考が終わった。最後までベストメンバーで固定することをしなかった指揮官が、誰を最後のメンバーとするのか。最終メンバーが招集されたあとの約2週間の積み上げが、ワールドカップでの明暗を分けそうだ。