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 今年で91回目を迎える春の選抜高校野球。本連載では、「高校野球生き字引」MBS森本栄浩アナウンサーにセンバツの過去の名試合を振り返ってもらう。今回は、2016年準々決勝・秀岳館―木更津総合の試合をピックアップ。1球の判定が完封目前の投手を動揺させ、勝敗を分ける。あと1球のストライクが取れず逆転を許した悲運のエースの熱投が光った試合だ。

名監督の秀岳館が好左腕とぶつかる

 高校野球は1球で流れが変わる。勝利目前であとアウトひとつが、1球のストライクが取れず涙を流したチームがこれまでにいくつあったことか。緊迫の投手戦が1球で明暗を分けた好ゲームだった。
 秀岳館は、長くNHKの高校野球解説で親しまれた鍛治舎巧氏が率いる注目チームだった。鍛治舎氏は、県岐阜商で4番エースとしてセンバツに出場し、センバツ100号の本塁打を放った。早大でもスラッガーとして活躍したが、卒業時に阪神からの指名を拒否し、松下電器(現パナソニック)に進んだ。アマ野球一筋で監督も務めたが、企業人としても成功し、大企業の重役にまで上りつめた人だ。少年野球の指導もしていたが、教え子の多くを熊本に引き連れて作り上げたのがこのチームだった。予想通り秀岳館は躍進し、秋の九州大会で優勝。センバツでもここまでの2試合でチーム打率.394、3本塁打と猛打をほしいままにしていた。
 対する木更津総合は、好左腕・早川隆久(3年 現早大)が好調で、前の試合では大阪桐蔭に完勝。45年ぶりにセンバツ8強進出を果たしていた。早川は、桐蔭戦で帽子のツバに「打倒 大阪桐蔭」と書いて試合に臨んだが、実際は闘志を内に秘めるタイプで、冷静な投球ができる。この試合は、「早川対秀岳館打線」という構図ができ上がっていた。
 2試合連続完投の大黒柱・早川に対し、多彩な投手陣の秀岳館は、この試合、184センチの大型右腕・有村大誠(3年)を先発に立てた。有力校の花咲徳栄(埼玉)との初戦では「抑え」で起用され、鍛治舎監督の期待に応えていた。序盤3回までは互角の投手戦で、木更津総合にとっては期待通りの展開と言える。そして4回、攻撃が二巡目に入ったところで、早川に援護点がもたらされる。1番・峯村貴希(2年)が出塁してチャンスを広げ、2死から4番・鳥海嵐万(らんま=3年)が鮮やかに三遊間を突破。峯村が生還し、木更津総合が先制した。
 直後の4回裏、秀岳館も先頭の3番・木本凌雅(2年)が二塁打ですかさず同点の好機を迎える。ここは早川が踏ん張って、同点を許さず、1−0のまま淡々と試合は進行していった。早川の好投は当然としても、秀岳館は有村の力投が最終盤に生きることになる。継投を想定していた鍛治舎監督にとっては期待以上だっただろう。8回に代打を送られるまで、6安打1失点で先発としての役目を果たした。

完封目前のエース 1球で暗転

 そして9回裏、ここまで早川にわずか2安打と抑えられてはいたが、秀岳館は2番からの好打順に望みを託した。先頭の原田拓実(3年)が四球で出て、木本が送り同点を狙う。4番は強打の九鬼隆平(3年=主将 現ソフトバンク)だ。いい当たりだったが一塁手の正面で2死となる。それでも三塁に走者が進み、早川にプレッシャーをかけると、早川は5番・天本昂佑(3年)には3ボール1ストライクと慎重になってしまう。ここで木更津総合の五島卓道監督がひと呼吸入れると、早川は気を取り直し、フルカウントから渾身の直球。誰もが三振と思った瞬間、球審の手は上がらず、逆転の走者が出塁した。早川の球があまりに良すぎて、打者は手が出ず、球審も手を挙げられなかったのではないか。気落ちした早川はそのあと連打を浴び、無念の逆転サヨナラ負けを喫してしまう。
 たった1球が勝敗を分けた試合だが、判定は人がすることだから仕方がない。これも高校野球。早川は悔しさをバネに、早大でも1年から主戦級の活躍をしている。

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第88回選抜高等学校野球大会(2016年・準々決勝)木更津総合 (千葉) × 秀岳館 (熊本)の試合の動画はこちらから!

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