人物重視のための面接という手法を用いているのは誤りだと筆者は言います。では、なぜいまだに採用手法は変わらないのでしょうか?(写真:TAGSTOCK1/iStock)

採用手法として非効率なことが証明されているにもかかわらず、なぜ日本企業は「面接」を続けたがるのか? その理由を組織人事コンサルタントの曽和利光氏が解説します。

欧米に比べると日本の人事は旧態依然として見えますが、日本の人事も「外圧」、つまり海外からの強い影響によって変わろうと努力しています。前回の記事「日本の採用面接が人をちゃんと見抜けない理由」で紹介した『How Google Works』に影響を受け、「グーグルに学べ!」とばかりにピープルアナリティクス(ビッグデータ解析の手法を用いて、社員の行動様式やパフォーマンスの分析を行い、人事などに活用する技術)や構造化面接について学ぶ人事担当者も増えてきました。

オンライン小売業の世界最大手、アマゾンの「AI採用」も人事関係者の間で大きな話題となりました。これは「AI」、すなわち人工知能を使って書類選考や面接などを行い採用するか否かを決める手法です。

ソフトバンクやサッポロホールディングスなど、大手企業でもAI採用を導入する動きがあります。といっても、AIを使って書類選考にかかっていた時間を短縮し、空いた時間を面接に当てるのが主目的で、面接重視の姿勢は変わらないようです。

結局、志望者に一度も会わずに完全なるAI採用を実施したのは、私の知るところアマゾン1社だけ。エンジニアの採用において、プログラミングテストとパーソナリティーテストだけで内定の合否を行い、人事担当者と会うのは「入社交渉」のときが最初とのことでした。

アマゾンが「AI採用」をやめた理由

採用責任者によると、実際に人間が面接して判断するより社員の入社後のパフォーマンスがよく、離職率が低いという結果が出ているそうです。

ところが、2018年10月にアマゾンのAIツールが「女性差別」をしていることが判明し、AI採用はいったん取りやめとなってしまいました。原因は試供データの偏りによるもの。AIが採用すべき人物像を学習するために、アマゾンに送られてきた過去10年分の履歴書の情報を読み込んだところ、応募者の大半が男性だったため、AIが「採用すべき人材は男性が好ましい」と結論づけてしまったようです。

AIは人間がつくった文書を大量に読み込まされると、人間の脳内にある偏見や差別的な感情までも反映してしまいます。こうしたことのチェック機能を果たすのはやはり人間であり、完全に「脱人間的な選考」にシフトするにはまだまだ課題がありそうです。

「官僚的な組織」であることの弊害

また、2016年に『人事評価はもういらない』(松丘啓司著・ファーストプレス)という本が出版されたときは、「アメリカを代表する企業ゼネラル・エレクトリック社(以下、GE)が人事評価をやめた!」と人事担当者の間で騒然となりました。正確には人事評価を完全にやめたわけではなく、半期に一度や1年に一度の人事評価ではなく、もっと短いスパンでマネジャーから部下にフィードバックする「リアルタイムフィードバック制」に移行したようです。

報酬に関しても、部門ごとに原資となる「サイフ」を渡し、マネジャー間の相談によって社員の報酬額を決定していくという画期的な制度でした。年に一度の評価では、上司であるマネジャーが自分をどう評価しているのかわかりにくいですが、リアルタイムに、その都度フィードバックがあれば、評価や報酬への納得感も高まります。

ただし、これはGEが「自立した社員がそろい、フラットな組織を実現している企業」だからこそできること。GEにおける上司と部下の関係は、マネジャーが部下を管理する「上下関係」はなく、部下のパフォーマンスを上げるためのサポート役として存在するという「フラットな関係」なのです。

対して、日本のほとんどの企業はヒエラルキー型(ピラミッドのように上下に序列化された階級制)の組織になっています。つまりは官僚制の組織ということです。このような組織の特徴として、指揮命令が頂点から下には伝わりやすいが、逆に下から上には伝わりにくいことがあげられます。そのため、現場から「新しいことに取り組んでみたい」「改革をしよう」などと提案をしても、上にはほとんど話が伝わらず、事態はなかなか前に進みません。

