英語がある程度できたとしても、はまりがちなのが和製英語のわなです(写真:tkc-taka/PIXTA)

皆さん、こんにちは。デビットです。最近は働き方改革の一環として、場所を選ばず自由に働くテレワークのスタイルが徐々に浸透してきているようで、カフェなどでノートパソコンを開いて仕事をしている人も増えてきました。しかしそこで困るのが電源ですね。パソコンメーカーの僕らは軽くて持ち運びに便利で、しかも一日中充電なしで使えるパソコンの実現を目指していますが、一日外でPCを使って仕事したいのであれば、今のところコンセントが使えるカフェを探す必要があります。

ところが海外でスタバに入ってPCの電源を使いたくて「Where is consent?」と聞くと店員さんから「???」という反応をされます。今回はある程度英語ができる人が陥りやすい「和製英語」の落とし穴について書いてみたいと思います。

英語で電源はPlugかOutlet

コンセントは英語では 「同意」という意味で、スタバの店員さんは「同意はどこにある?」と突然詰め寄られることになるので、それは戸惑いますね。ちなみにアメリカ英語で壁にあるあの電源のことは「Plug」または「Outlet」と言います。ですからコンセントはまったく通じません。


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ところが本人は英語を話しているのに通じないと、「発音か?やはり発音なのか?」と焦ります。一方の店員さんも「コーンセント!」「コンセーント!」と発音を変えながら何らかの「同意」を迫ってくるこの東洋人と何を同意すればいいのか、コーヒーが薄かったのか?それを同意すればいいのか?と、完全に戸惑ってしまいます。最終的に電源コードを見せると「あー、アウトレットのことね!どうぞ使ってください!」となります。

こんなエピソードを書くと、英語を習得中の方を小馬鹿にしていると受け取られそうなので、こちらも白状します。ワタクシ、デビット・ベネットも英語の意味と日本語の意味を単純につなげて相当失敗してきています。

例えば、茶色とは「TEA(お茶)の色」だと思い込んでいて、てっきり緑か(紅茶の)赤だと思っていたことがあります。つまり、「茶色い髪の女性」のことを、赤や緑に髪を染めたパンクロッカーのようなかなり活発なタイプの女性と想像してしまっていたわけです。

日本語は、萌黄色、浅黄色、茜色など色についての表現が本当に豊かで、独自の表現が多いので、英語の常識で読むとかなり違った世界が頭に浮かんできます。今では違和感がなくなりましたが、信号は明らかに緑なのに青という、しかしその脇に立っている人をみどりのおばさんというのも当初は混乱しました。

「七面鳥」という文字を読んで顔が7つあるとんでもない鳥のモンスターを想像してしまったこともあります。実はそのモンスターをサブウェイでよくパンにはさんで食べていたことを知ったのは少し後のことです。言葉の学習は失敗の連続、私の恥かしエピソードも今後どんどん自白してゆきますので、お楽しみに。

さて、和製英語、どんどん紹介していきましょう。理由がわりと有名なのは「バイキング」ですね。これは東京の帝国ホテルで「Buffet(ビュッフェ)」を始めたところ、そのレストランの名前である「バイキング」が一般名詞化したということです。海外のホテルでバイキングが食べたいというと、ホテルの方は申し訳なさそうに――バイキング形式の朝食会場の目の前で――「当ホテルにはバイキング料理というものは用意がございません」と言ってくると思います。

固有名詞が一般名詞化した和製英語の例としてはホッチキスもありますね。英語では「stapler」で、ホッチキスはブランド名です。100年ほど前に輸入された製品名がそのまま一般名詞化したと言われています。

懐かしの「コダック・モーメント」

実は英語圏にも固有名詞が一般化した例は沢山あります。クリネックスとか、パンパースとかですね。そこのクリネックス取って!と言って違うブランドのティッシュを指さしていることがよくあります。ほかにも「Xerox please (コピーを取ってください)」や「I will Fedex(宅配便で送ります)」のように動詞化しているブランド名もあります。日本でも「宅急便を送る」と普通に使ってしまいますが、「宅急便」はクロネコヤマトの商品名ですね。

なお、ひと昔前は「シャッターチャンス」のことを「Kodak moment」と言って、これは日本の英会話のテキストにも出ていたそうですが、フィルムカメラがデジカメに置き換わって、今は誰も言わなくなりましたね。英語が通じないだけでなく、おじさん扱いもされるという、二重のダメージを被る危険ワードとして注意したいです、Kodak moment。

