3月29日(金)より公開となった実写版『ダンボ』。最近ディズニーアニメーションが次々と実写化されていく中で、『ダンボ』を手掛けるのは一体誰なのかと熱く見守っていたのだが、ティム・バートンで納得した映画ファンも多いのではないだろうか。

ティム・バートンは親日家としてもよく知られており、来日回数が多いだけでなく、テレビ番組にもよくゲスト出演している。また、映画『ゴジラvsモスラ』(92)の制作現場を見学しに来たほどの熱烈なゴジラファンで、『ピーウィーの大冒険』(85)や『マーズ・アタック』(97)にもゴジラを登場させている。

子供のような無邪気さと屈折した影を合わせ持ち、どこか愛嬌と寂しさのあるキャラクターを愛するティム・バートン。

そこで今回は、エキサイティングな映像が魅力のティム・バートン監督作品18本をご紹介しよう。

ティム・バートンのプロフィール

ティム・バートンは、1958年アメリカ生まれ。大学でアニメーションの勉強をした後、ウォルト・ディズニー・スタジオに実習生として雇われ、1985年『ピーウィーの大冒険』で長編映画デビュー。1988年『ビートルジュース』の大ヒットにより、低予算で大きな興行成績を上げる監督として注目されるようになった。

以下は一部ネタバレを含みますので、未見の方はご注意ください。

ピーウィーの大冒険』(1985)

夢を詰め込んだオモチャ箱

お気に入りの赤い自転車に乗って街へ買い物に出かけた主人公は、何者かによって自転車を盗まれてしまう。

子供番組の人気キャラクターを主演にし、監督の私物をセットに持ち込むなどした低予算映画だが、アメリカでヒットを記録。カルト映画と呼ばれることもあるらしい。愛車が盗まれたショックで主人公が取り乱し、調査先で次々と騒動を巻き起こす。

Mr.ビーンにも似た得体の知れない狂気を感じるものの、見た目はソフトでスマート。そしてハンサム。不思議な動物を鑑賞している気分だ。そんな彼が逃げ込む映画スタジオでゴジラが撮影中というシーンがあり、ここにもティム・バートンの抑えきれない映画愛が。カラフルでマニアックでちょっぴり毒の効いた長編デビュー作。

『ビートルジュース』(1988)

幽霊もつらいよ

車の事故で死んでしまった夫婦が幽霊となり、自分たちの家にやってきた家族と一緒に暮らすことになる。

自分の住んでいた家が、生きた人間たちによって好き勝手にいじられることに耐えられず、脅かして追い出そうとするが、彼らには幽霊が見えないため効果なし。そこへ登場するのが、人間を追い出すプロであるビートルジュースである。

トラブルメーカーのビートルジュースとウブな幽霊初心者。そこに幽霊が見える変わり者の娘が加わり、まともな幽霊vs悪徳幽霊vs孤独な人間vs金儲け人間という構図に。同じ家に生と死の世界があるという不思議と、時代を感じさせるのんびりしたドタバタ劇がかわいらしい。

『シザーハンズ』(1990)

どうして雪が降るの?

町外れにある山の上で暮らしている孤独な発明家が、人造人間を作り上げたが、両手をつける直前に急死してしまう。

両手がハサミという未完成状態のまま、とり残された人造人間。やがて彼は、たまたまやって来た女性に連れられて山を下り、人間たちと一緒に住むようになる。ずらりと建ち並ぶパステルカラーの家。清潔に整えられた芝生の庭。書割のような青い空。そこは平和な街に見えるけれど、何かがおかしい。

彼の特技は、そのハサミの手で植木やペットの毛や女性の髪を独創的にカットすること。しかし彼は、その手ゆえに愛する者を抱きしめることができない。しょせん彼は、人間社会では化け物扱いされる異端児。それは監督自身がモデルだという。ジョニー・デップとティム・バートンが初タッグを組み、今でも高い人気を誇る代表作。

『バットマン・リターンズ』(1992)

悪役が魅力的すぎ

サーカスギャング団を率いるペンギン男は、野心あふれる実業家の助けを借りて、ゴッサム・シティに出没するようになる。

前作『バットマン』(89)よりもティム・バートンの独特な世界観が炸裂。主役よりも悪役キャラクターたちに比重が置かれ、人物像が魅力的に描写されているのは、監督が彼らの方に感情移入をしているから。ペンギン軍団がCGではなく本物なのも、監督のこだわりだという。

