世界では今年が「5G元年」。日本はどうなる!?  【MWC19】

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2月25日〜28日にスペイン・バルセロナで世界最大級のモバイル展示会「MWC19 Barcelona」が開催されました。今年のMWCにおいて、最大のテーマとなったのは「5G」です。5Gとは「5th Generation(第5世代)」の略。今年は世界で5Gサービスが始まる年とあって、5G対応のスマートフォンや5Gの高速通信を生かした新しいサービスなどの出展が多数出展されました。ですが、日本で5Gの商用サービスが始まるのは2020年。まだ、少し先という印象です。

そもそも5Gって何? スマホはどう変わるの? 日本は遅れているの? MWCを取材して見えてきたことをレポートします。

 

■そもそも5Gって何?

携帯電話の通信システムは、世代によって大別されています。ざっくり説明すると、下記のように進化してきました。

1G(第1世代):アナログ方式
2G(第2世代):デジタル方式
3G(第3世代):2Gを高速化させた規格
4G(第4世代):3Gを高速化させた規格

3Gと4Gの間に、限りなく4Gに近い「3.9G」と呼ばれた世代もあります。NTTドコモのサービスでいえば、3Gが「FOMA」、3.9Gが「Xi」です。3.9Gには「LTE」という通信方式が使われて、4GはLTEをさらに高速化させた「LTE-Advanced」という技術が使われています。要するに、3Gから4Gは「同じ流れの中で発展していった」と考えていいでしょう。

しかし、5Gは「4Gを発展させた」というよりも「新しい技術」と呼ぶべきものです。その理由は、従来の通信方式とは仕様が大きく異なり、利用する周波数帯も違うからです。5Gは、10Gbps以上の高速通信が可能になり、将来的には最大20Gbpsの実現が見込まれています。速さだけでなく、一度に大容量を通信できるので、多くの端末で同じサービスを同時に利用できます。さらに、低遅延、低コスト、低消費電力といったメリットも挙げられています。

現行の4Gの通信速度でも「速い」「満足」と感じている人はいるでしょうが、アプリのダウンロードに時間がかかったり、動画の再生中に止まったり、ということはありますよね? 5Gが普及すると、そんなストレスはなくなるでしょう。もはや、自宅に光ファイバーを引き込む必要さえなくなるかもしれません。5Gは「われわれの生活を変える画期的な通信サービス」と考えておいて間違いないでしょう。

 

■5Gスマホが続々登場

日本のみならず世界が重要視する5Gは、実は、かなり前から研究が進められていました。4Gが始まった2010年頃には、世界の主要な通信事業者や通信機器メーカーが研究・開発を開始し、MWCなど国際的な展示会で、その技術を披露していました。筆者は2015年からMWCを取材していますが、毎年「5G」は大きなテーマとして掲げられていたように記憶しています。

しかし昨年までは、5Gになると「高画質映像を瞬時に伝送できます」といったデモンストレーションが中心で、5G向けのスマホはほとんど出展されていませんでした。昨年あたりから、一部のメーカーがプロトタイプを参考出展していましたが、ショーケースに収めて、いかにもすごいことができそうな空気感を漂わせて鎮座している、という感じでした。

今年は多くのメーカーが5G対応モデルを出展。今年のバルセロナでは、まだ5Gは始まっていないので5Gに接続することはできませんが、その操作感を試すことができました。ファーウェイが発表した、折りたためるスマホ「HUAWEI Mate X」や、LGエレクトロニクスが発表した、2画面化できる「LG V50 ThinQ」は、5Gで実現する高速・大容量通信を想定して開発されたモデルと言っていいでしょう。

▲ファーウェイはMWCに合わせて開催したプレスカンファレンスで、5G対応の折り曲げられるスマホ「HUAWEI Mate X」を発表

▲LGエレクトロニクスは初の5Gモデルとして「LG V50 ThinQ」を発表。米スプリントから今春発売予定

▲「LG V50 ThinQ」は「LG Dual Screen」というアクセサリーと組み合わせて使うと、5G向けのリッチコンテンツをより快適に楽しめる

▲ZTEが出展していた 5Gスマホ「ZTE AXON 10 Pro」。中国とヨーロッパで発売予定

スマートフォンに搭載されるチップセットや通信システムなどを手がけるクアルコムのブースでは、実際に5Gで通信する展示も行われていました。

今年、世界に先がけて発売される5Gスマホは、クアルコムが開発した最新チップセット「Snapdragon 855」と、5Gモデム「Snapdragon X50 5G modem」を組み合わせて搭載しています。

これらを採用する7社(LGエレクトロニクス、OPPO、OnePlus、ソニーモバイルコミュニケーションズ、サムスン、Xiaomi、ZTE)の5Gスマホが展示され、会場内に設置させた5G用の基地局と通信して、高画質映像やゲームコンテンツを出力するデモンストレーションを見ることができました。

▲OPPOは5Gスマホのリリースと同時に「5Gクラウドゲーム」を提供予定

▲クアルコムブースには5Gのアンテナが設置され、実際に5Gで通信するデモンストレーションが行われた

 

■5Gは、いつから利用できるの?

