アジアカップから13人を入れ替えて臨んだ日本代表の2連戦。森保一監督は、その中でベストとおぼしきメンバーでコロンビア戦を戦い、第2戦のボリビア戦は、スタメンを総入れ替えして臨んだ。

 アジアカップのメンバーを1軍とするなら、コロンビア戦のスタメンは1.5軍級。となれば、ボリビア戦のスタメンは2軍級に相当する。代表チームは生ものであり、アジアカップから時間もそれなりに経過しているので、2軍級はもしかしたら1.8軍級なのかもしれないが、本来ならスタメン出場してもおかしくない選手を、あえて何枚も外して臨んだという事実に変わりはない。


コロンビア戦から先発メンバーを一新したボリビア戦の日本代表

 コロンビアとボリビア。実力で劣るのはボリビアになるが、日本がコロンビアと対戦した同じ日に、ボリビアはお隣の韓国と対戦し、その試合に主力級を送り込んでいた。日本戦にベストメンバーを並べてこないことは最初からわかっていた。

 それでもベストに近いメンバーで迎え撃つのが従来の日本だった。相手と呼吸を合わそうとせず、独り相撲を取り、そして勝利に酔いしれようとした。試合をする以上、勝利を追求するのは当然。しかし「手段を選ばず」では、強化にはつながらない。この近視眼的な思考に陥る日本の悪い習慣に、森保監督は待ったをかけた格好だ。

 スタメンの総入れ替えが明るみに出たのは、ボリビア戦の前日に行なわれた会見だった。かつてならそれをメディアは否定的な目で見つめたものだ。「代表はベストメンバーで戦うもの」とか、「テレビの視聴率に影響が出る」とか、「お金を払って見に来るファンに失礼だ」とか、もっともらしい理由を挙げて異を唱えた。ところが、今回はそうした声を聞かなかった。

 スタジアムに向かう電車の中で聞き耳を立てれば、「南野(拓実)は後半、香川(真司)に代わって出るんじゃない」とか「鎌田(大地)は何分持つかな」とか「(山口)蛍は後半の最後でもいいから出てほしいね」とか、この事態をファンも冷静に受け止めている様子だった。

 世界のサッカー界に漂うスタンダードに慣れたという印象だ。吉田麻也(サウサンプトン)など、アジアカップ終了後、所属チームで出番を失ってしまった選手がいる現実も輪を掛ける。激しい競争社会の中で生きる欧州組を代表に毎度招集すれば、サッカー選手として危うい立場に陥る。それが贔屓(ひいき)の引き倒しになること、代表強化に悪影響を及ぼすことを多くのファンが理解しつつある。代表チームとの向き合い方に変化が起きていることは間違いない。

 スタンド風景も、かつてとは少し異なってきた。チケットは2試合とも完売だった。しかし、青いユニフォームを着たサポーターが占める割合は確実に減っている。試合中、声を枯らして歌い続ける観衆が減る一方で、静かに見入る観衆の割合が増加。玄人っぽい人が増えているという印象だ。成熟してきたと言ってもいいだろう。無理な興行化に走る必要がなくなっているのだ。

 ボリビア戦の話をすれば、試合内容に物足りなさを感じる人が多数を占めるだろう。「せっかくチャンスをもらったんだから、もっと頑張れば」と言いたくなる気分だが、一方で、1.5軍で戦ったコロンビア戦のスタメンを総取っ替えしたのだから、うまくいかないのは当然だという気持ちも強く湧く。過去にこのメンバーで戦ったことは一度もない。言ってみれば即席チームだ。

 その割によかったところは何かと言えば、パスワークと展開力だ。少なくともコロンビア戦に比べ、ピッチが広く使えていた。相手の陣形を広げておいて中を突くきれいなサッカーができていた。

 コロンビア戦とは真逆だった。中島翔哉(アル・ドゥハイル)、南野拓実(ザルツブルク)、堂安律(フローニンゲン)。この3人のアクションは確かに魅力的に映ったが、周囲との関係性、とりわけ彼らと両サイドバックとの絡みが悪く、展開美という点で物足りなさを感じたものだ。コロンビアのサッカーが、特にその点で優れていたことも、その印象に拍車をかけた。両チームにはデザイン性という点で著しい開きがあった。

 それは西野ジャパンとの違いでもある。ロシアW杯で披露した日本のサッカーは、コロンビア戦の森保ジャパンより美しかった。それとベスト16という好成績は密接な関係があると考えるが、その魅力がボリビア戦を戦う急造チームには存在した。パスコースはコロンビア戦より多く見えた。

 ボリビア戦は、相手陣内に迫る力が弱かったに過ぎない。実際、宇佐美貴史(デュッセルドルフ)、乾貴士(アラベス)、香川真司(ベシクタシュ)に代わり、中島、堂安、南野が投入されると、不足していた迫力はとたんに増した。相手が疲れてきたタイミングで投入されたことも奏功した。

 中盤で相手のパスミスを拾い、堂安、南野とつなぎ、中島がゲットした決勝ゴールに、その成果は端的に表れていた。

 そのうえ、展開美も維持された。3人が出場しても、コロンビア戦のような理路整然としないグチャグチャな展開に陥ることはなかった。整った基盤の上に、3人がきれいに乗っかる型になっていた。

 その基盤の形成に一役買っていたのが、右サイドバックの西大伍(ヴィッセル神戸)だ。代表キャップは、2011年6月に新潟で行なわれたペルー戦以来の2度目ながら、Jリーグベスト11に2年連続輝いた実力派のベテランである。

 その洒脱なパスセンスとパスコースの作り方は、この即席チームにとって欠かせないエッセンスになっていた。現在31歳。代表選手としてどう扱うか、悩むところだが、五輪チームのオーバーエイジにはうってつけの人材ではないだろうか。

 東京五輪の話をすれば、いまはフル代表チームより五輪チームの強化を優先すべき時ではないだろうか。五輪チームの選手を多く混ぜ入れた若手中心の代表チームを編成。それをA代表として戦う。五輪チームとA代表と、真っ二つに区分して別々に強化するより、はるかに理にかなっていると思う。
 
 A代表の強化に本腰を入れるのは東京五輪後で十分だ。そのほうが森保監督も兼任監督としての力を発揮できるはず。ファンもそれを受け入れてくれる時代を迎えていると確信する。スタメンを総入れ替えして臨んだボリビア戦を見ていると、さらなるドラスティックな試みに期待したくなるのである。