中でも際立っているのが、キャット・ウーマンだろう。ミシェル・ファイファーの適役ぶりは他の追従を許さず、その残酷さとかわいさと切なさときたら。誰の敵でも味方でもない不二子ちゃんみたいな猫女。彼女の強烈な存在感には、バットマンもペンギン男もタジタジだ。

『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』(1993)

スタイリッシュなガイコツ

ハロウィンの準備に嫌気が差している王様ジャックが、ある日偶然クリスマスの世界へ迷い込み、そのきらびやかさに魅了されてしまう。

今でも根強いファンを持つ大ヒットモーション・ピクチャー・アニメ。登場人物たちの針金のように細い手足と、不気味だがどこか可愛げのある造形が特徴で、ティム・バートンのダークでシニカルな内面が表現され、ガイコツ男とツギハギ女のラブストーリーでもある。

クリスマスに強い憧れを抱き、自分の国でもクリスマスをやろうとするハロウィンの王様。しかし、そもそも彼らにはクリスマスが理解できず、陽気に華やかにだなんて柄にもない。その結果、ズレた方向へ暴走してしまう姿がイタイやら切ないやら。でも、そこがいいのである。表情豊かなガイコツ顔に胸きゅん。

『エド・ウッド』(1994)

自分の夢を撮る

1950年代のハリウッドで、第2のオーソン・ウェルズになることを夢見る青年が、映画監督になるチャンスをつかもうとしていた。

才能が全くないことに気づいておらず、夢に向かって常に意欲的かつ楽天的。それが「史上最低の映画監督」と称されるエド・ウッド。そんな彼の大ファンであるティム・バートンが作ったこの映画には、愛と称賛がいっぱい詰まっている。

劇中では彼の作品が忠実に再現されているのだが、確かにどれも破天荒でパンク。唐突で脈絡のないストーリーを大マジメに語り、偏愛する俳優を出演させる彼は、自分が面白いと思うものを撮っているだけ。そのために闘っているのだ。作家性もここまで突き抜けていれば、認めざるを得ないよなあ。とぼけた雰囲気のジョニデが必見。

『マーズ・アタック!』(1996)

地球を救うのは

未確認飛行物体に乗ってやってきた火星人たち。議論の末に友好的だと判断したアメリカ大統領が、彼らと対面することになる。

UFOというより円盤が、上から吊り下げられてフワフワしている様子がノスタルジック。タコ系でいかにも火星人という風貌が、マニアック。そんなアナログ感とシニカルな笑いが満載の楽しいSF映画である。

驚いたのは、ジャック・ニコルソンとグレン・クローズという大物俳優が悲惨な目に遭いながらも楽しそうなところ。チャラい報道レポーターを演じるマイケル・J・フォックスもノリがよく、うわあっと叫びたくなるシーンですら、容赦がなくてステキ。ティム・バートンの真骨頂というべき一作。

『スリーピー・ホロウ』(1999)

首を捜して

1799年、ニューヨークから連続殺人事件が発生した村にやってきた捜査官が、独自の科学捜査を始める。

死体はどれも首が切り落とされていたので、自分の首を求めてさまよう“首なし騎士”の仕業ではないかというウワサが流れるが、捜査官はそんな迷信を信じない。しかし彼はその幽霊に出くわしてしまい、存在を認めざるを得なくなってしまう。

科学を信条とする都会人が、非現実的なオカルトを目撃してパニック。強気から弱気に一変する様子が笑いを誘い、ジョニー・デップのコミカルな魅力が引き出された作品でもあり。薄暗くて不気味な映像の中で、クリスティーナ・リッチのムチムチ肌と金髪がまぶしい。ティム・バートンならではのエンタメ系ゴシック・ホラー。

『PLANET OF THE APES 猿の惑星』(2001)

まさかのラスト

宇宙飛行士の主人公が磁気嵐に吸い込まれて不時着した惑星では、原始人のような人類が知能の高い猿に支配されていた。

かの名作『猿の惑星』(68)をリメイクしたのではなく、リイマジネーション(再創造)したということで、基本設定以外は全く別のストーリーになっている。そのため、アッと驚くラストに賛否両論が巻き起こった話題作。

