東京メトロ銀座線の車両はほかの路線より小型だが、線路の幅は広い(撮影:尾形文繁)

東京の地下鉄で最も古くからあるのが東京メトロ銀座線。いつ乗っても混雑しているように感じるが、その理由として車体が小さく編成も短いことがある。

現在走っている1000系は、全長が16m、全幅が2m55cmという車体で、6両編成である。一方、東京メトロ東西線の最新型車両15000系は、中間車で全長が20m(先頭車は20m52cm)、全幅が2m80cmとだいぶ大きい。銀座線・丸ノ内線と日比谷線の旧型車両を除けば、東京メトロの車両はおおむねこのサイズだ。多くの路線は編成も10両である。

このように比べてみると、確かに銀座線はコンパクトだ。ちょっとかわいらしいとも言える。しかし、レール間の幅(軌間)は銀座線のほうが広く、新幹線と同じ1435mmである。銀座線と丸ノ内線を除く東京メトロ各線はJRと同じ1067mmである。

「監督官庁の決定による」

車体が小さい路線が、なぜ線路幅だけは広いのだろうか。

東京メトロに聞くと、開業時に「いろいろな方面から検討を行いましたが、監督官庁であった鉄道省の決定により、諸外国の標準軌間でもあった1435mmとなりました」ということである。

『東京地下鉄道史 坤』(東京地下鉄道編・1934年)によると、やはり「種々討議もあつたが當時監督官庁である鉄道省の指示もあり、所謂標準軌間4尺8寸1/2(1435mm)と決定したのである」と書かれている。

銀座線の浅草―上野間が開業したのは1927年だ。日本の鉄道は、1872年に初の鉄道が開業して以来「狭軌」と呼ばれる1067mmの軌間で整備された。大隈重信などの方針によりこの軌間になったといわれている。かつては鉄道が貨物輸送を担っていたため、国鉄との貨車直通を考慮した私鉄もこの軌間で建設された。

一方で、道路上に線路を設ける「軌道法」(軌道条例)を根拠法として開業した私鉄は、阪神電鉄や阪急電鉄など、ヨーロッパやアメリカなど諸外国で標準となっている1435mmの「標準軌」を採用する例も多かった。1372mmを採用していた東京市電(のちの都電)などの路面電車も合わせ、日本では複数の軌間が存在することになった。

「日本の地下鉄の父」と呼ばれる早川徳次はイギリスを視察し、日本でも今後は地下鉄が必要になることを実感した。そして「東京地下鉄道」を設立、開業にこぎつけた。東京地下鉄道は、当時の私鉄に関する法律「地方鉄道法」に基づいて開業したが、この法律では狭軌を基本としつつ、1435mm軌間も認められた。

だが、鉄道省が積極的に標準軌の採用を指示したというのは、不思議ではある。

実は、日本の鉄道を狭軌から当時「広軌」と呼ばれた1435mmへ改軌するかどうかという問題は、何度も政治的な論争の火種となっていた。広軌論者の主張は、軌間が広ければ輸送力が増えるというものだ。また、一般的には軌間が広いほうが走行時の安定性も高いといえる。

1914年の第2次大隈重信内閣では、改軌するかどうかの調査・検討作業に入っていた。が、内閣退陣により中断する。その後の寺内正毅内閣では、1435mm軌間の南満州鉄道(満鉄)の初代総裁を務めた広軌論者の後藤新平が内務大臣に就任し、広軌化計画を推進した。

結果的に改軌計画は消滅したものの、そのころの論争を知っていた人々が鉄道省におり、その経験から今後の展開も考え広軌にすべき、と考えたという見方もできる。

また、早川徳次は早稲田大学在学中に後藤新平の書生となり、卒業後は後藤が総裁を務める満鉄に入社、さらに後藤が鉄道院総裁に就任すると鉄道院へ転じるなど、後藤の影響が強い。広軌論者に転じた大隈重信の影響も受けていたため、1435mmを選んだと考えることもできるだろう。

1435mm軌間はその後「弾丸列車」計画で採用され、のちの新幹線へとつながっていった。

「第三軌条」は関係ある?


第三軌条方式の銀座線は架線がないため、トンネルの天井が低い(撮影:尾形文繁)

銀座線は、架線とパンタグラフを使わず、2本のレールの横に電気を流すレールを設置し、そこに台車に設置した「集電靴」を接触させて走行に必要な電気を集める「第三軌条方式」の地下鉄である。架線を設置するスペースが必要ないため、トンネルの断面を小さくすることができる。

第三軌条方式の地下鉄は、日本国内では銀座線のほか丸ノ内線、横浜市営地下鉄、堺筋線・長堀鶴見緑地線・今里筋線を除く大阪メトロ各線があり、すべて標準軌だ。

第三軌条は一般的に車体よりも外側にあたる位置に設置している。レールの幅を広くすることで第三軌条と台車が近くなり、集電に有利とも考えられる。ただ、狭軌でも第三軌条方式は存在し、国内でもかつて信越本線の横川―軽井沢間で採用例があった。

車両は小さいものの、軌間が広い地下鉄はほかにもある。「リニア地下鉄」だ。リニアモーターカーといえば浮上式の列車を思い浮かべるが、地下鉄のリニアは鉄車輪式で、台車に搭載した薄い板状の「リニアモーター」と、レールの間に敷いた金属板の「リアクションプレート」との間に発生する磁力で走る。

その最初となったのが大阪メトロの長堀鶴見緑地線だ。軌間は標準軌の1435mmである。なぜ同線は標準軌を採用したのか。大阪メトロによると、断定的な記述はないものの、標準軌だと床下機器の設置などがしやすいとのことである。当初はトンネル断面を小さくするため、狭軌での建設も検討したという。

そんな長堀鶴見緑地線の車両(70系)の大きさは、全長15m60cm(先頭車は15m80cm)、全幅は2m49cmで、ほかの大阪メトロの車両より小さい。

リニア地下鉄は薄型のリニアモーターを使用することで、一般的な回転型のモーターを積んだ車両より主に台車が小さくなり、トンネル断面を小型化できるため建設費も縮減できる。また、モーターで車輪を回して走るのではないため、車輪の空転などの影響がなく、急勾配や急な加減速にも対応できる。

レール幅、それぞれの事情


都営地下鉄大江戸線の車両(右)。左側に並ぶ浅草線車両と比べると小ささがわかるが、レール間の幅は同じだ(撮影:尾形文繁)

東京の地下鉄では都営大江戸線が同様のシステムを採用している。仙台市地下鉄東西線や横浜市営地下鉄グリーンライン、神戸市営地下鉄海岸線、福岡市営地下鉄七隈線と、現在日本にあるリニア地下鉄はすべて1435mm軌間だ。

リニア地下鉄はシステムの面で他線との乗り入れは不可能なため、ほかの路線で1067mmを採用している場合も合わせる必要はなかったのだろう。また、リニア地下鉄自体がやや特殊な技術であることを考えると、後から建設する場合はあえて独自規格にせず、ほかの路線で実績のある規格に合わせたほうがメリットがあるとも考えられる。

東京メトロ銀座線のような第三軌条の路線や、大阪メトロ長堀鶴見緑地線、都営大江戸線のようなリニア地下鉄の路線のレールの幅が広く、新幹線と同じであるのには、それぞれに歴史的な背景や事情があったのだ。