今季初先発の飯田(4番)が渾身の決勝点を挙げた。写真:金子拓弥(サッカーダイジェスト写真部)

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 願ってもない大金星だった。3連敗中の松本山雅FCはヴィッセル神戸をホームに迎え、2−1で逃げ切り勝ち。今季ホーム初勝利を、スター軍団の神戸から奪い取ってみせた。ジャッジに議論の余地は残るかもしれないし、ルーカス・ポドルスキが帯同していなかったという点も考慮する必要はある。しかし、それらを差し引いても、松本からすれば喉から手が出るほど欲しかった勝点3。その輝きが何ら色あせることはない。
 
 この日の松本は、「自分たちらしさを自分たちの手に取り戻す」ことを主眼にしていた。実際にゲーム戦術として採用したのは、従来のハイプレスではなくブロックを敷いて中央を締める手法。3バック裏のスペースを消してダビド・ビジャに仕事場を与えず、ボランチとシャドーはトップ下に座るアンドレス・イニエスタへのコースを勤勉に切り続けた。だが決して、リトリートするスタイルが「松本らしい」わけではない。2シャドーの一角として起用された中美慶哉は力を込める。
 

「開幕から外で試合を見ていて山雅らしさが薄れているように感じていたので、そういう泥くささとか気持ちの強さとかを出したいなと思ってプレーした。ミスはしてしまったけど、それでも気持ちは絶対に折れないで貪欲にチームを助けるためにボールを追うことをやり抜こうと思っていた」
 
 この言葉が象徴するように、今季の松本が看板に掲げるインテンシティや、従来から反町康治監督が重要視する守備の規律などを徹底して遂行できるようテコ入れを図ったのだ。この中美と、3バック中央の飯田真輝はリーグ戦初先発。「らしさ」の体現者としてセレクトされ、結果で応えてみせた。飯田は43分、FKの流れからFW顔負けのダイビングヘッドで追加点。「僕から見てレアンドロ(・ペレイラ)選手はニアに行く気がないように見えたので、自分がニアに釣ったら(背後に)レアンドロ選手がいると思って迷わずニアに走った」と、グラウンダーの鋭いクロスに点で合わせて相手GKのニアサイドを抜いた。
 連敗続きだった松本にとって、豪華絢爛な神戸から挙げたこの1勝がもたらすプラスの効果は単なる勝点3以上に大きい。だが真に松本がさらなる成長を遂げるためには、この日「ふるい落とされた者たち」をどのようにすくい上げていくのかが重要ではないだろうか。
 
 そのふたりとは、ともにリーグ戦全試合に先発していたセルジーニョとエドゥアルド。確かに前節のパフォーマンスが素晴らしかったとは言いづらく、この日はふたりともベンチ外だった。だが果たして、彼らを「松本らしくない」と決めつけてしまっていいのか。ビッグクラブなら次から次へと選手を買い漁ればいいし(とはいえ移籍ウインドーは閉じたが)、「それがプロの世界」と言えばそれまでかもしれない。だがJ1での予算規模が下から数えたほうが早く、個の能力で劣る分だけチームとしてのまとまりが必須な松本にとっては、可能な限り全員が戦力であることのほうが遥かに望ましい。

 だからこそ個人的には、彼らが「松本らしさ」を再インストールしてもう一度先発争いに食い込むような状況を待ちたい。このふたり以外にも、神戸戦の戦いぶりに奮起して「我こそは」と名乗りを上げるようなフレッシュな戦力の台頭があればなおいい。「自分が外から見ていた時のようにベンチとかベンチ外の選手も燃えていると思う。それがチームを強くする」と中美。こうした好循環を生みながら結果が伴い始めたとき、松本は胸を張ってステップアップしたと言えるだろう。
 
取材・文●大枝令(スポーツライター)