菊池雄星インタビュー(前編)

 花巻東高時代からメジャーへの憧れを抱き続けていた菊池雄星が、ついにその夢を叶えた。オフにポスティングでのメジャー移籍を表明し、菊池が選んだチームはシアトル・マリナーズだった。メジャーのユニフォームに袖を通した今、何を思うのか。メジャー挑戦までの経緯、マリナーズに決めた理由、すべてを語った。


ポスティングによりマリナーズ入団を果たした菊池雄星

── ついに夢が叶いました。メジャーに来て、今、どんなことを感じていますか。

菊池 ホントですね……プロに入って5年目ぐらいまでは、メジャーへ行けるなんて思いもしませんでした。日本で一軍にいられるかどうか、ライオンズでローテーションを守れるかどうか、いかにして2ケタ勝つか、みたいなところで戦っていた時は、高校の時にメジャーへ行きたいと思っていた気持ちにフタをしていましたからね。ケガもありましたし、ほかにもいろいろあって……もうメジャーはあきらめなければならないのかな、と考えていた時期が長かったように思います。

── そのフタをした気持ちは、その後、自然とフタが開いていたのか、それとも何かをきっかけに自分でもう一度、フタを開けたのか、そこはいかがでしょう。

菊池 心の奥底ではずっと行きたかったんですけど、今の実力じゃ無理だという状態が続いていました。それが6年目のオフ、ドジャースタジアムへ行ったことがきっかけで気持ちが大きく揺り戻されたんです。あの時から「行きたい」という気持ちが、「絶対に行くんだ」という思いに変わりました。(2015年の)メッツ対ドジャースのディビジョン・シリーズだったんですけど、その試合をスタンドで観ながら、「やっぱり僕もここでやらなきゃ」と痛感したんです。もう、ゾクゾクっと全身に震えがきて、アメリカに来なければ僕の野球は終われない、ということを本当に感じました。

──  覚えているシーンはありますか。

菊池 僕はクレイトン・カーショウ(ドジャース)みたいに投げたいと、ずっと思ってきました。そのカーショウのキャッチボールをスタンドの最前列で見ながらそれだけでドキドキして、そのあと、試合で投げるカーショウのピッチングも見ました。僕、たとえば何かを食べたいと思った時、「カーショウだったら何を食べるだろうか」といちいち考えて、常にカーショウをイメージしながら行動してきたんです。でも、あの雰囲気のなかでのピッチング、とてもマネのできる次元じゃないなと思い知らされました。

── なるほど、つまりドジャースタジアムの熱気、カーショウのピッチングが、フタをしていたメジャーへの思いに火をつけたと……。

菊池 そのシーズンは、9勝で終わっていたんですけど、ドジャースタジアムで「フタしている場合じゃない、やっぱり行かなきゃ」という気持ちになって、日本に戻ってから契約更改で初めて球団に気持ちを伝えました。メジャーへ行きたいですって。

── 高校時代、菊池投手を熱心に追いかけていた小島圭市さんは当時、ドジャースのスカウトでした。プロに入ってからもドジャースのカーショウ投手に憧れていて、それでも今回、マリナーズを選んだのは何が一番の理由だったんですか。

菊池 やっぱり最初にオファーをいただいたこと、それから一番高く評価していただいたこと、僕のことを一番必要としてくれていると感じさせてくれたこと。なにしろ、ローテーションの軸として回ってくれることを信じているとハッキリ言っていただきましたから……それとすごく魅力的だったのはイチローさんが同じチームにいるということです。あとは起用法に関する緻密なプランニングを説明してくれたことも大きかったと思います。すべてにおいて、マリナーズがダントツでした。

── 思えば高校を卒業する時にもドジャース、マリナーズ、ヤンキース、レッドソックスなど、メジャー8球団の話を聞いているんですよね。

菊池 高校の時はどこの球団も、具体的な話というより「アメリカはハンバーガーだけじゃないよ」みたいな感じのところからスタートしていました(笑)。日本で伝えられているような環境じゃなく、マイナーであってもきっちり食事もサポートして、言葉の面でもサポートしますという話でしたけど、今回は具体的なイニング数や、無理をさせずに少しずつアメリカの環境に慣れさせていこうというプランを考えてくれていて、説明はかなり具体的でしたね。


