3歳牝馬クラシック第1弾の桜花賞が終了。今週は3歳牡馬クラシック第1弾のGI皐月賞(4月14日/中山・芝2000m)が行なわれるが、正直、その行方はさっぱり読めない。

 なにしろ、年明けの前哨戦では波乱が続出し、有力視されていた素質馬たちがことごとく馬群に沈んでいったからだ。そのうえ、昨年末のGIホープフルS(12月28日/中山・芝2000m)を勝って、1番人気が予想されるサートゥルナーリア(牡3歳)も、同レース以来のぶっつけで皐月賞に挑んでくる。およそ3カ月半ぶりの競馬で、本来の力が発揮できるのか、不安は尽きない。


1番人気が予想されるサートゥルナーリア

 ここまで未対戦の馬も多く、とにかく実力比較が難しい3歳牡馬戦線。こうなったら、もはやプロの目に頼るしかないだろう。

 ということで、今回も競走馬の分析に長(た)けた元ジョッキーの安藤勝己氏に3歳牡馬の実力診断を依頼。間近に迫った皐月賞、さらには競馬界最高峰の舞台となる日本ダービー(5月26日/東京・芝2400m)に向けて、どの馬が有望か検証してもらい、独自の視点による「3歳牡馬番付」を選定してもらった――。


横綱:サートゥルナーリア(牡3歳)
(父ロードカナロア/戦績:3戦3勝)

 今年の3歳牡馬の中では、この馬は1頭抜けている。無傷の3連勝で、どのレースも本当に強かった。

 前走のホープフルSでは、スタートしてサッと自分からハナに立った。そのままでも楽に勝てたと思うけれど、そこで、鞍上のミルコ・デムーロ騎手はあえて位置取りを下げた。番手の競馬とか、馬込みに入った時の競馬とか、そういうのを教えたかったのだろう。でもそれは、馬に対してよほどの自信がなければ、できることではないよ。

 そうして、直線を迎えると(前が壁になって)行くところがなくなってしまったが、前を行く馬の間にわずかな隙を見つけると、ものすごい脚でその間を割ってきた。あの脚こそ、”横綱の脚”だね。

 この馬は血統面もしっかりしている。兄のエピファネイアも、リオンディーズも”バケモノ級”の強さがあった。ただ、ちょっとクセのあるタイプで、それが災いして、ともにダービーを勝つことはできなかった。

 その点、この馬は乗りやすそう。操縦性に優れている、と言えばいいだろうか。そこが、この馬の一番の長所だね。兄たちと同等の能力があって、しかも兄たちに不足していた乗りやすさも備えているんだから、文句をつけようがない。

 皐月賞がホープフルSからのぶっつけになったことは、どこか悪いところがあったわけではなく、早くから決断されていたことを踏まえれば、むしろそれは、陣営の自信の表れ、と見るべきだろう。

 とにかく、ここまで3戦、どれも違う競馬で勝っているし、しかも楽勝。弱点らしい弱点も見当たらない。春のクラシックは2つとも、この馬でイケる。

大関:アドマイヤマーズ(牡3歳)
(父ダイワメジャー/戦績:5戦4勝、2着1回)

 この馬の一番いいところは、先行脚質でレースがうまいところ。追えば確実に伸びるし、しかも叩き合いに強い。この”並んだら抜かせない”という勝負根性には見るべきものがある。

 その点は、現役時代に自分が乗っていた、この馬の父ダイワメジャーによく似ている。本当に、いいところをそのまま受け継いだ感じがするね。

 一方で、ダイワメジャーによく似ている分、「案外、距離が持たないのではないか」といった声が聞かれる。

 結論から言えば、まったくそんなことはない。実際、ダイワメジャーは2500mの有馬記念でも3着と好走。本質的には長い距離のレースが苦手、というわけではないのだ。ただ、ダイワメジャーは喉に弱点があって、それが長い距離のレースになると影響することがあった。言い換えれば、アドマイヤマーズにおいても、血統からくる距離不安はないはずだ。

 ここまで5戦して、前走のGIII共同通信杯(2月10日/東京・芝1800m)で初めて2着に敗れたけど、あれこそ、まさに”勝負のアヤ”。少頭数のレースにあって、行く馬がいなかったから、押し出されるようにハナに立った。その結果、勝った馬の目標にされたうえ、瞬発力勝負になってしまったことが最後に響いた。

 でもあれは、決して力負けではない。この馬の得意の流れになれば、違った結果になっていたはず。サートゥルナーリアだって、この馬が最も力を発揮する、ゴール前での叩き合いになれば、結構手こずると思う。

関脇:ダノンキングリー(牡3歳)
(父ディープインパクト/戦績:3戦3勝)

 3戦3勝と、この馬もサートゥルナーリア同様、ここまで土つかず。無敗でクラシックを向かえる馬は、やはり”何か”がある。

 この馬の場合、その何かは父ディープインパクトに似ていること。つまり、瞬発力に優れている、ということだ。とくに一瞬の脚には見どころがある。動きたいところでパッと動けるし、パッと動いてピュッと切れる。

 3勝目を挙げた前走の共同通信杯では、その特徴が存分に生かされたレースだった。道中は内につけて、前を行くアドマイヤマーズを壁にして追走。そうして、直線半ばで内側に進路がガバッと開くと、ピュッと抜け出していった。あの脚はトップレベルの切れ味だったね。

 しかも、負かしたのが、2歳チャンピオンで、自分が大関に挙げたアドマイヤマーズ。これは、かなり評価できる。

 でも、アドマイヤマーズに実際に勝っていながら、同馬よりも評価が下なのは、この馬には長所と背中合わせの弱点があると思うからだ。それは、いいところだけでなく、悪いところも、父ディープインパクトによく似ている点にある。

