住宅購入は消費増税前、増税後、どちらがいいのでしょうか?(写真:takasuu/istock)

消費税率10%への引き上げが、あと半年後に迫ってきた。税率が2%上がる影響は、高額な買い物ほど大きい。人生最大の買い物といわれる住宅は、増税前に買ったほうがよいのだろうか? 年収別に試算しながら比較検討してみよう。

実は筆者は消費税率が8%に引き上げられるときに、『週刊東洋経済』で「消費増税後もなお有利 住宅ローン減税の活用法」という記事を執筆した。年収500万円、800万円、1000万円別に、年収が高いほど高額のローンを組んで高額の住宅を買う想定で試算した。その結果、年収が高いほど住宅ローン減税の効果が大きくなり、増税後に買ったほうがお得という結果になった。

では、10%への引き上げではどうなるのだろう?

増税分を住宅ローン減税とすまい給付金で軽減

消費税は住宅を取得する費用の全額にかかるわけではない。土地は非課税だからだ。つまり、住宅価格のうち建物価格にかかる消費税が2%上がる。住宅の購入時に発生する諸費用の一部も増税対象になるが、金額は数万円程度なので、ここでは建物価格の2%分の負担増に絞って、軽減効果と比較したい。

増税による負担を軽減する優遇措置として、「住宅ローン減税」と「すまい給付金」がある点は、税率8%のときと同じだが、10%のときにはそれぞれが拡充される。

「住宅ローン減税」は、年末の住宅ローン残高の1%を10年にわたって所得税などから控除するもの。ローン残高の上限は4000万円なので、10年間で最大400万円の減税となる。ただし、実際の減税額は納めている所得税などが限度となる。

年収が低かったり、扶養家族が多かったりする世帯は、納めている所得税の額が低いので、住宅ローン減税の効果も薄くなる。シニア層などではローンを組まずに現金で購入する人もいるので、そもそも住宅ローン減税の恩恵を受けられない。こうした世帯を補完するのが「すまい給付金」で、10%時には対象となる年収や給付額が広がる。


一方、住宅ローン減税は10年間までは増税前、増税後も同じだが、10%が適用された場合に3年間延長される。ただし、「そのまま3年延長」した場合と「建物価格の2%分」のいずれか少ないほうとなる。

建物価格の増税分と住宅ローン減税・すまい給付金の組み合わせによる軽減分の足し引きを年収別に試算(※)してみよう。

(※)試算は専業主婦と子ども(16歳未満)のサラリーマン家族を想定。住宅ローンを35年返済、全期間固定金利1.5%の元利均等で借りた場合。住宅価格は年収の5倍〜6倍、年収800万円と年収1000万円の場合にそれぞれ400万円と1000万円の頭金を入れて試算した。購入する住宅、ローンの借入額や金利、所得税などの納税額などによって結果は異なるので注意してほしい。

年収500万円の試算例から見ていこう。

住宅価格を税抜きで3000万円、住宅ローンの借入額を3000万円として試算した。住宅ローン減税の10年分は、ローン残高による控除額より所得税などの納税額のほうが低くなる。

10%引き上げ時の住宅ローン減税の3年延長では、単純延長分(63.4万円)より建物価格の2%の価額(40万円)のほうが低いので40万円が適用される。一方、年収的にはすまい給付金の対象となる。すまい給付金の拡充によって給付額が10万円(8%時)から40万円(10%時)になる。

足し引きのうえでは、建物価格の増税分が3年延長で相殺され、すまい給付金の額が上がったことで、8%のときより10%になったほうが30万円多く軽減されることになる。

年収800万円と1000万円は同じ構造

年収800万円で税抜き4000万円の住宅を購入、住宅ローン借入額3600万円、年収1000万円で税抜き6000万円の住宅を購入、住宅ローン借入額を5000万円として試算した。建物価格の2%の増税分(それぞれ50万円、60万円)が住宅ローン減税の延長分で相殺されるが、すまい給付金の対象になる年収ではないので、結果としてプラスマイナス0となる。

