ルノー、日産、三菱3社が握手を交わした。日産自動車西川廣人社長兼CEOには珍しく笑顔が浮かんだ。左からルノーのティエリー・ボロレCEO、ジャンドミニク・スナール会長、日産の西川社長、三菱の益子修会長兼CEO(写真:大澤誠)

「対等なパートナーシップで、日産にとって大きなステップだ」

フランスのルノー、日産自動車、三菱自動車の3社連合は3月12日、提携戦略を協議する組織「アライアンス・オペレーティング・ボード」(アライアンス・ボード)を今春にも新たに設立すると発表した。3社トップが初めてそろって臨んだ記者会見で、日産の西川廣人社長は冒頭のように強調。普段は表立ってほとんど見せない笑顔も垣間見え、日産にとって長年の悲願である「対等な関係」に向けて一歩を進めた満足感を漂わせた。


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西川社長が笑顔を見せた第一の理由は、日産会長の地位をルノー側から取り戻したことにある。12日に調印された3社による覚書では、アライアンス・ボードの議長はルノー会長が務めると明記。ここではルノーと日産の連合統括会社「ルノー日産BV(RNBV)」の会長にはルノー側が就くと定めた従来方針を踏襲した。その3社覚書に従い、初代議長にはルノーのジャンドミニク・スナール会長が就任する。

ルノー会長は日産の副議長に

その一方で、覚書には「ルノーの会長が、日産の取締役会副議長(代表取締役)に適した候補者であると想定される」とも明記。裏を返せばルノー会長が日産会長を兼任する前例を踏襲しないことになる。4月8日の日産臨時株主総会で取締役に就任する予定のスナール氏も「私は日産の会長になろうとは思っていない」と明言した。

1999年に日産がルノー傘下に入ってから、日産会長の席にはほとんどの期間、ルノー出身のゴーン氏が座っていた。逮捕されたゴーン氏を昨年11月に会長職から解任して以降、ルノーは引き続き日産会長の座を要求し、それを拒否する日産との間で応酬が続いていた。

日産にしてみると、日産に43.4%を出資するルノー側にアライアンス・ボード議長を譲り、日産会長を取り戻すことができた。まさに名を捨てて実を取ることになる。両社間の協定である「改定アライアンス基本合意書(RAMA)」では「ルノーは日産COO以上の役職を推薦できる権利を持つ」との規定があるが、取締役会副議長でもその規定を満たすことが可能だと判断したとみられる。

ただ、日産は現在、ゴーン氏の不正を許した企業統治(ガバナンス)について、専門家による特別委員会に改善策の検討を委ねており、そこでの議論には会長職のあり方も含まれている模様だ。会長が従来務めていた取締役会議長について、社外取締役に担わせることを提言する方向であるとの観測も浮上しており、会長職の行方は依然として流動的だ。

一方、ルノーの筆頭株主であるフランス政府が要求する3社による経営統合問題については、当面は棚上げにしようとする各社の姿勢が明確になった。12日の会見ではアライアンス・ボードが将来的な経営統合に向けたステップではないかといった趣旨の質問が相次いだ。スナール氏は「今日のポイントではない」としながらも、「株式持ち合いや資本構成にはまったく影響がない」とも回答。新組織設立が経営統合に直結するものではないと示唆した。西川氏も「(経営統合の議論は)数カ月後に来ることはない」と述べた。

その理由には、経営統合や資本構成見直しの議論を始めれば、経営の自主性や独立性を重視する日産・三菱自と、フランス政府の意を受けて統合を求めるルノーとの間で対立が再燃しかねないためだ。ゴーン氏逮捕以降の混乱によって、連合内での協業が停滞するなど業務面でも影響が顕在化しており、3社とも関係の修復を進めてまずはグループのシナジー創出を優先させたい考えだ。

今後の意思決定は合議制に

今後は、ゴーン氏に権限が集中して実質的に一人で連合を主導してきた「独裁体制」から決別し、アライアンス・ボードでの合議によって提携戦略の決定をしていく方針だ。連合内に複数あった組織や会議体をアライアンス・ボードに集約して簡略化することで、意思決定を迅速化させることを狙いとしている。ゴーン氏が2014年以降進めてきた研究開発や人事、購買などの各社の機能を統合していく戦略についても、アライアンス・ボード内で問題点を整理し、修正していくとみられる。


ルノーのスナール会長と言葉を交わす西川社長(撮影:大澤誠)

ただ、絶対的な権力をもとに連合の戦略を差配してきたゴーン氏を追放し、「4人(ルノー会長とルノー、日産、三菱各社のCEO)の合意をベースとする」(スナール氏)方法に改めることは、連合の意思決定のスピードが遅くなるリスクもはらんでいる。3社の利害は必ずしも一致するわけではなく、利害が対立した場合にどこまで合理的な決定ができるか。

合議制はゴーン独裁体制の反省を生かそうと考え出されたスキームではあるが、電動化や自動運転などの分野でIT大手も巻き込んだ異次元での競争が本格化する中、意思決定の遅れは連合にとって命取りにもなりかねない。