 まずは、性格が前向きすぎること。ゆえに、折り合いの不安がつきまとう。しかも、馬のつくりがやや華奢で、すごく敏感な感じで、オンナ馬っぽい印象さえある。こういうタイプは、追ってからの伸びがそれほど長くは続かない。距離的には2000mくらいまで、ではないか。

 よって、この馬は皐月賞が勝負レース。得意の瞬発力勝負になって、どれだけ戦えるか。そこが、戴冠へのカギとなる。

小結:ヴェロックス(牡3歳)
(父ジャスタウェイ/戦績:5戦3勝、2着1回、着外1回)

 最も印象に残っているレースは、小倉のデビュー戦(2018年8月5日/小倉・芝1800m)。直線に入っても、騎手が手綱を持ったままで、突き抜けていったからね。正直、あのときは内心で『今年は、これや!』と思った。

 でも、その後が案外だった。勝ち切れないレースが2戦続いた。自分の『これや!』は、少々見込み違いだったかもしれない。

 敗因を分析するうえで参考になるのが、2戦目のオープン特別・野路菊S(2018年9月15日/阪神・芝1800m)。おそらく騎手が競馬を教えようとしたのだろう、一番いいスタートを切りながら、あえて下げた。それでも、直線では逃げる馬の直後まで迫って、抜群の手応えがあった。その際、鞍上も『楽勝』と思ったはずだ。

 ところが、追ってから思ったほど伸びず、2着に終わった。

 もともと、跳びがきれいすぎる馬。こういうタイプは、周りからプレッシャーを受けずに、自分のリズムで走ると、新馬戦のようにめちゃくちゃ強い。でも、野路菊Sのように前で粘る馬たちと叩き合いになったりして、自らのリズムを崩されてしまうと、思ったほど力を発揮できない。まだ、精神面が弱くて、それがレースに出てしまったわけだ。

 でもこの馬は、野路菊Sと続くGIII東京スポーツ杯2歳S(4着。2018年11月17日/東京・芝1800m)と、2回続けて負けたことが、結果的によかったかもしれない。負けて、少し休ませたことで、馬がすごくよくなったような印象がある。前走のオープン特別・若葉S(3月16日/阪神・芝2000m)も完勝。1頭だけモノが違う、という感じだった。

 そうは言っても、今度は相手が違う。そのレベルが違う相手を敵に回して、はたして自分のリズムで競馬ができるかどうか。好走のポイントはそこにある。

前頭筆頭:ランスオブプラーナ(牡3歳)
(父ケープブランコ/戦績:6戦3勝、2着2回、3着1回)

 前々走の500万下・アメリア賞(3月3日/阪神・芝1800m)、前走のGIII毎日杯(3月23日/阪神・芝1800m)と、2走続けて鮮やかな逃げ切り勝ちを収めた。この2戦が示すとおり、どんなメンバーでも楽にハナを切れるスピードは、この馬の最大の強み。そして、大崩れしない堅実性も大きな魅力だ。

 ここまでに挙げたメンバーをはじめ、クラシックで有力視される面々は差し、追い込み系の馬が多い。そうした状況にあって、常に先手をとれる力があるのは、それだけでも有利。もし、すんなり行かせてもらって、展開さえハマれば、上位に残る可能性も十分にあるのではないだろうか。

 過去のクラシックでも、逃げ、先行馬が何度なく波乱を起こしている。あまり軽視しすぎると、痛い目を見るかもしれない。

       ◆       ◆       ◆

 その他、世間的に人気を集めそうなのは、ラストドラフト(牡3歳/父ノヴェリスト)とか、ニシノデイジー(牡3歳/ハービンジャー)あたりだろうか。しかし、どちらもGII弥生賞(3月3日/中山・芝2000m)で結果を残せなかった(ラストドラフト=7着、ニシノデイジー=4着)。本番でも善戦止まりで、勝ち負けまではないと見ている。

 GIIIきさらぎ賞(2月3日/京都・芝1800m)を勝ったダノンチェイサー(牡3歳/父ディープインパクト)は、GI NHKマイルC(5月5日/東京・芝1600m)のあと、結果次第ではダービー挑戦という可能性もあるだろうが、いかにも距離が長い、という印象だ。

 惜しいのは、500万下のゆりかもめ賞(2月3日/東京・芝2400m)を圧勝したサトノジェネシス(牡3歳/父ディープインパクト)。番付上位に考えていたが、春は全休するとか。相当な能力の持ち主だったと思うので、本当に残念でならない。

 今年は結局、弥生賞、GIIスプリングS(中山・芝1800m)といった重要な前哨戦から本番に臨む有力馬が1頭もいない。これは昨今の、「強い馬ならトライアル→本番という、いわゆる王道ローテーションにとらわれる必要はない」といった考え方を反映しているように思う。

 何はともあれ、今春の牡馬クラシックは”サートゥルナーリアの1強”。この馬を負かすのは、至難の業だ。安藤勝己(あんどう・かつみ)
1960年3月28日生まれ。愛知県出身。2003年、地方競馬・笠松競馬場から中央競馬(JRA)に移籍。鮮やかな手綱さばきでファンを魅了し、「アンカツ」の愛称で親しまれた。キングカメハメハをはじめ、ダイワメジャー、ダイワスカーレット、ブエナビスタなど、多くの名馬にも騎乗。数々のビッグタイトルを手にした。2013年1月31日、現役を引退。騎手生活通算4464勝、うちJRA通算1111勝(GI=22勝)。現在は競馬評論家として精力的に活動している。