住宅ローン減税を単純に3年延長する場合なら減税額は年収が高くて多額のローンを組むほど多くなるのだが、建物価格の2%がつねに頭打ちになるという試算となった。


総じて、消費税率2%分の負担増を減税で相殺するという構造となったが、消費税は諸費用や住み替えの引っ越し代、買い換える家具・家電代にもかかってくる。結局10%のときのほうが負担は増えるわけだ。

ただし、高価格帯の住宅を取得する場合には、創設される「次世代住宅ポイント」の対象となる可能性が高い。これは、消費税率10%が適用される場合に、一定の品質を備えた住宅に対して、かつての住宅エコポイントのようなポイントが給付される制度だ。

ポイントは住宅の性能や設備などによって変わるが、新築住宅に対する基本のポイントは30万ポイントで、商品などと交換できる。ポイントで増税分を取り戻す道は開けている。

以上は、実は新築住宅の購入や住宅を新築した場合の話だ。中古住宅を購入する場合、親から住宅のための資金援助をもらう場合は、話が変わってくる。次は、取得する住宅による違いについて見ていこう。

中古住宅は住宅ローン減税の額が少ない!?

不動産会社が売り主になって、リノベーションした中古住宅を売り出す場合は、新築住宅と同じ考え方になる。

しかし、中古住宅は通常、住宅を所有している個人が売り主で、不動産会社の仲介によって、個人が買い主となって売買が成立する。このような個人間の売買は消費税の対象にならない。そのため、建物価格の消費税もかからないので、住宅ローン減税のローン残高の上限も4000万円ではなく、2000万円までとなっている。当然ながら、住宅ローン減税の3年延長もない。

8%のときと10%のときで違いはないのだが、不動産会社に支払う仲介手数料や諸費用の一部などは、消費税の対象となるので、最終的には10%になったほうが負担は増えてしまう。

朗報と言えるのは、中古住宅を買ってリフォームしてから住む場合、一定のリフォームをすれば「次世代住宅ポイント」の対象になることだ。

リフォームで給付されるポイントは、工事内容によって細かくポイントが定められ、それを加算していく仕組みなので、一概に何ポイントとは言えないが、中古住宅を買ってリフォームする場合にはポイントの加算がある。次世代住宅ポイントがもらえる場合であれば、10%のときにメリットが生まれてくる。

親や祖父母から住宅を取得するための費用として、贈与を受けようと思っている場合は、「直系尊属からの住宅取得資金の贈与の非課税制度」を利用して、贈与税がかからないように考えているだろう。

新築住宅の購入や住宅の新築で消費税率10%が適用される場合は、この非課税枠が大幅に拡充されるので、それを見逃す手はないだろう。8%の場合や中古住宅を購入する場合は、最大で700万円または1200万円(質の高い住宅に限る)だが、10%が適用される場合は最大で2500万円または3000万円(質の高い住宅に限る)に引き上げられる。

贈与税は最大55%で非課税メリット大

贈与税は、最大で55%になるほど税率の高い税金なので、非課税となるメリットが大きい。その枠が引き上げられるので、消費税の増税よりも減税効果が大きい場合もある。しかも、2020年4月以降は徐々に非課税枠が縮小されるので、タイミングにも注意したいところだ。


このほかにも注意点がいくつかある。

まず、ここで利用した制度はどれも、適用されるには一定の条件があること。条件を満たすかどうかは、それぞれの制度で判断していく必要があり、必ず利用できるわけではない。

次に、住宅については「経過措置」というものがある。新築住宅などは契約をしてから建物が完成して引き渡されるまで時間がかかる。そのため、消費税率が引き上げられる2019年10月の半年前、つまり2019年3月末までに契約をすれば、引き渡しが10%になってからでも旧税率の8%が適用されるというものだ。

ここでいう契約とは、建築工事を発注する契約や売買契約に変更工事を伴う場合などだ。リフォーム工事や新築工事などは、半年間しっかり対応すれば、10%になる10月より前に引き渡しを受けることも可能だ。税率だけを見て慌てて契約してしまうことのないようにしたい。

このように見ていくと、消費税増税分を減税で差し引く仕組みができているが、どういった住宅を取得するのか、住宅資金をどう調達するのか、その額はいくらか、タイミングはいつかなどによって、状況は変わってくる。大きな買い物であるだけに、自分の場合はどうかをしっかり見極めて、冷静に対応することが大切だ。