野島廣司社長の「使い物にならない」発言に揺れるノジマ。写真は三鷹東八店(記者撮影)

「ノジマの『人を大事にする』という環境を、買収したITXにも作れたら(業績は)伸びていく」。2014年に携帯電話販売会社ITXの買収を発表した家電量販中堅ノジマの野島廣司社長は週刊東洋経済のインタビューにこう話していた。

ところが、野島社長は2018年8月に朝礼でITXのある社員を「こんなひどい店長がいるのかと思うぐらいひどい店長でした」と実名を明かして非難。「この子は使い物にならない」と発言し、その内容がそのままほかの社員も閲覧できる子会社のイントラネットに掲載されていたことを朝日新聞デジタルが3月14日付けで報じた。

投資家の前で社員の「降格」に言及

実名で非難された社員は昨年末に退職した。ノジマは野島社長の発言と社員の退職は事実だと認めた上で、「当社代表の野島廣司が感じたことは、よい事例も、悪い事例も従業員に対してオープンにすることで、業務の改善に活かすという社員教育の一環として行ったもの」「今後は従業員に対するメッセージやその表現については、これまで以上に配慮してまいります」(広報担当者)とコメントした。


「使い物にならない」と発言したノジマの野島廣司社長。撮影は2014年11月(撮影:大澤誠)

野島社長のITXに対する遠慮会釈のない発言は、投資家やアナリストの前でも何度か発せられていた。2018年5月に行われた決算説明会では「(ITX社員の)どの人がよい人か悪い人か、差が激しかった」と発言。同じ席上でデジタル家電の利益率悪化を問われると、野島社長は「利益率が低かった携帯と情報ジャンル商品の担当責任者が降格になったりと改革している」と述べた。国内のある機関投資家は「投資家やアナリストの前で担当者の降格まで言及するのは言いすぎ」と感じたという。

また、ある証券アナリストは「ノジマが買収した子会社ITXの成長について、『ノジマで採用して教育した社員を送り込んで、ノジマ流を移植する』と会社の幹部は話していた。子会社再建策として親会社から人材を送り込むのはよくあることだが、会社の説明を聞くと、買収した会社に元々いた社員の立場がどうなっているか疑問だった」と話す。

家電量販業界は「3年以内離職率が10〜30%」(業界関係者)が普通で、そのため社員を大量採用する。ノジマも採用には積極的で、2019年にはグループ全体で約950人の新卒社員が入社予定だ。主軸である家電量販事業が順調に拡大していることもあるが、「自社育成した社員で子会社のテコ入れを図る」(ノジマ関係者)ことも背景にある。決算説明会では「ノジマからの出向者がITX店舗にて活躍」という点が強調される。

実際、ノジマの家電量販事業は大きく伸びており、ノジマの自社社員への「信任」は高まっている。2014年度の家電量販事業の売上高は1760億円だったが、2017年度は1990億円と約13%伸長。同じ期間で減収だったヤマダ電機、同約6%増のケーズHDなどのライバルと比較するとノジマの好調ぶりが目立つ。

好調の原動力となっているのが、まさに自社育成の社員だ。ノジマは家電販売において「コンサルティングセールス」という独自販売戦略を展開。ほかの家電量販各社が家電メーカーから派遣されてきたメーカースタッフも販売スタッフとして店頭で接客するのに対し、ノジマはメーカースタッフを排し、自社社員による販売に徹する。「メーカーのスタッフは特定のメーカーを勧める傾向が強い。自社で育成した社員ならば公平な立場でお客様の要望を丁寧に聞いて最適な商品を提案することができる。そのためのノウハウもある」(ノジマ幹部)。

ITXには逆風が吹いている

掃除ロボットや自動機能がついた高機能洗濯機、外出先からインターネットで操作可能なIoT家電など、共働き世帯の増加によって時短ニーズに応える高機能家電に人気が集まっている。これらは客が購入に踏み切るために店頭で十分な機能の説明が求められることが多く、「首都圏中心に展開しているノジマはコンサルティングセールスを通して、これらのニーズを的確に捉えることができた」(前出のアナリスト)とノジマの成長への評価は高い。

その一方、ノジマ入り後のITXは、想定したほど業績が伸びていない。ITXは、ドコモやauなど携帯電話キャリア大手の代理店として携帯電話販売を手掛けている。買収時の2015年3月期のITX単体の売上高は2463億。営業利益は54億円だが、2018年3月期はそれぞれ1877億円と41億円にそれぞれ縮小している。一部事業をグループ会社に移管した影響もあるが、買収発表時のインタビューで野島社長は「成長させる自信があったので、買収は全然悩まなかった」と話していた。その時と比べると「思ったより厳しくなってしまったのは事実」(前出の幹部)と認める。

さらに、総務省から携帯販売に対する規制が強化されると見込まれるなど、ITXへの逆風は続く。2015年のITX買収当時、時価総額約250億円のノジマが買収総額850億円でITXを買収した。その結果、約40%あったノジマの自己資本比率は14.3%まで低下。2018年12月末の自己資本比率は28.7%にとどまっている。社内からは「今回問題として報じられた社長の発言は一社員に対するものだけでなく、ITX社員の質に対する焦りもあったのでは」という声もあがる。

家電量販が好調なこともあり、カンボジアにノジマの店舗を展開しているほか、2019年に入ってシンガポールの家電家具小売り大手のコーツ・アジアを子会社化するなど、拡大路線を続けている。規模拡大は採用数の増加と社員のレベルアップが前提となるが、野島社長流の社員教育がうまくいくのか、未知数だ。