仕事にやる気が起きない。どこから手をつければいいのか。2人の脳科学者にアドバイスを求めた。第1回は「毎日同じことの繰り返し。仕事への意欲が湧きません」――。

▼50代課長
Q 毎日同じことの繰り返し。仕事への意欲が湧きません。
A これから行うことの、具体的な行動をイメージしてください。

■やろうと思ってもできないワケは?

「やる気」や「意欲」の中核をなす「線条体」は、脳の奥の神経系「大脳基底核」の一部で、運動の開始・持続・コントロールにかかわっています。線条体が発火(活性化)することによって意欲的に行動することができます。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/eopleImages)

重い腰が上がらないのは、「やろう」とか「やらなければいけない」と思っただけではこの線条体が発火しないためです。必要なのは快感(報酬)です。野生動物で例えると「移動することで生存率が上がった、美味しい餌が確保できた」というように、行動と快感が結びつくことで線条体は発火するのです。

「そうはいっても、やらなければならない仕事をやったくらいでは給料も上がらないし、昇進するわけでもない。快感がないからやる気が起きないのだ」と余計にやる気が損なわれたかもしれません。実はそんな場合にも、脳がやる気になるもう1つの方法があります。それは「これからやらなければいけない行動を具体的にイメージする」ことです。

「タバコの火を消して、この喫煙所のドアを開け、机まで歩いて行って、姿勢良く椅子に座り、受話器を握って、笑顔をつくり、○○商事の奥田さんに電話をする」などと具体的にイメージすると、筋肉に指令を出す「運動野」や運動の計画を立てる「前運動野」の活動が促されます。線条体は運動のコントロールにも関わっていますから、運動野や前運動野が動き出すことで発火するのです。

■脳を活性化させる「オノマトペ」

このとき、オノマトペ(擬声語、擬態語)を織り交ぜると、より脳が活性化することがわかっています(図参照)。

さて、ここまで説明してきたものの、実のところ、私はこのあなたの悩みにやる気は不要なのではないかと感じています。20年以上同じ仕事をしているような50代の方の場合、ルーティンになっている仕事はやる気の有無にかかわらずできてしまうからです。

そもそも常にやる気のある状態は普通ではありません。野生動物でも、獲物を追いかけたり、追いかけられたりしているとき以外はのんびりしています。そう考えると、やる気が出ないと悩むのは無駄です。ベテランの余裕を見せながら、やる気を出さずにさっさと仕事を終わらせましょう。

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篠原菊紀
公立諏訪東京理科大学教授
脳科学者。遊び中、運動中、学習中などの脳活動を調べ、脳トレへの活用や依存症の予防などを研究する。著書に『「すぐにやる脳」に変わる37の習慣』ほか多数。
 

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(脳科学者 篠原 菊紀 構成=干川美奈子 撮影=葛西亜理沙 編集=高嶋ちほ子、干川美奈子)