-芸能人。

それは選ばれし一部の人しかなれない、煌びやかな世界で生きる人たちのこと。

東京という街は、時に芸能人と出会うチャンスに溢れている。

テレビの中の人物が、ある日突然、レストランで隣の席に座っていることもある。

東京には、夢が溢れている。ドラマのような出会いが、実際にある。

IT社長として財を成した中澤隼人(35歳)も、そんなドラマのような体験をした一人。

平凡な毎日が、今をときめく女優・悠美(ゆうみ)と出会ったことで人生が動き始めるが・・・


東京は、芸能人ともすぐにLINEで繋がれる街


-どうしようかなぁ。

さっきから、僕はソファーに寝っ転がりながら携帯を見つめている。かれこれ、5分くらいこうしているかもしれない。

昨日の食事会にいた悠美。

その華やかさと芸能人のみが発することのできる独特のオーラにすっかり魅了されてしまったのだが、僕のような一般人が、彼女みたいな存在を食事に誘うことなんて許されるのだろうか。

弘人先輩が作ってくれたグループLINEは、モデルの亜弥と女子アナ、そして女優の悠美と、何だか豪華すぎてよく分からないラインナップになっている。

-俺が、もっと遊びなれていれば良かったのになぁ。

こういう時、モテる男はどんなLINEを送るのだろうか。計算やコードを読むことは得意だが、女性の心はよく分からない。

メッセージを何度か作り直し、ようやく送れたのは“昨日はありがとうございました、楽しかったです”という何のひねりもない普通の文章だった。

-返信とか、ないだろうな。

そう思っていた。しかし、意外にも2時間後に返信が来たのだ。それも、驚くべき内容と共に。


まさかの悠美からの返信が!しかもその内容とは…!?


-悠美:昨日はありがとうございました。楽しかったですね(^^)よければ、またご飯でもいきませんか?

2時間後。PCで開いていたLINEのポップアップ通知に入ってきた悠美からの返信に、僕は思わずキーボードを打つ手が止まった。

まさかの返信があった上、これは食事に誘われている?

頭の中が"?”で埋め尽くされつつ、僕はすぐに返信を打った。

-隼人:是非ぜひ。悠美さんのご都合の良い日を教えてください。

しかし、その返信は3日間来なかったのだ。




僕はその3日間、悶々としていた。

文章がダメだった?それともただの社交辞令で、本気になって誘ったら引かれた?

周りに僕のような人間はたくさんいるだろう。だからこそ、突然食事に誘うなんて無礼だったのかもしれない。

ーでも、特別扱いするのも変だしなぁ・・・

そんなことばかり考えていたが、3日目の夜に彼女から来た返信を見て、僕は一人部屋の中でほっと胸を撫でおろした。

-悠美:スケジュールが見えなくて、返信遅くなってごめんなさい。そしたら、来週火曜はどうですか?日中に雑誌の撮影が入ってるだけなので、夜は空いてます。

偶然にも、付けっ放しにしていたテレビには、彼女が出ているCMが流れていた。

一人暮らしなのに無駄に大きい80インチのテレビ画面の向こう側から、“爽やか、爽快”と言いつつ微笑んでくる悠美。

きっと、この東京には僕の知らない世界がまだまだある。

だって沢山の芸能人が、意外に身近なところで遊んでいるのだから。

芸能人の輪というものがあり、そこに一度入り込むと数珠繋ぎに次々と繋がっていくのを、最近実感することが多くなっていた。

特に西麻布には、某事務所に所属する男性アイドルに気に入られようと、彼らが集う飲み会に参加できるように日々ネットーワーク作りに勤しむ、売れない女優やタレントの卵がいる。