メジャー1年目からロテーテーション入りの期待がかかる菊池雄星

── イチロー選手への思いも強かったんですか。

菊池 僕、小学校3年生の時、岩手の盛岡(岩手県営野球場)でオリックス時代のイチローさんのプレーを目の前で観ているんです(2000年6月6日、オリックス対ダイエー)。あの年、イチローさんが日本でプレーした最後のシーズンでした。その頃からテレビのドキュメンタリーや本……イチローさんに関するものはほぼほぼ全部、見たり読んだりしてきました。でも、今までに一度も直接、お目にかかったことがなかったので、僕のなかでは想像の世界の存在だったんです。

── 初めて会った印象はいかがでしたか。

菊池 それはもう、本当に実在したんだという……(笑)。

── この先、どんなことを訊いてみたいと思っていますか。

菊池 いっぱいありますね……山ほどありすぎて、ルーティンのこと、トレーニングのこと、物事に対する考え方、取り組み方の工夫、いろんなことを訊いてみたいんですけど、でも、緊張します。まずは自分のロッカー、きれいにしとかなきゃいけないですね(笑)。

── 起用法に関して、日本では最後まで投げるのは当たり前、人に譲りたくないし試合終了のガッツポーズが最高の喜びだという話を以前してくれましたが、それはアメリカではシステムから考えても難しいという感覚はありますか。

菊池 そうですね。1年を通して一定のパフォーマンスを出し続けることがもっと難しくなる環境で、完投は……もちろんできればいいんですけど、メジャーで求められているのはそこではないと思うので、僕も気持ちをシフトしていかないといけないなと思っています。

── ピッチングは、日本で磨いて積み重ねてきたものをそのまま向こうで試してみたいと思っているか、それともメジャーにアジャストすることだ大事だと考えているか、そのあたりはどうお考えですか。

菊池 今までやってきたことを評価していただいてマリナーズに入ることができたので、今からベースを変えることはあまりしたくないと思っています。ただ、足りないことや新しく気づいたことがあれば、そこは今までがこうだったからというのはナシにして、自分のものとして付け足していけばいいとも考えています。

── 実際、それぞれの球種に対する手応えはいかがですか。

菊池 スライダー、カーブに関しては、ストライクを取れる感覚はあります。スライダーはファウルを打たせてカウントを取る曲がりの小さいのと、三振を取るための曲がりの大きなのを投げわけています。そこにチェンジアップを右バッター、左バッター関係なく投げられればピッチングの幅が広がるんだろうなと思っています。チェンジアップは日本にいたときからの課題ですし、メジャーだからということではなく、毎年の僕の宿題です(笑)。

── フォークに取り組んでいたこともありましたね。

菊池 そうですね。カーブ、スライダーは右バッターの懐に入っていく球なので、そこに逃げる球があればと思うことは多いんですよね。フォークでもチェンジアップでもシンカーでも、何でもいいんですけど、落ちる球は必要になってくると思います。チェンジアップは腕が振れれば振れるほど引っかけちゃったりするんで、難しいんですよ。

── メジャーのボールを握った感覚はいかがですか。

菊池 やっぱり滑ります。滑るので、最初の段階でボールが手から滑り落ちないように少しだけグリップが強くなっている感じはあります。日本の時はボールが手に吸いついてくれるので脱力できるんですけど、それができないのが……。

── そうして1球1球、ほんの少しだけグッと力を入れて強く握らなければならない積み重ねがヒジに負担をかけているという話も聞きますが、そこはどう対処しようとお考えでしょうか。

菊池 そこは、やるしかないということです。ケガをしないための最善の努力をしていくしかありません。日々のケアを怠らず、トレーナーさんと連携しながら、そういうボールを使う環境でやるんだから、と覚悟しています。

後編に続く