トロロアオイを栽培していた畑で来季の作付けについて話す松田さん(右)と田上さん(茨城県小美玉市で)

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存続ピンチ 後継ぎ育たず


 茨城県小美玉市の農家が、手すき和紙の粘材として用いられるアオイ科の植物「トロロアオイ」の作付けを2020年にやめることを検討している。同県は生産量で全国の9割を占めるが、生産者の高齢化が進んだことなどで、後継者が見つからないのが原因だ。このままでは国内の伝統和紙の生産にも影響が出かねず、新たな担い手探しが急務だ。(木村泰之)

 トロロアオイ産地の同市では、5月に種をまいて7月に芽かきをして根を太らせ11月に収穫、2月末に出荷する。約30年前は50戸ほどが栽培していたが、10年前に15戸、今では5戸に減少した。

 16年度は全収穫量17・4トン(日本特産農産物協会調べ)のうち、9割以上の17トンをこの5戸で担っていた。洗浄や箱詰めなどの調製作業も生産者で行っている。この10年間は、JA新ひたち野が生産者を引き止めながら出荷作業を行ってきた。しかし今年は、翌々年の出荷は厳しい旨の通達文を付けた上で出荷した。

 減少の背景は、高齢化と農業形態の変化だ。JA小川営農経済センターの松田順市さん(59)は「担い手がおらず風前のともしび。近年は注文の6割ほどしか応じきれていない」と、苦しい胸の内を明かす。

 トロロアオイの根を太らせるための芽かき作業は7月末の10日間、炎天下で毎日手作業で行う。さらに、生育を悪化させるネコブセンチュウに対応する薬剤や除草剤の登録がなく、収穫も手作業で省力化が進まない現状がある。

 トロロアオイを生産する農家は、ダイコンやカボチャなどとの複合経営をしてきた。農地の規模が拡大し機械で作業することが多くなるにつれ、機械化が進んだジャガイモや軽量な小松菜に切り替える農家が増えた。

 新ひたち野農協ネリ部会の部長の田上進さん(63)は5戸のうち最年少で、最年長は75歳だ。田上さんは2ヘクタールでジャガイモと20アールでトロロアオイを作る。田上さんは「炎天下では機械を使わない農作業が敬遠されることと、肝心の芽かき作業とジャガイモの収穫が重なり、トロロアオイに手が回らない」とこぼす。

業界 作付け続けて…


 手すき和紙の生産地も対応に苦慮している。栃木県那須烏山市で特産の「烏山和紙」を手掛ける福田製紙所は、小美玉市産のトロロアオイで卒業証書などを作る。同社の代表社員、福田博子さん(49)は「作付けが止まる前に栃木県内のJAや行政に呼び掛けて、地元で生産する仕組みを作らなければならない」と話す。

 手すき和紙の産地で構成する、全国手すき和紙連合会(全和連)も対応に追われる。3月には同連の会長と副会長がJA新ひたち野を訪れ、作付けの継続を求めた。

 田上さんは「もう限界。倍額でもいいから作ってほしいという要望もあるが、やめるときは全員でやめようと決めている」との覚悟でいる。

 松田さんは「欲しいのはお金でなく、担い手。紙すきの産地から栽培を学びたいという声があれば受け入れたい」と話す。


<メモ> トロロアオイ


 アオイ科の一年草。オクラに似た花を付けるため「花オクラ」との呼び名もある。根から取る粘液を「ねり」といい、手すき和紙の繊維を均一にする添加剤として使う。日本特産農産物協会によると、1965年度には約1万5000トンの収穫量があったが、75年度には977トンに減少。85年度は109トンと大きく落ち込んだ。2016年度は17・4トンとなっている。この他、胃腸薬や菓子類、麺類などの食品添加物にも利用される。