このような違いを鑑みると、やはり日本企業にGEのような評価システムが根づくのはまだまだ先の話になるでしょう。採用に関しても、海外からの刺激を受けてはいるものの、今はまだ試行錯誤している段階で、新しいシステムに移行するには時間がかかりそうです。

そのほかの採用選考の方法としては、すでに多くの企業が採用しているSPI(Synthetic Personality Inventory/総合適性検査)があります。これは就活・転職サイトの運営で知られるリクルートキャリアが開発した適性検査で、仕事をするうえで必要となる基礎的な能力や、志望者の人柄や行動、考え方がわかるとされています。

面接よりも妥当性が高いことは証明されているものの、ネックは1人あたり5000円程度のコストがかかること。そうなると「自社の社員を面接官として駆り出せばいい。そのほうが安上がりだ」と企業が判断するのもやむをえないかもしれません。

このように採用選考の方式はさまざま存在するのですが、どれも一長一短で完璧とは言い難く、結局は使い慣れた従来どおりの方法を用いるケースが多いのです。いまだに面接が重宝がられている理由には「これまでもそうやって採用してきたから」という、ある種の思考停止や惰性も多かれ少なかれ影響しているように思えてなりません。

「人物重視」ではなく「面接重視」な現状

採用手法として面接がなくならないのは、多くの企業が採用方針として掲げている「人物重視」が、いつのまにか「面接重視」にすり替わってしまっていることも一因です。

多くの企業がウェブサイトの採用情報ページや説明会で「わが社は『人物重視』の採用を行っています」といったことを宣言しています。あなたも就活する中で何度も見聞きしているのではないでしょうか。

企業としては、大学のランクや学業の成績、筆記試験の結果ではなく、人柄や人間性を重視して人材を集めたい。そのために面接に力を入れている――とアピールしたいのでしょう。とはいえ、人物重視を実現するために面接という手法を用いているのだとしたら、それはまったくの誤りです。

繰り返しになりますが「人物を見極める」という営みにおいて、面接という手法が不正確であり、妥当性も低いことは科学的にも証明されています。本当の意味での「人物重視」を目指すのであれば、その職種に適した採用手法でふさわしい人物を選ぶほうが理にかなっているはず。しかし現実には「人物重視」という大義名分を掲げて、画一的な面接という手法が相も変わらず重視され続けているのです。

そもそも面接官自身、いくつもの面接を突破してその会社に入社してきた人たちです。単純に面接には価値があると思っていますし、自分が通った選考方式を否定することは自分自身を否定することにもつながります。その価値観をひっくり返すことは難しいでしょう。

面接がなくならない理由

また、面接がなくならないのは、受ける側にも理由があります。面接を受ける人に「適性検査とES、どちらで落とされたら気分が悪いですか?」と尋ねると、多くの人は「適性検査で落ちるほうが、気分が悪い」と答えます。

質問に対して「当てはまる」「どちらかといえば当てはまる」「どちらかといえば当てはまらない」「当てはまらない」の4択から1つ選んで答える適性検査より、自分の言葉で書いたESのほうが「自分をちゃんと知ってもらえた気がする」と言うのです。


どうやら人には「きちんと人の目を通して、自分という人間を判断してもらいたい」という願望、もっと露骨に言ってしまうなら「人に裁かれたい」という願望があるようです。そうした心理が「面接で判断してほしい」という欲求にもつながっているのでしょう。

同様に、面接をする側にも「人を裁きたい」という欲求があります。AI採用のほうが労力もかからず、妥当性も高いとわかっていても、自分の意思や直感を試してみたい欲求が捨てられない。

日本のAI採用が書類選考のみに使われ、いまだ面接は人の手で粛々と続けられているのも、そうした欲求が背景に存在するからかもしれません。採用する側、される側の双方に「裁きたい欲求」「裁かれたい欲求」がある限り、面接は今後もなくならないでしょう。

ましてアマゾンのように、面接を完全に排除するほどの割り切りができる企業は、そうそう出現してこないでしょう。