なので、「猿の惑星」シリーズの中でどういう位置づけをしてよいのかわからず。こうなったらもうあまり深いことは考えず、猿メイクをしていてもティム・ロスであることがすぐわかるとかヘレナ・ボナム=カーターの手袋がカワイイとか、そういう楽しみ方でお願いしたい。

『ビッグ・フィッシュ』(2003)

親を見送るということ

父親の作り話を素直に受け入れることができず、疎遠になっていた主人公の元へ、父親が病で倒れたという知らせが届く。

父と息子の和解という監督自身の経験がテーマにあり、現実世界をそのまま描いているという面で新境地を切り拓いた記念碑的作品。監督が得意とする奇想天外でファンタジーな回想シーンと、病床にある父親と家族の物語が交互に静かに展開していく。

父親はウソつきなのかホラ吹きなのか。とにかく事実が知りたいと息子は願うが、父親にとっては全てが真実。だから、その大きな魚をみんなで川に戻そう。そうすれば魚は水流をさかのぼり、生まれてきた場所に還るだろう。親の人生を受け入れるということについて考えさせられる感動ストーリー。

『チャーリーとチョコレート工場』(2005)

甘くて苦い人生

世界中で大人気の製菓会社社長ウォンカが、5枚のチョコレートにだけ特典付きチケットを同封すると発表し、大騒ぎになる。

チケットを手に入れた子供には、謎に満ちた工場の見学と素晴らしい副賞が与えられるらしい。そうして選ばれた個性的な5人の子供たちは、お菓子工場で夢のような時間を過ごすのだが、ワケあって途中から次々といなくなってしまうブラックさがたまらない。

同じ小説を原作とした映画『夢のチョコレート工場』(71)に比べると、ウォンカは陽気でぶっ飛んでいるが、何を考えているのかわからない不気味な雰囲気は同じ。ただしこの作品では、彼の人格形成に理由づけがあり、父親との関係が大きな軸として描かれている。甘いお菓子の甘くない製造過程にワクワク。

『ティム・バートンのコープスブライド』(2005)

死者と生者の結婚

成金で下品な商人の息子と没落貴族の娘が政略結婚することになったが、彼は緊張のあまり結婚式のリハーサルをぶち壊しにしてしまう。

意外と賑やかで楽しそうな死後の世界という点では『リメンバー・ミー』(17)と似ているし、ともにミュージカル的要素もあるのに、登場人物たちの造形や映像はグロテスクでシニカル。しかし、これぞティム・バートンなのである。

自分の眼孔に住むウジ虫と会話をする花嫁。男に裏切られた経験のある彼女は、今度こそちゃんと愛されたいだけ。彼女の報われるはずのない恋の行方は、人魚姫のようにはかなく美しく、奇妙な三角関係に巻き込まれてしまった人間の花嫁は、控え目で好感が持てる。というわけで、どうも男性の影が薄いラブストーリー。

『スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師』(2007)

人肉パイはお好き?

美しい妻を狙った判事によって無実の罪で流罪にされていた主人公が、復讐のために理髪店を始める。

メロドラマ風ミュージカル・ホラーというティム・バートンとしては珍しいタイプの作品で、その残酷な描写ゆえにR15+指定を受けたという。次々と客の喉を掻き切る理髪師と、その死体の肉をミートパイにして売る夫人。ヴィクトリア朝時代のロンドンにふさわしい猟奇的な物語だが、その裏には哀しい復讐劇があった。

すさまじい怨念でスクリーンが真っ黒。「人肉パイを作れば一石二鳥」と、利害の一致に気づいた二人が真顔で歌って踊るシーンにちょっと笑うものの、運命のいたずらが引き寄せた救いのない悲劇が、あまりにも身に染みる。ちなみに日本では、市村正親と大竹しのぶがこってりと舞台で演じている。

『アリス・イン・ワンダーランド』(2010)

赤の女王バンザイ!

