働き方はクリエイター、スペシャリスト、バックオフィスに分けられます。AI時代に淘汰される仕事とは何でしょうか(写真:bee/PIXTA)

人生に必勝法はないけれど、ゲームと同じように「こうしたほうがいいこと」と「やってはいけないこと」がある。テクノロジーがとんでもない勢いで進歩する中、「AI(人工知能)により今ある仕事の約半分が自動化される」など、これからの仕事や働き方についても、さまざまなことが言われている。『人生は攻略できる』の著者である作家の橘玲氏に、これからの働き方について語ってもらった。

会社に属すひとと属さないひと

働き方には大きく3つある。クリエイター、スペシャリスト、バックオフィスだ。これはとても大事なことだけど、日本ではなぜか誰も教えてくれない。

クリエイターというのは、「クリエイティブ(創造的)」な仕事をする人で、スペシャリストは「スペシャル(専門)」を持っている。それに対してバックオフィスは「事務系」の仕事だ。

これらのいちばんの違いは、会社に属しているか、属していないか、だ。

クリエイターというとマンガ家やミュージシャンを思い浮かべるだろうけど、プロスポーツ選手やベンチャー起業家も含まれる。日本でも世界でも彼らには際立った特徴がある。それは「会社員ではない」ことだ。

サラリーマンをしながらライブハウスのステージに立つミュージシャンは、音楽活動で会社から給料をもらっているわけではない。会社勤めのプロ野球選手はいないし、ベンチャー起業家(自分で会社を立ち上げる人)が会社員というのはそもそも定義矛盾だ。

それに対してバックオフィスは、非正規やパート、アルバイトなど雇用形態に違いはあっても、全員がどこかの組織に所属している。事務系の仕事というのは、その「事務」を発注して管理する会社がないと成り立たないのだ。

スペシャリストはこの中間で、組織に属さずに仕事をする人もいれば、どこかの組織に属している人もいる。典型的なのは医者で、自分の病院を持てば「開業医」、どこかの大きな病院で働けば「勤務医」と呼ばれる。弁護士や会計士・税理士、プログラマーやコンサルタント、トレーダーなどにも、組織に属している人と属していない人がいる。

組織に属していないクリエイターとスペシャリストは、「フリーエージェント」とか「インディペンデント・ワーカー」と呼ばれる。要するに自営業者のことだ。ここまでは世界共通だけど、スペシャリストとバックオフィスの扱いでは、日本と世界は大きく異なる。

いまでは欧米だけでなく中国なども含め、「外資系」の会社では、組織の中でスペシャリストとバックオフィスがはっきり分かれている。投資銀行でいえば、スペシャリストは株式や債券を売買したり、顧客(機関投資家)に営業したりする人で、バックオフィスはその取引を記帳するのが仕事だ。この2つはまったく違う世界で、彼らは相手のことを「同僚」だなんて絶対思わない。

それに対して日本では、バックオフィスの仕事は主に非正規という「身分」の労働者が行っているが、正規の「身分」の労働者、すなわち正社員の中にもバックオフィスの仕事をしている人がいて、混然一体となっている。そのうえ正社員の中で、誰がスペシャリストで誰がバックオフィスなのかもよくわからない。

ひとを「身分」で差別してはいけないというのは、近代市民社会の最も重要な約束事だ。ところが日本の会社は、社員を「正規」と「非正規」という身分に分けている。これは現代の身分制そのもので、いま日本社会の大きな問題になっている。これを世界標準の働き方にそろえようというのが「働き方改革」だ。

拡張可能な仕事と拡張できない仕事

次に、この3つの仕事を別の角度から見てみよう。

映画俳優と演劇俳優はどちらも同じような仕事をしているけど、映画はクリエイター、演劇はスペシャリストの世界だ。これは、その仕事が「拡張」できるかどうかで決まる。

テクノロジーの進歩によって、あらゆるコンテンツがきわめて安価に(ほぼゼロコストで)複製できるようになった。

『スター・ウォーズ』のように大ヒットした映画は、映画館、テレビ、DVD、インターネット配信など、さまざまなメディア(媒体)によって世界中に広がっていく。ネットの配信数には上限はないから、理論上は、地球上に住むすべての人がお金を払って映画を楽しむことができる。これは、富にも上限がないということだ。

それに対してバックオフィスは時給計算の仕事だから、収入は時給と労働時間で決まり拡張性はまったくない。時給1000円の仕事を8時間やれば8000円で、それ以上にもそれ以下にもならない。

このように考えると、医師や弁護士、会計士などの仕事も拡張性がないことがわかる。テレビドラマに出てくる天才外科医は1回の手術料がものすごく高いかもしれないが、手術件数には物理的な上限があるから、富が無限に拡張していくことはない。同様に、弁護士や会計士も扱える事件やクライアントの数には上限があるだろう。彼らは極めて高い時給で働いているが、それでも拡張不可能な世界の住人なのだ。

クリエイティブな仕事をしていても、クリエイターは拡張可能で、スペシャリストは拡張不可能だ。このようにいうと誰もがクリエイターに憧れるだろうけど、成功するのはごく一部という厳しい世界で、タダ働き(ときには持ち出し)になることもある。

