「完全自動運転の到来は、まだ先になる? フォードCEOの発言に見る実現までの長い道のり」の写真・リンク付きの記事はこちら

完全な自律走行車は、期待されたほど早くは実現しないのではないか──。フォードの最高経営責任者(CEO)であるジム・ハケットが、そんな趣旨の発言をした。自動車業界やテック業界では、こうした意見を躊躇なく述べる企業幹部が増えている。そこにさらに新しい顔ぶれが加わったかたちだ。

ハケットは業界が「自律走行車の実現を買いかぶりすぎていた」と、デトロイト経済界の会合で4月9日(米国時間)に語っている。フォードは2021年までに無人運転車両を開発する目標を変えていないが、「その展開はジオフェンス(仮想境界線)の内側の非常に限られたものになる。なぜなら非常に複雑な問題をはらんでいるからです」と認めたのだ。

マーケティングが技術を先行

自律走行車は2016年の時点で、まもなく実現するとされていた。その実態について業界幹部たちは公然と本音を語ってきたが、ハケットはその最も新しい顔ぶれとなる。

ほんの3年前、Uberはピッツバーグで限定的な自動運転サーヴィスを披露し、グーグルは自律走行車を開発するウェイモ(Waymo)を独立企業としてスピンアウトさせた。日産自動車は、2020年までに自律走行車をデビューさせるという目標に沿って、計画を進めてきた。これは2013年にカルロス・ゴーンが公約として掲げたものだ。

さらに2016年には、ゼネラルモーターズが自動運転技術を開発するクルーズ・オートメーションを5.8億ドルで買収している。当時のフォードCEOだったマーク・フィールズは、同社が2021年までに都市部でカーシェアリングと配車サーヴィスを提供する計画に向け、数千台の自律走行車を用意するだろうと語っていた。

そしていま、ハケットたちは業界のマーケティングやメディアの見出しが、技術よりも先行しすぎてしまったかもしれないと認め始めている。最近は経営幹部たちは、自律走行車がいつ実現するのか約束することを控えるようになっている。

「時期については約束しない」

昨年11月にはウェイモCEOのジョン・クラフチックが、「自律走行の技術には必ず何らかの制約が伴う」と語り、本当にどこへでも行ける自律走行車は実現しないかもしれないと示唆した。ウェイモはフェニックス郊外で限定的な自動運転サーヴィスを提供しているが、安全のために必ず人間のオペレーターを運転席に座らせている。

要するに「ドライヴァーレス」は厳しい目標なのだ。日産のシリコンヴァレー開発センターの技術トップは、いまでは完全な自律走行車の概念を公に否定している。この3月には「人間が関与しない自律走行のシステム」について、「役立たずのシステム」であると語っている。

昨年はUberの自律走行車が試験走行中に、アリゾナ州で女性をはねて死亡させる事故がおきた。このあとUberはピッツバーグでの限定的なテストに立ち戻り、2人のオペレーターを同乗させている。

Uberの自動運転を統括するチーフサイエンティストのラケル・ウルタスンは、自律走行車が実現する時期について、ロイターのインタヴューに次のように語っている。「それは究極の難問です。わたしが最初に学んだのは、時期については約束しない、ということなんですよ」

問題は「いつ」ではなく「どこで」実現するか

ウルタスンの言葉は、自動運転技術の開発者たちの間で高まっている心情を代弁している。いまでは自律走行車がいつ実現するかではなく、どこで実現するかが関心事なのだ。

現時点での自動運転技術は、特定の条件下でのみ機能するように開発されている。日差しが明るくて広いアリゾナ州の道路、ボストンの混沌とした市街地、陽のあたるマイアミの街道、そして郊外に広がっていくサンノゼの道──といった具合だ。

ハケットの発言を待ち受けていたかのように、ウルタスンはこうも語っている。「自動運転はまずごく一部の地域で始め、そこから各地へと広げていきます。その転換を可能な限りスムーズに進めるのが難しいのです」。要するに、あなたが「ごく一部の地域」に住んでいないなら、あまり期待できない、ということなのだ。

こうした反応とは対照的にゼネラルモーターズは、今年中の自律走行車の展開に向けて「予定通り」進んでいるという。しかし、同社にとって初となる、限定的なサーヴィスをどこで実施するのかについては、いまのところ言及していない。また同社は、ハケットの発言についてコメントしていない。

完全な自動運転の実現を阻む“壁”

完全な自動運転の、どこがそんなに複雑なのだろうか。まずひとつ目に、自動運転技術に対する国の規制がなく、州がそれぞれ試験ルールを設けることに苦労してきた点である。そして業界関係者によると、ふたつ目はもっと遠くをさらに低価格で“見る”ことができるセンサーの開発と改良だ。それらがあって初めて、自動運転技術の広い展開が可能になる。

そして開発者たちは、より優れたアルゴリズムの開発にも取り組んでいる。乗員や荷物を傷つけることなく、新しい環境の不確実さに適応できるアルゴリズムが求められているのだ。

一方、フォードは2021年までに、自律走行車による何らかの商業サーヴィスを米国の1都市以上で展開する予定だという。同社はすでに子会社のアルゴAIと共同で、ミシガン州、マイアミ、ピッツバーグで試験走行を実施している。

CEOのハケットは、さらに広範な「モビリティ・プラットフォーム」を開発する計画についても説明している。すなわち、自律走行車の時代がやってきたときに、それらを都市が管理しやすくするためのオペレーティングシステム(OS)だ。

テスラは本当に完全自動運転を提供できるのか?

こうしたなか、まだ自動運転に関する過剰なアピールをやめていない“門外漢”がいる。シリコンヴァレーからやってきたディスラプターの元祖、テスラだ。

テスラは昨年10月、5,000ドルする「完全自動運転機能」のオプション装備をウェブサイトから削除していた。ところが、2カ月ほど前から再び販売し始めたのだ。

CEOのイーロン・マスクは、19年末までには完全な自動運転機能が「完成」し、20年末までには顧客に完全提供されると語っている。ドライヴァーが「オートパイロット」機能をオンにすると、理論上は自分のクルマが複雑な都市環境のなかでも自動的に運転してくれる。しかも、運転席で眠ってしまっても問題なくなるというわけだ。

マスクは自分で掲げた期日を守らない実績で知られている。だが、“群れ”の流れに逆行していくのも、またテスラなのだ。