自分の婚約パーティから逃げ出した19歳のアリスは、目の前を通りがかった白ウサギを追いかけて再び穴に落ちてしまう。

ルイス・キャロルの有名な児童文学「不思議の国のアリス」「鏡の国のアリス」を原作とし、その後日譚という位置づけで再構成された新しい物語。成長したアリスが、幼い頃に訪れた不思議の国へと迷い込む。しかしそこは、赤の女王に支配された暗い世界になっていた。

マッドハッターやチェシャ猫たちと再会し、救世主となったアリスがヒロインのはずなのに、ヘレナ・ボナム=カーター演じる赤の女王に目が釘付け。頭でっかちで醜く、底なしにワガママなこの暴君は、妹である美しい白の女王に嫉妬して暴走するのだが、彼女の深い孤独がわかるだけにどうも憎めず。ジョニー・デップはキテレツ。

『ダーク・シャドウ』(2012)

自業自得の災難

捨てた恋人に黒魔術をかけられてヴァンパイアとなり、生き埋めにされていた主人公が、ひょんなことから蘇ってしまう。

昔の彼は、金持ちのどうしようもないプレイボーイ。遊びで使用人に手を出し、恨まれてヴァンパイアにされたというマヌケな展開である。なので、愛を踏みにじられた彼女が底なし沼のような復讐に燃えるのも、無理はなかろう。エヴァ・グリーンが哀しくも冷酷な魔女を演じ、強烈な存在感を放っている。

現代に生きるヴァンパイアの時代錯誤なズレ方が笑いを誘い、ヴァンパイアと暮らす奇妙な家族たちのエピソードも盛りだくさん。クライマックスは魔女との因縁対決だが、彼女の執念深さが純愛と悔しさの裏返しだと思うと切ないなあ。これでもかと大掛かりなアクションも、どこかファンタジック。

『フランケンウィニー』(2012)

死んでるんだよ?

友だちのいない科学少年は愛犬と楽しい日々を送っていたが、ある日愛犬が突然事故で死んでしまう。

主人公と同じように、過去の短編『フランケンウィニー』(84)をストップ・モーション・アニメーションで蘇らせた監督。たった1人の友だちを失って悲しみのどん底にいた少年が、科学の力で愛する者を蘇らせることができるのではないかと考えるようになる。

また会いたい。ただそれだけ。その危険な行為がどんな意味を持つかなんて、考えない。その気持ちが痛いほどわかるだけに、「やめとけ」とは言えない。そうして復活した愛犬はツギハギだらけになり、自分が死んだことがわからない。死者が巻き起こす騒動にクスクス笑いながら、しんみりした切なさが漂う作品。

『ビッグ・アイズ』(2014)

大きく見開いた瞳

1960年代アメリカのポップアート界で大ブームを起こした絵画「ビッグ・アイズ」シリーズをめぐり、その作者である夫婦の秘密が明らかになっていく。

ティム・バートンが実話を基に映画を作るなんて。それほど心を動かされたテーマだったのだろう。夫の陰に隠れてしまった、隠れざるを得なかった才能ある妻の存在。彼女の闘いがどうなるのか、その行く末がみどころだ。

こちらを真っ直ぐ見つめる異様に大きな瞳。見開いたその瞳には哀愁が静かに漂い、眺めているうちに吸い込まれてしまいそう。実は監督自身もこのシリーズのファンだそうで、思い入れもたっぷり。クリストフ・ヴァルツが胡散臭くて嫌味な男を好演。

『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』(2015)

子供たちを守る

子供の頃に「ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち」が暮らす家で過ごしていたことを話していた祖父が、ある日両目をくり抜かれた姿で発見される。

祖父が語っていたおとぎ話のような世界は、ちゃんと実在した。主人公の少年はその世界で歓迎され、受け入れられ、居場所を得る。というか、そもそも彼はその世界の住人なのである。そのため、仲間がターゲットにされた戦いに巻き込まれてしまう。

奇妙なこどもたちの世話をするミス・ペレグリンを演じたエヴァ・グリーンが、妖艶でミステリアス。子供たちに厳しいのは、彼らを守っているから。頼りになるはずの大人がいなくなり、子供たちだけで大きな力に立ち向かう姿にハラハラし、思わず童心に戻ってしまう冒険ファンタジー。

いかがでしたか?

大人になっても子供の頃に感じていた喜びや痛みを忘れず、それを作品として昇華し続けているティム・バートン。ストップ・モーション・アニメーションにも才能を発揮し、ハリウッド大作を手がけるようになっても、原点を忘れない作家性のある監督として、コアなファンも多い。

ダークでマニアックな独特な世界観がクセになる。そんなティム・バートンの新作が毎回楽しみである。