それに対してスペシャリストは働けば必ず収入が得られるし、年収2000万円や3000万円になることも珍しくない。ただしそれに伴って、責任も大きくなっていく(医者は誤って患者を死なせてしまうと医療過誤で訴えられる)。

だからこれは、どちらがよくてどちらが悪いということではない。共通するのはクリエイティブな仕事をしていることだから、クリエイターとスペシャリストを合わせて「クリエイティブクラス」としよう。

それに対してバックオフィスは、仕事の手順がマニュアル化されているからクリエイティブなものはほとんどない。そのうえ時給は、スペシャリストに比べて大幅に低い。

だったらバックオフィスの仕事にはなんの魅力もないのだろうか。そんなことはない。そのいちばんの特徴は「責任がない」ことだ。マニュアルどおりにやるのが仕事なのだから、それによってなにかとんでもなくヒドいことが起きたとしても、責任を取るのはマニュアルをつくった会社(経営陣)でバックオフィスの労働者ではない。

世の中には、労働は生活のための単なる手段で、余った時間を趣味に使いたいという人が(かなりたくさん)いるが、そんな彼ら/彼女たちにぴったりの仕事だ。

どのような仕事を目指すかは自由だけど、このように分類すると視界がかなり開けるのではないだろうか。

機械はマニュアル化した仕事がものすごく得意

クリエイター、スペシャリスト、バックオフィスの仕事は一長一短あって「職業に貴賤はない」けど、将来性はかなり異なる。それはAI(人工知能)をはじめとしてテクノロジーが急速に進歩していて、これからは人間だけでなく機械とも競争しなければならないからだ。

将棋や囲碁でプロを超えたことで、いずれすべての仕事はAIに取って代わられるのではないかといわれている。それに対して、単にルールが決まったゲームに強いだけで、自然な会話とか臨機応変の対応なんて全然できないのだから、ちょっと出来のいいコンピューターにすぎないという反論もある。

どちらが正しいかは未来になってみないとわからないけど、1つだけ確かなことがある。機械はマニュアル化した仕事がものすごく得意だということだ。

コンピューターの言語はアルゴリズムで、これは作業手順をすべてマニュアル化したものだ。逆にいえば、うまくマニュアル化できない作業は機械にはできない。

AIとビッグデータによって、医者や弁護士のようなスペシャリストの仕事すらなくなるといわれている。でもそこで例に挙げられるのは、画像診断から病変を見つけるとか、膨大な裁判記録から関連する判例を探し出すとかの仕事だ。

難しい試験を通った優秀な人たちを集めて、こんな作業で膨大なマンパワーを浪費するのはあまりにもったいない。面倒なことはすべてAIにやってもらって、専門家本来の仕事に専念してもらったほうがずっといい。

将来的にはロボット医師やロボット弁護士が登場するかもしれないが、それはまだずいぶん先のことで、当面は、AIのような新しいテクノロジーは(優秀な)スペシャリストの収入を大きく引き上げるだろう。

それに対して、バックオフィスの仕事の雲行きはかなりあやしい。いうまでもなく、それがマニュアル化された仕事の集まりだからだ。


その典型が銀行のバックオフィス部門で、お金を計算したり、ある口座から別の口座に移したり、外国のお金に両替したりすることは、コンピュータ―が最も得意とすることだ。

そのため、近い将来銀行の仕事の多くは機械に置き換えられて、銀行そのものもシリコンバレーのグローバル企業に吸収されるか、淘汰されるのではないかといわれている。

アマゾン銀行やグーグル銀行が登場すれば、日本の銀行はみんな消えてしまうだろう。ブロックチェーンを利用して「1アマゾン」とか「1グーグル」という通貨が発行されるかもしれない。

かつては大学生の人気就職ランキングで常連だった大手銀行が軒並み順位を大きく落としているのは、10年後には会社ごとなくなっているのではないかと思われているからだし、この不安には根拠がある。

男性の多くが仕事を失った

ただし、時給で給与が払われる仕事の中にもAIでは代替できないものがある。代表的なのは看護や介護などの仕事で、そこでは患者や顧客への共感力が重要になる。

IQは知能指数だが、EQ(Emotional IQ)は「こころの知能指数」といわれる。EQの高い人は、他人の感情を理解し、自分の感情をコントロールする能力が高い。EQの定義には諸説あるけれど、すくなくとも共感力については、男性よりも女性のほうが高いことがさまざまな研究で明らかになっている。本格的なAI時代が到来しても、女性は機械を補助にしてずっとうまく適応できるのだ。

そしてこれは未来予測ではなくなっている。アメリカでは自動車工場などの仕事が外国に移転され、あるいは機械化されて、人間をあまり雇わなくてもよくなってきた。こうして多くの労働者が職を失ったのだが、その大半は男だ。それに対して、「ピンクカラー」と呼ばれる共感力を必要とする女性の仕事はあまり影響を受けていない。

これは、たんなる外国の話ではない。機械がバックオフィスの仕事を次々と代替していけば、日本でもいずれ同じことが起きるだろう。