5Gは、2018年6月に国際的な標準仕様が決まりました(現在のLTEと連携するノンスタンドアローンの仕様が2017年12月に決まっていた)。それまでは、どういう仕様になるかを推測で進めていた研究開発が一気に実用化に向けて加速したわけです。

実は、アメリカではすでに5Gの商用サービスが始まっています。

先陣を切ったのは、ベライゾンという通信事業者で、家庭向けのブロードバンドサービスとして提供。今まで有線で行なっていたサービスを無線に置き換えた形です。続いて、12月にAT&Tがサービスを開始し、スプリント、T-モバイルも近くサービスを開始する見通しです。なお、スプリントは5Gサービス開始に合わせて、LGエレクトロニクス製の5Gスマホ「LG V50 ThinQ 5G」を発売することを発表しています。

ヨーロッパでは、国によっては今年上半期に5Gの商用サービスが始まる見通しで、夏以降、主要な通信事業者が追随すると見られています。アジアは、韓国が今春から、中国は今秋以降。そのほかの国・地域は、一歩遅れて2020年以降になりそうです。

▲韓国はすでに5G開始に向けて準備万端という印象。サムスンのブースでは、5Gスマホ「Galaxy S10 5G」を用いて、複数のカメラで中継されるスポーツの映像をスマホで切り替えて視聴でき、多彩なデータ放送も同時に利用できるデモンストレーションが見られた

さて、日本ですが、今年の9月20日から開催される「ラグビーワールドカップ2019」の開催に合わせて、NTTドコモがプレサービスを開始する予定です。商用サービスは、来年の東京オリンピック・パラリンピックの開幕に先駆けて、2020年春から始まることを発表しています。au(KDDI)、ソフトバンクもこれに追随し、今年の10月から携帯電話事業に参入する楽天も2020年の5Gサービスを開始する予定です。

▲ソニーモバイルのブースに出展されていた5G対応のXperiaのプロトタイプ

▲ソニーモバイルのブースでの展示より。5Gは6GHz以下の周波数を利用する「サブ6」と、24GHz以上の周波数を利用する「ミリ波」の2種類に分けられる。「サブ6」は現行の4Gの通信方式に近く、「ミリ派」は新しい技術を必要とする方式で、超高速通信を実現する

▲今秋、携帯電話事業に参入する楽天モバイルネットワークもMWCに出展し、5Gへの移行をスムーズに行えるプラットフォームを準備していることをアピールしていた

4月10日には、5Gに使う周波数が通信事業者に割り当てられる予定です。それにより、各社の基地局設営や端末開発など、5Gに向けた準備が加速化することでしょう。欧米や韓国に比べると遅れているという印象は否めませんが、5Gは徐々にエリアが拡大し、通信速度が速くなり、サービスや対応機種が充実していくサービスです。来年、オリンピックが開催される頃に、多くの人が5Gの恩恵を受けられるようになっていることを期待しましょう。

 

■多彩な用途が想定されている5G。MWCで注目されたのは?

MWCを取材していて、あちこちで耳にしたのが「5Gの主役はスマホではない」ということ。これまでの3G、4Gは、あくまでもモバイル機器のための通信方式でした。かつてと比べると速くなったとはいえ、より高速かつ安定した通信が必要な場合は、有線ネットワークが必要でした。しかし、5Gが普及すると、もはや有線のネットワークは必要ではなくなる可能性もあります。5Gはスマホだけでなく、いろいろな用途に用いられ、むしろスマホ向けのサービスは脇役になってしまうかもしれません。

MWCでは、5Gを活用するサービスのデモンストレーションも行われていました。その中で、近い将来、実用化されるであろう事例として、わかりやすかったのがNTTドコモの出展。ブースに設けられたメインステージでは、違う場所にいる演奏者が、あたかも同じ場所で演奏しているように見えるライブセッションが行われました。離れた場所で演奏する人の映像と音声を5Gでリアルタイムで伝送するデモンストレーションです。

▲左の女性はステージには実在せず、別の場所で演奏する映像をリアルタイムで転送したもの。2人の演奏にズレは生じず、5Gの低遅延をアピールした

東京女子医科大学と共同で進めている「SCOT(スマート治療室)」という展示も興味深かったです。これは、5Gによる高画質映像のリアルタイム伝送によって、医師が離れた場所にいても、手術の指示などを行えるというもの。5Gは、人命救助にもつながる新しい社会インフラとなりそうです。

▲SCOT(スマート治療室)の展示の一部。医師が新幹線などで移動中であったとしても、5Gでの通信によって、遠隔治療ができるという展示。治療を受ける患者も、緊急医療に対応する車の中という想定

▲5Gにより、内視鏡で見る映像もクリアな画質のままでリアルタイムで送信できる

ちなみに、MWCは、昨年までは「Mobile World Congress」が正式名称でした。今年からは「MWC」が正式名称となり、「Mobile」というキーワードは消えてしまいました。改称の理由については調べていませんが、おそらくは、5Gがモバイルだけのものではなくなったからでしょう。2019年は、通信の歴史が大きく変わる記念すべき年になるかもしれません。

 

(取材・文/村元正剛

むらもとまさかた/ITライター

iモードが始まった1999年からモバイル業界を取材し、さまざまな雑誌やWebメディアに記事を寄稿。2005年に編集プロダクション「ゴーズ」を設立。スマホ関連の書籍・ムックの編集にも携わっている。