そしてその男性アイドルや俳優の側にはそういった類の女性達だけでなく、僕のようなIT系の社長もいれば、不動産系など、無駄に羽振りの良い男性経営者も多い。

僕は、その一部に見られることが物凄く嫌だった。

-チャラついておらず、かつお洒落でプライバシーが守られてデートっぽい店ってどこだろう・・・

散々悩んだ挙句、僕はとある店を予約したのだ。


女優とIT社長の初デート。隼人が選んだのは、西麻布のあのお店だった


結局、僕が予約したのは『アズール エ マサウエキ』の個室だった。

ここの個室は店奥にあるが、店員さんたちの対応や気遣いが素晴らしいので、きっとうまくしてくれるに違いない。そう思い、この店にしたのだ。




そして待ち合わせ時刻から10分遅れて、悠美はやってきた。

「お待たせしてごめんなさい」
「いや、大丈夫だよ」

悠美は今日も帽子を深くかぶりマスク姿だが、その美しさは隠しきれていない。

“ずっと人に見られている”ということは、ここまで人を輝かすのだろうか。

肌は陶器のように綺麗で、レフ板を当てているかのように輝いている。かなり薄化粧ですっぴんに近いはずなのに、惚れ惚れとするほど美しい。

物凄く彫りが深い訳でもない。だが彼女は、僕の視線を捉えて離してはくれないのだ。

「悠美ちゃんは、お酒は飲むの?」

目の前に座る彼女の透明感に感嘆しつつ尋ねてみたが、女優さん達は厳しく節制しているイメージがあり、お酒は飲まなそうだ。ご飯だって、雀の涙くらいしか食べない気もする。

しかし、悠美は良い意味で僕の想像を裏切ってくれた。

「実は、お酒好きなんですよね。でも明日撮影だから…1杯だけいただこうかな」

そして意外にも、悠美はよく食べた。何よりも、よく笑う子だった。

「悠美ちゃんって、意外に人間なんだね」
「どういう意味ですか?(笑)」

こうして食事をしながらも、僕の心はフワフワと浮いている。

「そう言えば、この前一緒にいた亜弥が言ってました。隼人さんって、すごい方なんですね」

“いや、全然だよ”と否定しながらも、前回の食事会にいたとんでもなく脚が長いモデルの亜弥から、LINEが来ていたことを思い出す。

「でも20代で成功されて、更に今の会社もまた上場間近なんですよね!?私はそういったことに疎くてその凄さがよく分からないのですが・・・亜弥が大絶賛していましたよ!」

悠美のキラキラした瞳が眩しい。

いつもなら肩書きに寄ってくる女性が嫌なのに、今は僕の方が悠美の“女優”という肩書きに魅せれられているような気もする。

ーだがもし仮に、僕がIT社長で財を成していなかったら、彼女はこうして食事に来たのだろうか・・・?

そんなことを考えていると、悠美の黒目がちな瞳にまっすぐ見つめられる。

「隼人さんって、すぐにそうやって何か一人で考え込む癖がありますよね?」

悠美の笑い声が個室に響き渡る。なんだか、心地の良い時間で、僕も思わず笑顔になった。

きっと、僕は考えすぎなのだろう。

「亜弥から連絡来ました?」

そんな中、悠美からの質問に、僕はなぜか咄嗟に嘘をついてしまった。

「いや、来てないよ」

少しだけ胸がザワっとしたのは気のせいだろうか。結局僕たちはすっかり話し込み、気がつけば時刻は23時を回っていた。

「お家、どこ?送っていこうか?」

しかし帰り際に送りのオファーを出すと、僕はアッサリと悠美から“シャットダウン”を食らうのだ。

「あ、それは大丈夫です。マネージャーの車があるので、それで帰ります。Uberも呼んでいただかなくて大丈夫です。あと、ここで解散でもいいですか?外で男性といる所を見られるとマズイので。今日はありがとうございました」

ハッキリとした口調に少し落ち込みかけていると、悠美はニコッと微笑んだ。

「次は、どこに行きましょうか?個室があればどこでも大丈夫ですので」

何が功を奏したのかは、分からない。だがこうして、驚くほど自然に僕と悠美の恋は動き始めたのだ。

▶NEXT:3月25日 月曜更新予定
始まった二人の恋・・・しかし悠美が隼人に近づいた目的とは!?


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