おじさんと思われないための要注意ワード、ついでながらいいますと「ケンタッキー・フライドチキン」はあまり北米の若者には通じないらしいです(僕も若者とは言えない年齢なので残念ながら完全な確証が持てません)。むろん今でも日本でケンタッキー・フライド・チキンと呼ばれているお店は北米のどの町にもあります。しかしよく見ると店名は「KFC」しか書いてありません。1991年に社名変更していて、KFCと名乗って実に30年近く経つので、確かに若者は知らないかもしれません。

ちょっと脱線してしまいました。日本人の方が海外で気をつけたい、まさかアレが和製英語だったとは!となる単語はまだまだ沢山あります。「リサイクルショップ(second-hand shop)」「フリーダイヤル(toll free call)」「バージョンアップ(upgrade/update)」「カンニング(Cheating)」などなど。

アメリカが発祥のスポーツであるはずの野球にも、「ツーベース(Double)」「ストレート(Fast ball)」「デッドボール(hit by pitch)」など、実に沢山の和製英語が使われています。そうかと思えば「カーブ(Curve)」「指名打者(Designated hitter=DH)」「野手選択(Fielder’s Choice)」「ホームラン(Home run)」など、そのまま英語で通じるものも多くありますので、メジャーリーグ中継の第二音声などをよく聞いてみてください。ちなみに「大リーグ」は「メジャーリーグ」の意訳のようですが、メジャーリーグのことを「Big League」と呼ぶこともあるので、これは直訳なのです。

野球と同じく、アメリカのカルチャーと言ってよいハンバーガーショップには、やや悩ましい和製英語があります。「テイクアウト」ですね。ハンバーガーを「Take outする=持ち出す」は、文として意味が通りますので本来通じるはずなのですが、大手ハンバーガーチェーンなどでは日本と同じくバイト君たちは高度にマニュアル化された接客をしています。

ですので、注文をすると「here or to go?」=「こちらでお召し上がりですか?お持ち帰りですか?」と聞かれます。このとき、マニュアルは載っていない「テイクアウト」という言葉を切り出すと、「はあ??」というような態度を取られることになりますが、そこはなんとか乗り切ってください。ちなみに、テイクアウトしたい場合は、「to go, please」で。

私の会社の広報S君によると、アメリカのハンバーガーショップの店員さんの英語は際立って聞き取りにくいそうです。それもそのはずで、彼らは“ちゃんと”しゃべっていません。日本の居酒屋を思い出してみてください。「ラッシャセー!」「アザーシター!」これは、日本語学校でヒヤリングを学んだ人からすると「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」には聞こえませんね。

同じように「May I help you,Sir」は「メアッヘプユサー!」でしょうし、問題の「Here or to go」は「ヒオアトゥゴ?」くらいでしょう。しかし来店者もこのシーンで話してくる(実際には言ってさえいない)言葉を予想できているので聞き取れているのです。

「フライドポテト」じゃ通じないかも

なお、本格的なハンバーガーを出すお店は、これはこれで結構面倒なやりとりが待っています。まず「バンズ(パン)は?」「How do you like(肉の焼き加減を聞いている)」「チーズは?(ダブルかシングルか店によってはチーズの種類が選べる場合も)」「ほかに何をトッピングしたい?(オープン?聞かれてもそもそも何があるのか……)」この果てしない尋問に耐えないとアメリカやカナダで本格的なハンバーガーを楽しむことはできません。

また、「フライドポテト」は和製英語で、通常ハンバーガーの添え物として出てくるポテトは「フレンチフライ」といいます。「フライドポテト」というと「それはフレンチフライのことか?」と非常識な人間を見るような目で聞き返してくるでしょう。なぜフレンチなのか、なぜポテトという単語すら入っていないのかという質問に答えられるアメリカ人やカナダ人は(僕も含めて)なかなかいないと思いますが、とにかくそうなっています。

先人が異文化を日本に取り入れる過程で発生したと思われ、深く日本語の中に浸透している和製英語。浸透しているだけに、和製英語のトラップはそこら中に仕掛けられていると思ってください。

僕も日本語を勉強してきて逆の立場でいろいろな驚きを経験してきたのでよくわかりますが、ネイティブではない人が英語の文法をどれだけ勉強してもどれが和製英語かを判別することはなかなかできません。これは、語学が学習ではなく「相手の社会・生活を、経験を通して理解する」行為の一部であるということを象徴しているかもしれません。

学校における語学教育も今後は、単に学力を競うのではなく、より多くの経験を提供する場に変わっていけばいいと考えています。教育全般がそうした方向に向かうべきだという考えは世界中にあり、最近では教室にいながらにしてVRなどを通じて世界と触れ合うといった実験的な取り組みも始まっています。そのうち、「ケンタッキー・フライドチキンってアメリカではKFCっていうんだ!」と教室で知る日が来るかもしれません。