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 今年で91回目を迎える春の選抜高校野球。本連載では、「高校野球生き字引」MBS森本栄浩アナウンサーにセンバツの過去の名試合を振り返ってもらう。今回は、2018年3回戦・花巻東―彦根東の試合をピックアップ。9回まで無安打無得点の快投を演じた彦根東の増居。しかし、打線が援護できないまま延長に突入すると、大記録は途絶え、勝利を逃した。

彦根東・増居は5回まで完全投球

 40年ほど前、夏の甲子園で8打席連続安打の新記録を樹立した選手が、「新記録と言われても、試合に勝たなければ何の価値もありません」と話した。記録に価値がないとは思わないが、決して大げさなコメントでもない。それは野球が団体競技だからだ。たとえ、どんなに好投しようとも、何点取ろうとも、トーナメントの試合は負けたら終わり。それを痛感させられたのがこの試合だった。
 彦根東は前年夏の開幕試合で波佐見(長崎)に逆転サヨナラ勝ちして、春夏の甲子園で初勝利を挙げていた。エース左腕・増居翔太(3年)がこの大会も健在で、初戦で慶応(神奈川)を破って、センバツでも初勝利をマークし、2戦目となったこの試合では本領を発揮する。
 立ち上がりからコーナーいっぱいにキレのいい速球と変化球を投げ分け、花巻東打線につけ入るスキを与えない。スコアボードの花巻東の安打数は「0」のままだ。しかし、両校の得点も、延々と「0」が続いた。
 彦根東は初回の攻撃で大きなチャンスを逃していた。花巻東の先発・新田大智(3年)が先頭打者に死球を与え、次打者に2球投げただけで交代。代わった伊藤翼(3年)はウォームアップ不足だったが、強攻策が裏目に出て併殺。これで伊藤を立ち直らせてしまい、4回に中軸の連打で迎えた好機でも併殺と、なかなか増居を援護できない。それでも増居は淡々と投げた。5回まで一人の走者も許さない「完全投球」で、赤一色に染まった彦根東のスタンドは大記録への期待にあふれた。

大記録逃すも、記憶に残る名投手

 6回が試合の分岐点だった。先頭打者が出塁した彦根東は、1死3塁として、スクイズで先制点を狙う。ここで花巻東は、一塁手の上戸鎖飛龍(3年)が猛チャージして阻止し、併殺に仕留めた。展開の上でも最大のポイントだった場面だ。その裏、増居は2死から9番打者に四球を与え、初の走者を許す。ここは三振で難なく切り抜けたが、中盤から球が走り出した半面、力みが目立ち、球数が増え始める。
 9回の攻防も見ごたえがあった。彦根東は好機で4番・高内希(3年=主将)に回す。初戦で逆転本塁打を放った強打者を敬遠した花巻東は、次打者を打ち取って切り抜ける。花巻東も四球の2走者を置いて3番・阿部剛士(3年)という一打サヨナラの場面を迎えたが、増居が渾身の速球で14個目の三振を奪い、0−0のまま延長に突入した。9回で終わっていればまぎれもない「無安打無得点」の大記録だが、試合は続く。そして10回裏、初安打を許した増居は精魂尽き果て、サヨナラ負けを喫することになる。増居は、大記録を逃したが、すべてのファンの「記憶」に残る名投手だった。
 この試合は、彦根東が1点でも取っていればという見方はできるが、増居の無安打投球は緊迫した展開が生み出したとも言える。一方、花巻東は終盤、後攻の優位性を存分に生かした。9回の守備にそれが表れている。彦根東の打者に焦りが見られたのとは対照的だった。終始、押しまくられていたが、そこは大谷翔平(エンゼルス)、菊池雄星(マリナーズ)のメジャーリーガー2人が巣立った名門。要所での洗練された守備力は、常連校だからこそなせる業でもあった。
 それにしても、彦根東ほど「文武両道」という言葉が当てはまる学校はない。平成21(2009)年、21世紀枠で出場して以来、「実力」で3度、甲子園出場を果たした。多くの21世紀枠経験校が、それ以降、甲子園から遠ざかっている中で、以前よりも力をつけている学校は彦根東を置いてほかには見当たらない。選手たちは朝7時に登校し、予習をしてから授業に臨む伝統を継承している。増居は、京大の理系にも合格できるほどの学力があると言われていたが、大きく飛躍したこの大会を機に、大学でも野球を続けることにしたようだ。慶応で六大学のエースをめざす。強豪私学全盛の甲子園にあって、彦根東のようなチームは貴重な存在である。次回の登場を、ファンは心待ちにしているはずだ。

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第90回選抜高等学校野球大会(2018年・3回戦)花巻東(岩手)×彦根東(滋賀)の試合の動画はこちらから!

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