「正直に言うと、まだ何もできていない。オーケストラに例えるとチューニングしている段階。コパ・アメリカに照準を合わせている」

 試合前日の記者会見で、2月に就任したばかりのコロンビアのカルロス・ケイロス新監督はそう言った。フレンドリーマッチにもかかわらず、遠く南米から詰めかけた多くの自国メディアを牽制しようとしたのかもしれないが、たしかに翌日の試合では、ホームの日本に主導権を握られる時間が長かった。

 それでも、能力の高い選手を揃えるチームと経験豊富な指揮官は、試合中に的確に修正を施し、エースのラダメル・ファルカオのPKできっちりと1−0の白星を手にしている。コロンビアは日本に敗れたロシアW杯の雪辱を果たした。

 ただし、日本に収穫がなかったわけではない。20歳の冨安健洋(シント・トロイデン)は、ワールドクラスのストライカーであるラダメル・ファルカオ(モナコ)に対してPKを除いてあまり仕事をさせず、代表に復帰した中島翔哉(アル・ドゥハイル)は段違いの敏捷性とスキルで多くのチャンスを生み出した。そして大迫勇也(ブレーメン)の代役に抜擢された鈴木武蔵は、代表デビュー戦で決定的な働きこそ見せられなかったが、持ち味を発揮したシーンもあった。


コロンビア戦で代表デビューを果たした鈴木

 昨季、V・ファーレン長崎でキャリア初の2桁得点をマークし、オフに移ったコンサドーレ札幌で今季ここまで3ゴール。かねてより将来を嘱望されていた25歳がついに覚醒の時を迎えつつあり、代表の前線の定位置争いを激化させることが期待されている。

 コロンビア戦の前日には、「楽しみです。(監督には)自分の特徴である(相手ディフェンスラインの)背後に抜けることや、クロスに思い切り入るように言われています。あとは前線で起点になること。なるべくペナルティエリアまで行って、決定的な仕事ができるように」と鈴木は話していた。表情からは読み取れなかったが、きっとこの時を楽しみにしていたのだろう。

 その大きな理由のひとつに、現代表は彼と同世代の選手が中心になっていることがある。中島、南野拓実(ザルツブルク)、室屋成(FC東京)、中村航輔(柏レイソル)と、2016年のリオ五輪に共に参加したメンバーだけでも、今回のチームに4人いる。

「外から見ていた時は刺激になりました。10代の頃から一緒にやっている選手もいて、自分も早く(日本代表に)入りたいと思っていました」

 迎えたコンロビア戦で先発に名を連ねると、前半10分にはエバートンに所属する195cmのCBジェリー・ミナを背負いながら、しっかりとボールを収めて局面を前に進めた。その1分後には、同世代の中島からのスルーパスに抜け出し、ボールは少し長かったものの両者の呼吸と狙いは一致していた。さらに前半28分には、再び中島の縦パスから南野のスルーを経て鈴木につながったが、ミナに阻まれ、シュートには持ち込めなかった。

 鈴木は序盤から積極的にボールに絡み、自らリズムを生み出していくと、前半37分に最大の見せ場が訪れる。左サイドでボールを持った中島が「カットインしてくるとわかった」背番号13は、「サイドバックなら競り勝てると思って、(背後に)逃げて」クロスを引き出す。フリーでのヘディングは惜しくも失敗に終わってしまったが、この日最も可能性を感じさせたシーンだった。

 コロンビアが修正してきた後半には、存在感が薄くなり、後半20分に香川真司(ベジクタシュ)と交代。鈴木は「後半の反省点は、前線の守備の強度が落ちたこと。あそこでもう一度プレッシャーをかけ直すべきだった」と試合を振り返った。

 昨季は長崎で、元日本代表FWの高木琢也監督(現大宮監督)から「なるべくゴールに近い位置で前を向いてボールを受ける動き」を教わっただけでなく、個別にメンタル面の指導も受けた。今季は札幌でミハイロ・ペトロビッチ監督に「動きすぎずに我慢すること。タイミングと予測が大事」と助言され、成長につなげている。そして代表の森保一監督からは、裏への抜け出し、ポストプレー、クロスへの動き、決定的な仕事を求められている。

 コロンビア戦だけで言えば、前の2つは披露できたが、残りの2つについては本人も満足できていないのではないか。

「たしかにクロスに合わない場面はありました。自分のシュートも少なかったので、決定機にもっと絡んでいきたい。そこは出し手とのすり合わせが必要なので、この合宿でやっていきたいです」

 ミナとダビンソン・サンチェス(トッテナム)というハイレベルなCBとの対戦に関しては、少し嬉しそうにこう話した。

「1キャップ目を刻んだというより、コロンビアと対戦できたことが大きな経験になりました。負けはしたけど、今後の成長に向けて、この貴重な経験を生かしていかないと。(相手のCBは)本当に強かったし、あんな選手とやれたのは大きい。もっともっと成長して、次にやる時は負けずに得点を取りたいです」

 現在の日本代表で、前線の大黒柱と言うべき大迫の存在は大きいが、不測の事態へのオプションは必要だ。いや、鈴木自身はそこで満足するつもりはない。

「翔哉をはじめ、みんなとできる喜びを感じていますが、自分もこの代表で中心になっていきたい」

 本格開花を始めたストライカーは、今後の代表の前線に彩りをもたらすことができるだろうか。